• SOCIAL
  • NEWS
  • 2024.08.23

イサム・ノグチ庭園美術館の「ケフィエ禁止令」に従業員らが抗議。「来館者への配慮」が逆効果に

ニューヨークのクイーンズにあるイサム・ノグチ財団・庭園美術館(以下、ノグチ美術館)の職員たちが、ケフィエの着用を禁ずる同館の新たな服装規定に対する抗議として、ストライキを行った。同館では8月15日にも同様の抗議行動が行われている。

ニューヨークにあるイサム・ノグチ財団・庭園美術館の外観。Photo: James Leynse/Corbis via Getty Images

ニューヨークのクイーンズにあるイサム・ノグチ財団・庭園美術館(以下、ノグチ美術館)は8月14日、同館の職員がケフィエ(*)を着用して勤務していることを懸念し、ケフィエの着用を禁ずる新たな服装規定を制定した。これを受けて、同館で働くおよそ70人のうち50人ほどの職員が「ノグチミュージアムライツ」という団体を結成し、美術館の上層部にこの方針の撤回を求める嘆願書を提出、ストライキを行なった。同館では8月15日にも同様の抗議運動が行われている。

* ケフィエ(keffieh、または、kafiyyeh)とは、中東各地で着用されている伝統のスカーフで、近年ではとくにパレスチナの民族的アイデンティティーや抵抗を象徴するものとして捉えられることが多い。

8月19日に提出されたこの嘆願書で、ノグチミュージアムライツは、ケフィエの着用を許可すること、そしてこの抗議行動に参加した職員に対する懲戒処分を行わないことも要求している。同団体の広報担当者によると、今回のストライキには、美術館とショップで働くスタッフ全員が参加しており、警備スタッフや外部スタッフが彼らの穴埋めをしたという。

ノグチミュージアムライツは声明の中で、職員はケフィエ着用禁止を「検閲」であると断じ、イサム・ノグチの人生とレガシーを考えると「特に憂慮すべき」ことだと指摘。ノグチ自身、日系アメリカ人として激しい差別に遭い、第二次世界大戦中には投獄を免れたにもかかわらず自らアリゾナ州にあるポストン戦争移住センターに入所し、人道に対する罪といった政治的テーマを作品の中で直接的に扱ってきた。

同じ声明では、「上層部はこの規定を中立的な立場を取ろうとして制定したが、明らかに反パレスチナ的だ。ケフィエ禁止令は、パレスチナ人の同僚を支援できないだけでなく、黒人従業員に対する攻撃でもある」とも述べられている。

ケフィエ禁止令は「中立的な環境を維持するため」

US版ARTnewsが確認したところでは、8月15日に館長のエイミー・ハウが従業員に送った内部メールの中で、ハウと理事会が美術館を8月16日から18日まで休館することを決定したことが通知された。ハウはこの臨時休館を「リセットと再充電の機会」であると説明しており、さらに、美術館の上層部はこの新たな服装規定に対するスタッフからの「フィードバック」を確認しており、スタッフたちの懸念について議論する予定だと書いている。

しかし、ハウは8月21日にも社内メールを送り、その中で、ケフィエ禁止令は撤回されないことを伝えている。

「仕事以外の場で個人的な信条を表現する権利は尊重し、支持しますが、仕事の際は、同館の最新の服装規定を遵守するようお願いします。この規定とは、『中立的でプロフェッショナルな環境を維持するため、従業員が政治的メッセージ、スローガン、シンボルを表示する衣服やアクセサリーを着用することを禁じます。これには、政党、候補者、イデオロギー運動を宣伝するアパレルやアイテムも含まれますが、これらに限定されません』というものです」

さらにこの規定では、「従業員の外見は職場に混乱を生じさせてはならない」とも書かれている。

ノグチ美術館の広報担当者はUS版ARTnewsに対し、こう語る。

「私たちは、個人的な表現と公的な言論がしばしば予期せぬ形で交差する、複雑で困難な時代に生きていることを自覚しています。最近、美術館の職員が仕事中にケフィエを着用していることに懸念の声が上がりました。我々は、この衣服の着用が個人的な意見を表明するためのものであることを理解していますが、このような表現がノグチ美術館の多様な来館者の一部を意図せず疎外する可能性があります。私たちは、美術館がすべての来館者を受け入れることを保証することが、公共の文化施設としての義務であると考えています」

対応に追われる全米の美術館

パレスチナ保健当局によると、10月7日のハマスによるイスラエルへの攻撃以来、イスラエルによるガザへの空爆と地上攻撃により4万人の命が奪われた。この状況を黙認しているとして、ニューヨークをはじめとするアメリカのアート施設はパレスチナ支持派による批判に直面してきた。メトロポリタン美術館(MET)からブルックリン美術館に至る美術館の上層部は、観客の懸念への対処に追われており、それが新たな危機にもつながっている。例えば今年3月、ニューヨーク近代美術館(MoMA)は、同館の警備員がケフィエを持った2人の来館者に入館を禁じたことを謝罪した。2人のうちのひとりはブルックリンを拠点とするライターのパク・ジョヒョン(Ju-Hyun Park)で、かれはX(旧Twitter)でこの件について、「恥知らずで人種差別的な反パレスチナ政策」と断じた。

MoMAは当時、声明を通じて、「入手可能なすべての情報を収集した結果、訪問者のバッグの中に入っていたケフィエが抗議行動で用いられる横断幕と誤認されたことがわかりました」と述べていた。同館では今年2月、500人以上のデモ参加者がロビーを占拠し、パレスチナのための抗議行動を行っていた。

一方、パレスチナを公に支援しているアーティストやキュレーターの中には、自分たちのイベントや展示が同意なしに中止あるいは変更されたり、レジデンスのオファーが取り消されたという者が少なくない。こうした状況を受け、ニューヨークを拠点とする非営利団体「検閲反対全国連合」(NCAC)は5月、「Art Censorship Index」を発表した。それによれば、ピッツバーグのフリック美術館がイスラム美術展を延期したことや、インディアナ大学のエスケナージ美術館がパレスチナにルーツを持つアーティスト、サミア・ハラビーの回顧展の一部を中止したことなど、複数の事例が挙げられている。(翻訳:編集部)

from ARTnews

あわせて読みたい

  • ARTnews
  • SOCIAL
  • イサム・ノグチ庭園美術館の「ケフィエ禁止令」に従業員らが抗議。「来館者への配慮」が逆効果に