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NFTアートのマーケットプレイスに転機。暗号資産相場の下落で相次ぐ方針変更

暗号資産(仮想通貨)の相場が低迷している。NFTの売買で一般的に利用されるイーサリアムも例外ではない。6月3日には1800ドルを下回ったが、これは約1年ぶりの低値で、4000ドル台後半だった2021年11月のピークから大きく落ち込んでいる。これまで何回もの乱高下を乗り切ってきた暗号資産コミュニティでも、今回の下落には悲観的な見方が強まっているようだ。一方、NFTマーケットプレイスは、悲しんでいる暇はないとでもいうように新たな手を打ち始めた。

「NFTはダメな投資」が「NFTは良い投資」に書き換えられた落書き(ムンバイ) Sipa USA via AP

最近、ファンデーション(Foundation)、スーパーレア(SuperRare)、オープンシー(OpenSea)といった主要なNFTマーケットプレイスが、相次いで事業運営の大幅な方針変更を発表した。各社は、方針変更が市場の変化によるものだと明言しているわけではない。だが、その内容とタイミングから見て、現在の市場状況への対策で導入されたと考えていいだろう。

各マーケットプレイスの動きについて、まずはファンデーションから見てみよう。ファンデーションは、高品質な1点もののNFTに特化したNFTマーケットプレイスとして知られている。つまり、「Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ)」や「CryptoPunks(クリプトパンクス)」のような大規模なPFP NFTコレクション(*1)とは一線を画すものだ。


*1 PFP NFTとはプロフィール画像NFTの意味。ボアード・エイプやクリプトパンクスには、どちらも1万点の異なるデザインのキャラクターが存在する。
Foundationのトップ画面 画像引用元: https://foundation.app/

従来、ファンデーションでアーティストが作品を販売するには、既存ユーザーから招待される必要があった。しかし、ファンデーションは5月中旬に招待制の廃止を表明。その理由は、「閉鎖的なWeb2.0(現在のインターネット)から、自由で民主主義的なWeb3(ブロックチェーンなどの分散型技術で構築されたインターネット)への移行」と説明している。

しかし、招待されたアーティストのみが出品できるファンデーションの特徴は、オープンシーのように誰もかれもがNFTを出品できるマーケットプレイスとの明確な差別化要素だった。オープンシーは間口が広い分、取引高も大きいが、詐欺やハッキングなどユーザー確認の不備に起因する問題が多発している。しかし、市場が変化するにつれ、ファンデーションの特徴だったエクスクルーシブ性(排他性)が、かえって生き残りに必要な規模の維持を妨げるようになったようだ。

同時に、ファンデーションは新しいオペレーティングシステム(ファンデーション OS)構想に力を入れていると見られる。「新しいインターネットの構成要素」を掲げるこのOSは、いわば主要なサービスインフラとなるもので、ファンデーションがマーケットプレイスのために作り上げたデータ共有プロトコル(*2)をベースに構築されている。短期売買が不調な今、インフラ提供のほうが持続可能なビジネスだと考えているのかもしれない。


*2 プロトコルとは、コンピューター同士がネットワークで通信を行うための手順や規格といった決まり事のこと。

NFTマーケットプレイス、ラリブル(Rarible)の最高事業開発責任者であるスニル・シングビは、現在の状況では多様性を確保することが重要だと述べている(ラリブルは経営方針の変更を発表していない)。シングビはARTnewsに対して次のように語った。「我われのビジネスの中核にあるのはプロトコルだ。マーケットプレイスはプロトコルで構築されて大成功を収めた好例だが、マーケットプレイスと並行して構築したものは多々ある」

Raribleのトップ画面 画像引用元: https://rarible.com/

一方、スーパーレアは、自分たちの核心的な部分を変えることなく市場に対応できるとしている。ただ、CEOのジョン・クレインはARTnewsに対し、「スーパーレアは信頼の象徴だ」と答えつつ、新たな段階に進む必要があるとして次のように述べている。「マーケットプレイスを持つだけではもう目新しさはないし、NFTを作るだけではニュースにならない。今は、いかに付加価値を生み、ビジネスの範囲を拡大するかが問われている」

ファンデーションと同様、スーパーレアは、PFP NFTのようなコレクションものではなく、審査に通ったアーティストの作品を取引する場だった。また、従来セカンダリーマーケット(二次流通市場)はなかったが、現在はPFPとセカンダリーマーケット両方への拡大を模索している。

スーパーレアは、大規模なジェネレーティブNFT(*3)プロジェクトの作成を専門とするエイシンク・アート(Async Art)と組んで、初の本格的なPFP NFTコレクション「Across the Face(アクロス・ザ・フェイス)」の提供を始めた。これはナイジェリアのアーティスト、オシナチが、ルネ・マグリットの代表作《人の子》(1946)からインスピレーションを得て作ったものだ。《人の子》では中折れ帽をかぶった男の顔を青リンゴが隠しているが、のPFPも同じように、ハト、本、ルービックキューブなど、さまざまな物体が黒人の顔を覆い隠し、小物や背景色がランダムに組み合わされている。


*3 一般的なジェネレーティブNFTは、パーツに分けて画像データを作り、それをシステムで合成するもの。

スーパーレアの広報担当者はARTnewsのメール取材に対し、通常スーパーレアでミント(作成・発行)されるのは1日に20~30作品だが、エイシンク・アートとの連携で、より大きな負荷に対応できるようになったと答えている。実際、エイシンク・アートがミントした1000点のNFTは、スーパーレアを通じてセカンダリーマーケットでの売買が行われた。販売を厳重に管理することで、スーパーレアは自らのマーケットプレイスに過剰な負荷をかけることなく、提供する商品の幅を広げることができたわけだ。また今後、さらに大規模なコレクションをエイシンク・アートとのコラボで提供できるようになるという。

オシナチの作品 画像引用元:オシナチ公式インスタグラムhttps://www.instagram.com/__osinachi/

他のNFTプロジェクトやマーケットプレイスとは異なり、スーパーレアはNFT市場が今のように拡大する前からビジネスを展開してきた。そのため、これまで何年にもわたって低予算で運営されている。一方で、ブームが起きた2021年に誕生した多くのマーケットプレイスにとって、市場が大きく落ち込む中での運営は初めての経験になる。

「市場が強気な時に資金を得るのは簡単だが、暗号資産の新興企業に対するベンチャーキャピタルの出資額は2021年12月がピークで、その後は低下している」とクレインは言う。「現在の市場では、投資家は資金の使い道に慎重にならざるを得ないだろう。『そのアイデアはクールだ、資金を出すよ』なんてことは、もう起こらない」

NFTブームの波に乗って成長した新しいマーケットプレイスが、暗号資産の冬の時代を乗り切れるかどうかは誰にも分からない。特に、乱高下を繰り返し、次の瞬間には急騰するかもしれないような市場では、なおさら将来は不透明だ。

しかし、もしも倒産するには巨大になりすぎたマーケットプレイスがあるとすれば、それはオープンシーだろう。評価額130億ドルのオープンシーがNFT市場のトップにいることに異論はないだろうが、この巨大企業ですら変革を始めている。

ファンデーションやスーパーレアと違い、オープシーはエクスクルーシブ性よりも大量のユーザーを獲得することに重点を置いていた。おかげで市場シェア獲得は順調に進んだが、多くの暗号資産マニアは、そのためにサービスの質が犠牲にされたと考えている。オープンシーにとって、さらなる拡大への選択肢は多くなかったが、現在、ソラナ(Solana)という暗号資産でミントされたNFTにマーケットプレイスを開放し始めている。これは評価できるだろう。

テゾス(Tezos)と同様、ソラナはエネルギー消費の少ない暗号資産インフラであるため、環境負荷が少ないとされている。同じ理由から、ソラナのガス代(取引手数料)は、イーサリアムを利用する場合のガス代より格段に低い。

また、ソラナはイーサリアムよりもドル換算レートが低い。ピーク時の価格は約200ドルだったが、6月上旬時点では約40ドルまで下がっている(イーサリアムは同時点で1700〜1800ドル程度)。つまり、イーサリアムベースのNFT取引には多額の資金が必要だが、そこまでの負担を必要としないソラナのNFTを提供することで、オープンシーは新たなNFTコレクターを引きつけようとしているわけだ。ただし、オープンシー上のソラナNFTはまだベータ版で、試験運用の段階にある。

各NFTマーケットプレイスが取り組む戦略の有効性はどれも未知数だ。もしかしたら、市場が奇跡的に好転して、そんなことはどうでもよくなるかもしれない。もちろん、そうならない可能性もある。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年6月3日に掲載されました。元記事はこちら

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