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  • 2024.09.04

第3回フリーズ・ソウルが開幕! 編集部が厳選した必見の5作品

第3回フリーズ・ソウルが9月4日に開幕した。昨年同様、COEXを舞台に9月7日まで開催される本フェアには、世界30の国と地域から110を超えるギャラリーが参加し、初日にはアジアのコレクターが多数来場した。その中から、ARTnews JAPANが厳選した必見の5作品を紹介する。

ユン・ソクユル大統領の株価操作や夫人の高級バッグ収賄疑惑により、100万人を超える国民が弾劾訴追の請願に署名した韓国だが、同国のGDPは今年、2.5%の成長が見込まれており、昨年の1.7%から回復基調にある。また、モルガン・スタンレーによれば世界のラグジュアリー製品の世界最大の消費者は韓国の人々であるといい、2023年は前年から22%増となる168億ドル(約2兆4370億円)にものぼるという。一方、アート市場に目を向ければ、江南大学名誉教授のソ・ジンスがアートニュースペーパーに語った通り、現在の韓国アート市場は「全般的に低迷」傾向にある。その背景としてジンスは、アートフェアの来場者数は増加しているが、同国は未だ新型コロナウイルスのパンデミックの影響から脱せていないこと、そして、世界的な景気後退を挙げている。韓国のアート市場は急成長から成熟への移行の過渡期にあるという見る向きもあり、多くがこの市場のゆくえに注目している。

そんな中、3度目となるフリーズ・ソウルが9月4日に開幕した。今回は昨年同様、COEXを舞台に世界30の国と地域から110を超えるギャラリーが集結し、初日は主にアジアのコレクターたちで賑わった。日本からは、「ギャラリーズ」「フリーズ・マスターズ」「フォーカス・アジア」の3セクションを合わせると、タカ・イシイギャラリー小山登美夫ギャラリーナンヅカ、TARO NASU、SCAI THE BATHHOUSEMISAKO & ROSENをはじめ、合計14ギャラリーが参加している。

というわけで、ここからはARTnews JAPAN編集部が厳選した5つの必見作品を紹介していこう。(アーティスト/ギャラリーの順)

1. ルー・ヤン/PARCEL

Lu Yang《DOKU The Flow》(2024)

2012年以降にオープンしたアジアの10ギャラリーで構成される「フォーカス・アジア」セクションで、今年の「フォーカス・アジア・スタンド賞」に輝いた東京のPARCELは、上海と東京を拠点に活動し、自身も熱心なチベット仏教の実践者であるルー・ヤンによる日本のビデオゲームやアニメに大いに影響を受けた《DOKU The Flow》を展示。同作は99日までパリのフォンダシオン・ルイ・ヴィトンでも展示されている。3Dアニメーションで表現された約50分にもおよぶ壮大な物語の中で、主人公であり「既存のアイデンティティの概念を超越したハイブリッドな生命体」である性別のないアバター「Doku」(独生独死という言葉に由来)は、「六道」(地獄、餓鬼、畜生、修羅、人、天)を旅しながら、自身の五欲(財欲、性欲、食欲、名誉欲、睡眠欲)と対峙し、苦悶し、打ちのめされたり乗り越えたりしていく。本作は、サイバーパンクなアニメとして可視化されたイマーシブな経典のようであり、その鑑賞体験はある種の「修行」のようでもある。

2. トマス・サラセーノ/neugerriemschneider

Tomás Saraceno《Hybrid solitary solitary semi-social Almuredin built by: a solo Theridiidae sp. - three weeks, a solo Nephila senegalensis - five weeks, a duet of Cyrtophora citricola - six weeks》(2024/部分)
Tomás Saraceno《Hybrid solitary solitary semi-social Almuredin built by: a solo Theridiidae sp. - three weeks, a solo Nephila senegalensis - five weeks, a duet of Cyrtophora citricola - six weeks》(2024)

自身を「地球という惑星に生き、地球を越えて活動している」と説明するアルゼンチン出身のトーマス・サラセノは、作品制作を通じて、「人間中心の視点からの解放と多様な生命との共生」を模索している。ベルリンのギャラリー、neugerriemschneiderのブースで展示されている作品では、その長いタイトルが示す通り、サラセノの長年の相棒である「クモ」、それも、ヒモグモとジョロウグモ(それぞれ1匹ずつ)、熱帯テントウェブクモ(2匹)という異なるクモたちが、他のクモが作った巣に敬意を払ったり関与したりしながら創出した実に協働的な宇宙が、小さな黒い箱の中に実現されている。この驚きに満ちた美しい自然の協調と共存の痕跡を目の前に、争いの絶えない人間社会について考えざるを得ない。

3. コ・サン・クム/Gallery Baton

Koh San Keum《Square (Elizabeth Strout, Oh William!)》(2023)
Koh San Keum《Square (Elizabeth Strout, Oh William!)》(2023/部分)

ゲームのドット絵をほうふつとさせる白い点の正体は、直径4mmの人工パールだ。韓国のコンセプチュアルアーティストであるコ・サン・クムは、一時的に著しく視力が低下したときに目にした、光の点だけがぼんやりと見える視界を作品で再現してきた。彼女が題材とするのは、視力を失った自身を外の世界とつなてくれた小説や新聞、誌、エッセイといったテキスト。それぞれの文字を真珠に置き換え、非言語的かつ普遍的なシンボルへと変換している。鑑賞者がテキストの内容を知る唯一の手がかりとなるのは作品名だ。例えば《Square (Elizabeth Strout, Oh William!)》(2023)は、ピューリッツァー賞を受賞したアメリカの小説家、エリザベス・スプラウトの作品『ああ、ウィリアム!』の一節を題材にしている。意味のある文字から非言語的な球の羅列へと変えられる行為が、造形美としての作品への興味だけでなく、元になったテキストそのものへの興味も喚起する。

4. コーラクリット・アルナノンチャイ/Kukje Gallery 

Korakrit Arunanondchai《Nostalgia For Unity》(2024)

ニューヨークとバンコクを拠点に活動するコーラクリット・アルナノンチャイは、絵画だけでなく映像、インスタレーション、パフォーマンスなどさまざまなメディアを横断しながら作品を制作してきた。今回展示されている《Nostalgia For Unity》は、グローバリズムの象徴でもあるジーンズ上に描かれた絵画を一度燃やし、その様子を再び作品に取り込むことでつくられたもの。2つの土地の間で引き裂かれるようにして過ごしながら個人的な経験を多くの文化や宗教的モチーフとつなげながら表現してきた彼にとって、「火」は象徴的なイメージのひとつだ。すべてを燃やし尽くす火は創造と破滅の循環を表すものであり、死や革命、可能性などさまざまな意味へと開かれている。

5. イ・ジョンファン/Cylinder

Jonghwan Lee《Pulses in the Forest》(2024)

PARCELと同じく「フォーカス・アジア」セクションに参加したCylinderは、2020年設立ながらも昨年のフリーズ・ソウルでフォーカス・アジア・スタンド賞を獲得した新進気鋭のギャラリー。今回フィーチャーされたイ・ジョンファンは、木製のキャンバスに水彩で描かれたイメージをさらに“掘る”ことによって、複層的な作品をつくりだしている。さらに今回は複数の作品を組み合わせることで大きな作品が構成されており、メディウムとイメージはより複層的なものとなっていく。彼にとって制作とはただイメージを生み出すことではなく絵画を解剖・解体・調査するものであり、その終わりなきプロセスのなかからいくつもの作品がつくられていくという。

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