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九谷焼とアートを繋いだ伝説の作家、武腰敏昭の代表作を救え! 《望郷》再生プロジェクトが協力者を募集

2021年7月28日に逝去した九谷焼の巨匠、武腰敏昭の代表作の一つである壁面モザイク作品《望郷》が、建物の建て替え工事にともない取り壊されることになった。この作品を救うためのプロジェクトが協力者を募っている。

Photo: Junichi Okuyama / Courtesy of Fuyuki Takegoshi

九谷焼の巨匠、武腰敏昭が1983年に北國銀行・寺井支店のために制作した壁面モザイク作品《望郷》が、同行の建て替え工事にともない取り壊されることになった。

1940年、石川県能美市に生まれた武腰敏昭は、武腰泰山が江戸時代後期に創始した名門・泰山窯の三代目として九谷焼の発展に大きな貢献を果たす傍ら、伝統工芸の枠組みにとらわれることなく九谷焼の技法を用いた新しい表現に挑戦し続けたアーティストだ。また、九谷五彩で使用される赤・黄・緑・青・紫などの絵具に含まれる有害な鉛が描き手に及ぼす健康影響への懸念から、釉薬の改良は「今の時代を生きる作家の責任」であるとして、作家としていち早く無鉛釉薬の開発・普及に努めたイノベーターでもある。

武腰は「一窯一試(いちよういっし)」(窯を持つ陶芸家一人ひとりが、失敗を恐れずに新たな試みに挑むこと)を座右の銘として、自身が衝撃を受けたというインダストリアルデザインの父、レイモンド・ローウイの著書『口紅から機関車まで』にならい、「ぐい呑から環境造形まで」をスローガンに自らの創作を探究し続けた。

そんな武腰の革新性を物語る重要な代表作の一つである《望郷》が、建物の建て替え工事にともない取り壊されることを知った有志たちが、現在、必死の救出作戦に挑んでいる。

このプロジェクトを率いるのは、金沢を拠点に教育や福祉とアートをつなげる活動を展開してきた起業家でありアートコレクターの奥山純一だ。

奥山は現在、輪島の漆作家たちとともに、能登半島地震で破損した九谷焼や輪島塗、珠洲焼といった石川県の工芸品や、規格外や不完全とされる本来なら廃棄されるものを融合することで、新たなアート表現として命を吹き込むプロジェクト「Rediscover project」なども行なっている。今年11月2日から始まる金沢21世紀美術館「すべてのものとダンスを踊って―共感のエコロジー」展でも、この取り組みから生まれた作品を発表するという。

《望郷》のクローズアップ。Photo: Fuyuki Takegoshi
《望郷》のモザイクをコンクリート壁から剥離する作業中のRediscover projectのメンバーたち。Photo: Junichi Okuyama / Courtesy of Fuyuki Takegoshi

奥山は、《望郷》を保全する方法を専門家に相談しながら模索したものの、作品の支持体が建物躯体のコンクリートであることから、「作品を取り出すことも、モザイクを剥がしてオリジナル通りに復元することも断念せざるを得なかった」と悔しさを滲ませる。しかし、だからと言って作品が消失するのを見過ごすわけにはいかない。そこで彼は、Rediscover projectの仲間たちと協力しながら、建物の解体作業がストップしている夕方から深夜にかけて、コンクリート壁から《望郷》のモザイクを1ピースずつ剥がすという途方もない作業を行っている。最終的には、剥がしとったピースを素材として、武腰敏昭の息子で現在泰山窯の4代目である武腰冬樹が新たに考案した図柄に再構築するという。しかし問題は、取り壊しまでの猶予がたったの3週間であること。すでに作業開始から1週間が経過しているが、作業は難航しており、さらなる協力者が必要だという。

工芸とアートの境界を勇敢に超え、日本が世界に誇る伝統に新風を吹き込んだ武腰敏昭の貴重な作品を新しいかたちで未来につなげるこのプロジェクトをサポートしたいという読者の方は、ぜひ以下まで連絡してみてほしい。

問い合わせ先
Rediscover project
E-mail: [email protected]

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