イサム・ノグチの彫刻に6億6000万円。サザビーズのデイセール、総額18億円超の売上は「感激に値」
9月27日に行われたサザビーズのデイセールで、イサム・ノグチの作品が約6億6000万円(手数料込み)で販売された。同オークションの売上総額は、手数料込みで約18億7000万円。
オークション市場の低迷が続く中、9月27日にニューヨークのサザビーズでエイブラムス・ファミリー・コレクションのデイセール「Art Without Boundaries(境界なきアート)」が行われた。エイブラムス家は、70年にわたりファインアートの美術書や絵本などを世に送り出してきたアメリカの代表的美術出版社の創業家。今回のセールでは27点の作品が落札され、落札総額は1120万ドル(約15億9000万円)、手数料込みで1314万ドル(約18億7000万円)。事前の売上予想1000万ドルから1410万ドル(約14億2000万〜20億円)のほぼ中間の金額だった。
同オークションのトップロットはイサム・ノグチの大理石彫刻《Study for Energy Void(エナジー・ヴォイドの習作)》(1971)で、落札額は400万ドル(約5億7000万円)、手数料込みで465万ドル(約6億6000万円)。予想落札価格は350万ドルから500万ドル(約5億〜7億1000万円)だった。電話での落札者を担当したのは、サザビーズのエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼アメリカ地区担当チェアマンのリサ・デニソン。
これ以外で100万ドルを超えた出品作はアレックス・カッツの油彩画《Joan(ジョーン)》(1974)で、予想落札価格150万ドルから200万ドル(約2億1000万〜2億8000万円)を下回る120万ドル(1億7000万円)で落札。手数料込みで144万ドル(約2億円)だった。大きさが約183 × 244cmあるこの作品には、取り消し不能の入札(第三者保証の一種)と最低価格保証が付いていた。担当したのは、サザビーズのシニア・バイス・プレジデント兼アメリカ地区プライベートセールス部門のコートニー・クレマーズ。
ほかに取り消し不能の入札と最低価格保証が付いていたのは、ボブ・トンプソンの《Nativity Scene(キリスト降誕の光景)》とヘスス・ラファエル・ソトの《Écriture d’Arras(アラスのエクリチュール)》。前者は、予想落札価格50万から70万ドル(約7100万〜9900万円)のところ、75万ドル(約1億700万円)で落札、手数料込みで87万ドル(約1億2400万円)となった。後者の予想落札価格は20万ドルから30万ドル(約2800万〜4300万円)で、落札額は19万ドル(約2700万円)、手数料込みで22万8000ドル(約3200万円)だった。
出品された28点のうち、不落札となったのはクリストの彫刻作品《Package on a Luggage Rack(棚の上の荷物)》1点のみ。クリストの署名と1963-90という記載があるこの作品の予想落札価格は、10万ドルから15万ドル(1400万〜2100万円)とされていた。また、152 × 122cmのロバート・インディアナによる絵画《Ballyhoo(バリフー)》(1961)は、事前に出品が取り消されている。
サザビーズの現代アート・シニア・スペシャリストのニコール・シュロスは、US版ARTnewsの取材に対し、96.3%という高い成約率と半数近くの作品で最高予想落札価格を上回ったのは「感激だった」として、次のように語った。
「オークション結果が物語っているのは、作品の質の高さ、そして来歴の確かさです。エイブラムス家は、アートコレクターとして、そして美術書出版業界の重鎮的存在として名が轟いています。私にとっては、出所、作品の質、そしてそれを理解してオークションで競い合う素晴らしいコレクターという全てのピースが揃う最高の状況でした」
入札合戦になり、予想を大幅に上回る落札額となったロットもいくつかあった。たとえば、オークション開始早々に出品されたメアリー・バウアーマイスターの絵画《Tichterrelief(トリヒテルレリーフ)》は、3分半を超える競り合いの末、22万ドル(約3100万円)で落札、手数料込みの価格は26万4000ドル(約3700万円)だった。事前の予想額は10万ドルから15万ドル(約1400万〜2100万円)。
また、高さが約218cmあるジョージ・シーガルの彫刻作品《Man Leaving a Bus(バスを降りようとする男性)》(1967)は、2分以上入札が続いたのち、38万ドル(約5400万円)で決着。手数料込みで45万6000ドル(約6500万円)となった。予想落札価格の20万ドルから30万ドル(約2800万〜4300万円)を大きく上回った結果について、シュロスはこう述べている。
「ジョージ・シーガルの作品は市場であまり芳しい結果を出していませんでしたが、1960年代に制作されたこの彫刻は、ファウンドオブジェである実際のバスの一部に石膏彫刻が置かれており、これまでオークションに出品された中でもかなり複雑なつくりのものです。この作品が目覚ましい結果を出したのをとても喜ばしく思います」
アラン・ダルカンジェロのミクストメディア作品《Guard Rail(ガードレール)》(1964)も、予想落札価格の10万ドルから15万ドル(約1400万〜2100万円)を大幅に上回る32万ドル(約4500万円)で落札、手数料込みで38万4000ドル(約5500万円)となった。電話による落札者の担当は、サザビーズのシニア・バイス・プレジデントで現代アート部門責任者のデイヴィッド・ガルペリン。
さらに、ヤコブ・アガムの大型絵画《Evening(宵)》(1976)も、予想落札価格15万ドルから20万ドル(約2100万〜2800万円)のところ、3人の入札者が電話で5分半以上にわたる競り合いを繰り広げた末、落札額32万ドル(約4500万円)、手数料込み38万4000ドル(約5500万円)という結果を出した。シュロスは作者についてこう説明する。
「ヤコブ・アガムは、キネティックアートやオプアート(*1)における隠れたヒーローと言えます。彼の作品がオークションに出品されることはあまりないので、今回の結果は市場がアガムをどう評価するかの目安となるでしょう」
*1 キネティックアート:自然力、動力、人力による「動き」を取り入れた作品。オプアート:錯視や視覚の原理を利用したり、鑑賞者の視点によって見え方が変わったりする作品。
5分44秒という今回のオークションで最長の入札合戦を引き起こしたのが、最後から2番目に登場したコマール&メラミッドの《Portrait of Medved (from Nostalgic Social Realism Series)(熊の肖像 [郷愁を誘う社会主義リアリズムシリーズより] )だ。オンライン入札者と電話入札者の間で行われた競り合いは、予想落札価格の10万ドルから15万ドル(約1400万〜2100万円)を超える22万ドル(約3100万円)で決着。手数料込み26万4000ドル(約3700万円)となった。
サザビーズでは、上記のライブオークションに加え、9月30日にもエイブラムス社の創設者ハリー・N・エイブラムスとその息子ロバートのアートコレクションから66点をオンラインセールで販売した。(翻訳:石井佳子)
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