ウォーホルが描いたレーニン肖像画の所有者を逮捕! ギャラリーによる情報提供が鍵に
アンディ・ウォーホルが1987年に制作したウラジーミル・レーニンのシルクスクリーンを輸送し、オークションで販売しようとしたことから、カリフォルニア州に住む男が逮捕された。取り扱っていたギャラリーがオークションハウスに不正取引の可能性があると伝えたことから、男の逮捕に至ったようだ。
アンディ・ウォーホルが描いたウラジーミル・レーニンの肖像画を、オークションハウスに売却しようと試みたブライアン・アレック・ライトが、不正取引の罪で逮捕された。アメリカで不正取引の罪で逮捕された場合、最大で10年の禁固刑が科される可能性がある。
カリフォルニア中部地区連邦検事局が発表した声明によるとライトは、10月28日に出廷する際に盗品輸送の罪を認めることが見込まれているという。また、司法取引の一環として、捜査当局が押収した美術品は没収される。
グレーとイエローの色が施され、1987年に作られたシルクスクリーンは、旧ソビエト連邦の指導者であるウラジーミル・レーニンを描いた試し刷りで、盗まれたのは46枚のうちの44枚目だった。連邦検事局によると、本作には推定で「少なくとも17万5000ドル(約2556万円)」の価値があるという。
同じくウェストハリウッドにあるリボルバーギャラリーのオーナーを務めるロン・リブリンは、状態がよければこのシルクスクリーンは「10万〜12万5000ドル(約1460〜1826万円)の間で推移している」と語っているが、試し刷りは希少であることから高値で取引される。「過去5年間に2枚のレーニンのシルクスクリーンを販売しましたが、いずれも17万5000ドル前後で売却しています」と、リブリンはARTnews US版に語った。
リボルバーギャラリーは回収されたウォーホルの版画を販売しなかったが、同社はウォーホルの作品販売を専門としており、リブリンは約1500点の作品を所有し、「少なくとも10000点以上」を調査し、過去8年間はFBIと協力して偽物の特定に努めている。
検事局による声明には、作品を取り扱っていたギャラリーや、ライトが売却しようとしたオークションは明記されていないが、当該のオークションハウスは「H.A.」と記されており、ダラスに拠点が置かれているという。
この作品を最初に販売し、ヘリテージ・オークションに盗品であると指摘したのは、ハミルトン・セルウェイのCEOを務めるギャラリストのフィル・セルウェイだと、ARTnews US版に語っており、こう続ける。
「わたしたちは、本作がヘリテージ・オークションに出品されているのを見て、不正取引されている可能性があることを知らせました。オークションハウスに不自然なことが起きていることを知ってほしかったのです」
これを受けヘリテージ・オークションのの広報担当者は「ウォーホルの盗難が判明するとすぐに、ヘリテージ美術館はFBIと協力して、その返還を確保しました」と、ARTnews US版に語った。
25ページに及ぶ司法取引の合意書には、2021年2月に泥棒が被害者のロサンゼルス市内の自宅からレーニンの肖像画を盗み、質屋に持ち込んだ後、質屋のオーナーである「G.B.」がそれを所有した経緯が詳細に記されていた。「G.B.」はライトに作品の販売を手伝うよう依頼したのちにライトは、ロサンゼルスにあるオークションハウスに連絡したという。その後、「G.B.」にウォーホルの版画をオークションハウスに持ち込むよう伝え、ダラスに輸送して検査と販売を行うよう指示した。
「被告は版画が盗品であることを理解していた。H.A.によって版画が販売され、その一環として州をまたいで輸送されることに期待を寄せ、被告は版画の販売による収益の一部を得ることをもくろんでいたのだ」と、司法取引合意書には記載されている。
作品はビバリーヒルズからダラスに発送され、ライトは2021年3月2日にオークションハウスと委託契約を締結した。オークションハウスは2021年4月22日に開催される「版画および複製画オークション」で作品の出どころを調査し、出品する予定だった。
司法取引の合意書には、ハミルトン・セルウェイがFBIに連絡したことから、2021年3月8日に連邦捜査官がライトに作品とその盗難について事情聴取したことも記載されている。裁判所の文書によると、ライトはFBI捜査官に対し、ロサンゼルスで開催されたガレージセールで現金1万8000ドル(約260万円)で購入し、領収書も持っていると話した。その2日後、ライトは「2021年2月4日、カリフォルニア州カルバーシティで、ブライアン・ライトがブランドン・ベルディンからウォーホルの絵画を1万8000ドルで購入した」と記載された偽の領収書をFBIにメールで送信。
「しかし被告は、この偽の領収書を提出した時点で、それが偽物であり、被告がブランドン・ベルディンという人物を含む誰からも実際に作品を購入していないことを知っていた」と、裁判所の文書には記載されている。「被告はFBIの捜査を混乱させるために、偽の領収書をFBIに提出したのだ」
この事件の捜査には、FBI美術品犯罪捜査班が参加しており、裁判は、刑事部門の上級顧問であるエリック・ジルバー連邦検事補佐官、ドミニク・カアマノ連邦検事補佐官、および環境犯罪・消費者保護部門のマシュー・オブライエン連邦検事補佐官が担当するという。(翻訳:編集部)
from ARTnews