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大盛況のアート・バーゼル・パリVIPデーの売上速報! どの作品がいくらで売れた?

初開催となる「アート・バーゼル・パリ」がグラン・パレを会場にスタートした(10月20日まで)。16日と17日に行われたVIPプレビューは大勢の人で賑い、売上も上々だった模様。一体どの作品がいくらで売れたのか、US版ARTnewsが徹底リサーチ。会場の雰囲気とあわせてお伝えする。

10月16日、アートバーゼル・パリVIPプレビューにて。会場のグランパレ。Photo: Luc Castel/Getty Images

2022年から行われていた「Paris +, par Art Basel」の名称が今年から「アート・バーゼル・パリ」に変わり、会場も仮設のグラン・パレ・エフェメールからグラン・パレへと移った。グラン・パレは1900年の万国博覧会のために建てられた傑作とも評される建築物。2024年のパリ・オリンピックのために3年間にわたる改修を終えたが、収容人数が2倍以上となる1万1000人に引き上げられ、セーヌ川を臨むテラスや2階など、閉鎖されていたゾーンが開放された。アート・バーゼル・パリのメインギャラリーは、ミントグリーンの鉄柱が印象的なガラスの天井の下にあり、晴天に恵まれた16日のVIPプレビューは季節外れの暖かさで少し暑いぐらいだった。

パリを拠点にするギャラリー・テンプロンのCEOで創設者の息子のマチュー・テンプロンは、「世界最高のフェアが世界最高の展示会場で開催されるというのは、本当に素晴らしいこと」と、US版ARTnewsに語った。そして、「今日は活気を感じます。同じ場所ですが、新しいエネルギーが吹き込まれたようです」と付け加えた。

テンプロンが「同じ場所」と言ったのは、2022年10月にアート・バーゼルがグラン・パレでの開催権を獲得する前、グラン・パレは地元のアートフェア、FIACが長年開催地にしていたという事を指している。テンプロンは1974年からFIACに参加する常連だった。 

テンプロンでは、12月にグランパレ新装後初の展覧会を開催する塩田千春を含め、12点ほどの作品が正午過ぎまでに売れた。塩田のトレードマークである赤い糸で制作された立体作品が12万ユーロ(約1950万円)、来月にテンプロンのニューヨークの拠点で個展を予定しているハンス・オプ・デ・ビークの2点の彫刻作品は、3万5000ユーロから8万ユーロ(約568万円~約1300万円)で取引された。同ギャラリーのフェアでの成功について、テンプロンは「アート市場が回復しつつある兆しだ」と述べた。

メガギャラリーは大口取引が続出

ルイーズ・ブルジョワ《La Forêt Enchantée (Up and Up!)》(2006)© The Easton Foundation/VAGA at ARS, NY; Courtesy the Foundation and Hauser & Wirth; Photo: Genevieve Hanson

正午過ぎ、PaceのCEOマーク・グリムシャーに取材したところ、完売したと教えてくれた。ただし、価格については明らかにしなかった。Paceはポーランド人アーティストのパウリナ・オロフスカをキュレーターとして招き、神秘主義と魔術をテーマにした展覧会「ミスティック・シュガー」を開催した。展示作家はオロフスカに加え、キキ・スミス、ルーカス・サマラス、ルイーズ・ニーヴェルスン。ブースのバックルームには、李禹煥、アグネス・ペルトン、マックス・エルンスト、レオノール・フィニ、アレクサンダー・カルダーの作品を飾っていたが、そのうち李禹煥《Response》(2024)が売れたとギャラリースタッフが明かした。

ガゴシアンは予想通り価格の公表に慎重な姿勢だったが、プレスリリースで、パブロ・ピカソやトム・ウェッセルマンの作品、そしてジャデ・ファドジュティミの《Untitled》(2024)やアマオコ・ボアフォの《White Opera Gloves》(2024)を販売したと明らかにした。ある情報筋がUS版ARTnewsに語ったところによると、今年のアートバーゼル・パリで再評価されているトム・ウェッセルマン(1931-2004)の《Smoker #20》(1975)が425万ドル(約6億円)前後で売れたという。

ハウザー&ワースはまだ売れ残っている作品はあったものの、12点以上の作品を販売した。最も高額なものは、カジミール・マレーヴィチの1915年の絵画《Suprematism, 18th construction》で、これは2015年にサザビーズで3360万ドル(約50億円)で落札された作品だ。また、ルイーズ・ブルジョワの《Spider》は、2000万ドル(約30億円)前後で買い手がついたと伝えられている。そのほかVIPデーの終わりまでに、マーク・ブラッドフォードの2024年の作品を350万ドル(約5億円)、ブルジョワの平面作品を200万ドル(約3億円)、現在パリ市内8会場で回顧展が開催されているバーバラ・チェイス=リブードのミクストメディア彫刻を220万ドル(約3億円)で販売したという。

その向かい側のブース、デヴィッド・ツヴィルナーでは11点が売れた。最高額は、10月にギャラリーの所属作家となったビクター・マンの2014年の絵画《K》で、120万ユーロ(約2億円)だった。そしてホワイトキューブは、新たに導入されたセカンダリー作品に特化したプログラム「Salon」に出品したジュリー・メレツの2013年の絵画《Insile》が950万ドル(約14億円)で売れるなど、8作品を販売した。また、ブリュッセルを拠点とするギャラリー、グザヴィエ・ハフケンスはアリス・ニールの絵画を120万ドル(約1億8000万円)で、またリッソンは、カルティエ財団で大規模な回顧展が開催されているオルガ・デ・アマラルの3作品を、30万ドルから80万ドル(約4500万円~約1億2000万円)でアメリカの個人コレクターに販売した。

アート・バーゼル・パリは真に国際的

ビクター・マン《K》(2014)Photo: © Victor Man/Courtesy David Zwirner; Photo Maris Hutchinson

終日熱気に包まれていたVIPオープニングには、パメラ・ジョイナー、ヘレン・シュワブ、ミヨン・リー、ソーニャ・ユーといったアメリカの著名コレクターのほか、主要美術館の館長やキュレーターらが多数姿を見せた。美術館関係者は、メトロポリタン美術館のマックス・ホレイン新館長とデイヴィッド・ブレスリン、グッゲンハイム美術館のナオミ・ベックウィズ、ロサンゼルス現代美術館のクララ・キム、ロサンゼルス・カウンティ美術館のマイケル・ゴーヴァン、シカゴ美術館のジャンパオロ・ビアンコーニとジェームス・ロンドー、ニューミュージアムのリサ・フィリップスとマッソミリアーノ・ジオーニなど。さらに、ナタリー・ポートマンやオーウェン・ウィルソンといったセレブたちの周りには人垣ができていた。

ギャルリー・ルロン(パリ)のバイスプレジデントでパートナーのメアリー・サバティーノは、VIPデーの活況ぶりをUS版ARTnewsにこう語った。

「パリは人が集まる場所ですし、(改装後の)グラン・パレに戻ってこられたのも素晴らしい。光に包まれ、美術の歴史に触れることができるグラン・パレは格別な場所です。(アート・バーゼル・パリは)マイアミよりも歴史を感じさせる一方、スイスのバーゼルよりも現代的で多様性に富んでいます。パリには独自のエネルギーとアイデンティティがあるのです」

前週、フリーズ・マスターズに参加したジャック・シェインマン・ギャラリー(ニューヨーク)のシニアディレクター、ジョオナ・ベロラド=サミュエルズは、週末のロンドンではパリのフェアに対する期待の高まりが感じられたと話す。同ギャラリーの顧客には、フリーズのVIPデーを珍しくスキップし、同フェア終盤の週末にロンドン入りしてからパリへ来たケースもあったという。

P.P.O.W.(ニューヨーク)の共同設立者であるウェンディ・オルソフは、午前中は各国のコレクターやキュレーターたちと「ノンストップで話し続けた」と明かす。彼らが一様に興味を示したのは、ブースの目玉として出品したセラミック作品数点によるインスタレーションで、ブルックリンを拠点に活動するアン・エイジーの手によるものだ。P.P.O.Wはフリーズ・ロンドンに出展しなかったが、それは意図的な選択だったとオルソフは説明した。「私たちには、連続する2つのフェア両方で質の高いプレゼンテーションをするだけのストックがありません。所属アーティストたちは、ゆったりしたペースで制作をしているので」

ブラジルのギャラリー、メンデス・ウッドDMのニューヨーク拠点を担当するパートナー、マーティン・アギレラは、今年のアート・バーゼル・パリは真に国際的だと指摘。特に、6月に開催されたスイスのアート・バーゼルとの差は歴然だとしてこう評価した。「パリは、アメリカ、アジア、そしてもちろんブラジルからのコレクターにとって、最初の入り口でもあり、最後に行き着く場所でもあります」

香港を拠点とするコレクター、パトリック・サンは、自身のサンプライド・コレクションのためにLGBTQ+アーティストを中心とした作品を購入。その彼のコメントは簡潔だった。「これがパリです。とてもレベルが高いと感じます」

アート・バーゼルのフェア・展示会担当ディレクターであるヴィンチェンツォ・デ・ベリスは、フリーズ・ロンドンのセールスが好調だったことを喜んでいると述べ、競合他社への気配りを示した。「アート界は狭い世界で、私たちは皆、成功を分かち合っています。ロンドンが活況であれば、それはパリにとっても良いことなのです」

何をしてアート・バーゼル・パリの成功と言えるのかをデ・ベリスに尋ねると、彼はこう説明した。「我われは営利プラットフォームですから、最も重要なのはギャラリーが潤うことです。しかし、パリ開催がまだ3年目であることを考えれば、地元のアートシーンを支えることで私たちの足場を固め、強化することが成功の尺度でもあります。つまり、アーティストに発表の場を与え、世界中からフランスの首都に人々を集め、活気のあるアートのエコシステムを発展させることです。今年は市場の動きが鈍かったですが、フリーズ・ロンドンの後、売れ行きが回復しているのが見てとれます。VIPデーが始まってまだ5時間しか経っていませんが、雰囲気はポジティブです」

アート・バーゼルの他の拠点である香港やマイアミに対し、パリはどのような位置付けにあるのかという質問に彼はこう答えた。

「『異なるものであってほしい』という意味で、それぞれは同等ではありませんし、どのフェアも異なるアプローチを取っていいと思います。マイアミは世界最大の市場であるアメリカの一部であり、北米と南米の接点として南北アメリカ大陸をカバーしています。また、アート・バーゼル香港は、世界第2位のマーケットとして拡大を続けるアジアの拠点です」

グラン・パレは「無敵の舞台」

アート・バーゼル・パリでのオルトゥザールのブース。Photo: Photo Marc Domage/Courtesy Ortuzar

改修前、安全上の理由から閉鎖されていたグラン・パレの2階にブースを構えたのは、ジェシカ・シルバーマン、カルマ、フランソワ・ゲバリ、マクスウェル・グラハム、マリアーヌ・イブラヒムといったメインセクションの出展ギャラリー45軒と、新設された「Premise」セクションの9軒、そして「Emergence」セクションの16軒。スイスのアート・バーゼルでは、フェアの2階に集客する難しさを訴える声が少なからず上がっていたが、パリでは開幕1時間も経たないうちに、グラン・パレの2階は人で溢れかえっていた。

2階に出展したニューヨークのギャラリー、オルトゥザールは、今年5月にニューヨークで開催されたオークションで一大旋風を巻き起こしたタカコ・ヤマグチの作品6点(各30万ドル、約4500万円)を完売した。 買ったのは、ヨーロッパと中東のコレクターだという。ギャラリー創設者のアレス・オルトゥザールは、「ヤマグチをヨーロッパおよび国際的なクライアントに紹介するという目的を達成した」と満足そうだった。

同ギャラリーは先週のフリーズ・マスターズにも参加したが、そこでもセカンダリー作品を150万ドル(約2億2500万円)で販売した。オルトゥザールは、現在の市況を考えると過度な期待は抱くべきでないと考えていたというが、売上は「ギャラリーを開設した2018年以降、最高の年となった」と頬を緩ませた。

オルトゥザールの向かいにブースを構えたLA拠点のカルマも好結果を得たようだ。彼らは、ジョナス・ウッドの新作を含む5点の作品に、合計160万ドル(約2億4000万円)で買い手がついたという。「質が高く、適正価格の作品には市場が存在しますし、実際に売れるのです。コレクターは今、投機的なアートではなく、質の高い作品を適正な価格で買いたいと望んでいるのです」

LAのコモンウェルス・アンド・カウンシルのパートナーであるキブム・キムは、グラン・パレという「無敵の舞台」とそのリノベーションが、2階の成功要因の一つになったと考察する。来場者たちはグラン・パレという歴史的建造物をワクワクしながら探検し、2階にも足を運んだのだというのがキムの考えだ。コモンウェルス・アンド・カウンシルはロンドンのEmalinとブースをシェアしている。両ギャラリーはそれぞれの拠点でニキータ・ゲイル(Nikita Gale)を扱っており、ゲイルは今回、楽器や照明、鉱物で彩られたミクストメディア・インスタレーションを展示している。

キムは、数年前と比べて、コレクターたちは作品を実際に見ることにこだわるようになったと話す。そんな彼らとの対話からも、この市場で売れるかどうかの鍵は作品のクオリティにかかっていると語る。コモンウェルス・アンド・カウンシルは今回のパリのために、ゲイル作品に並び、最近ニューヨークのMoMA PS1で大規模な個展を行ったレスリー・マルティネスの新作抽象絵画2点も用意した。「普通に考えて、この傾向はポジティブです。パンデミックの間に起きた、ある種特異と言える市況を再調整しているだけですから」

「シュルレアリスム100周年」の祝祭的雰囲気も

オスカー・ドミンゲス《Le Printemps (Composition lithochronique)》(1939)Photo: Maximiliano Duron/ARTnews

フランス発祥の最も重要な芸術運動の一つであるシュルレアリスムの祖、フランスの作家アンドレ・ブルトンの『シュルレアリスム宣言』の出版から今年100周年を迎えるのを記念し、世界中で記念展が開催されている。パリのポンピドゥー・センターでも現在、「シュルレアリスム展」が2025年1月まで開かれている。この展覧会は600点の作品で構成されており、同館の常設コレクションからは30点が出品されている。同展は巡回展という形で世界各地を巡り、フランスに戻ってきた。

フェアに参加した多くのギャラリーはその流れに乗り、イタリアのトルナブオーニ・アートは、「シュルレアリスムのゴッドファーザー」とも呼ばれるジョルジョ・デ・キリコによる1960年代の形而上学的絵画2点を出品した。1930年代の同シリーズの作品は数百万ユーロで取引されているが、これら晩年の作品2点は100万〜150万ユーロ(1億6000万〜2億40000万円)という控えめな価格帯で設定されている。パリを拠点とするアプリカ・プラザンは、いくつかの抽象作品に加えて、アンドレ・マッソン、ウィフレド・ラム、マッタ、オスカル・ドミンゲスの作品を出品しており、その全ての作品に「シュルレアリスム100年」という大きなラベルが貼られていた。ドミンゲスの絵画1点とマッタの絵画は、いずれも7桁の価格で、前者は180万ユーロ(2億9000万円)、後者は128万ユーロ(2800万円)に設定されている。

ニューヨークのディ・ドンナ・ギャラリーズの展示「ハロウド・グラウンド(聖なる地)」は、1920年代から50年代にかけてパリで活動した4人のシュルレアリスム作家、イヴ・タンギー、ウィフレド・ラム、アグスティン・カルデナス、そしてアリシア・ペナルバの作品に焦点を当てている。前者3人はフランスで比較的よく知られており、芸術的貢献が評価されているが、ペナルバは母国アルゼンチンでは有名である一方、フランスではあまり知られていない。ギャラリー創設者のエマニュエル・ディ・ドンナは「4つの異なる背景を持つ4人の異なるアーティストの作品を展示したかったのです」と US版ARTnewsに語った。正午までにギャラリーはラムの作品を2点、カルデナスの作品を3点、タンギーの作品を1点販売したが、価格は明らかにしなかった。(翻訳:編集部、石井佳子)

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