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スイス・ローザンヌに3つの美術館が集結したアート地区が誕生。プロジェクト資金約2億600万ドルの40%は個人寄付

ローザンヌ駅には9番線までしかない。なのに、「10番線」という言葉が飛び交うのはなぜか?そんなツッコミを入れたくなるのは、プラットフォーム10(10番線)というアート地区があるからだ。3つの美術館が集結して誕生したこの場所は、新しいアートの発信地として注目されている。

3つの美術館が集結したアート地区、プラットフォーム10 ©Cyril Zingaro

プラットフォーム10は、スイスのみならずヨーロッパ有数のアート地区だ。機関車用車庫跡地を利用したもので、敷地面積は2万5000平方メートル(ほぼサッカー場4面分)という広さ。ここに、州立美術館(MCBA)、州立現代デザイン・応用美術館(mudac)、州立エリゼ写真美術館が集まっている。

このプロジェクトには約2億600万ドルが投じられたが、その40%が個人からの寄付によるものだ。運営予算は2750万ドルで、うち2150万ドルは資金援助と補助金で賄われる。アート界からの注目度が高いチューリッヒやバーゼルとまではいかないまでも、プラットフォーム10の誕生で、ローザンヌもアートの街としての認知度が大きく高まるに違いない。

開館式で広報担当者は、「小さな地方美術館が集まり、プラットフォーム10という一大アート施設に生まれ変わったのは画期的だ」と述べている。

MCBAのプロジェクトは、パレ・ド・リュミーヌにあった展示物を独立した建物に移そうというものだった。パレ・ド・リュミーヌには、今も動物学、考古学、地質学の博物館や図書館がある。当初はレマン湖畔のベルリーブが候補地とされたが、それが頓挫したのち、2019年にローザンヌ駅に隣接する現在の場所に移転。バルセロナを拠点とする建築家、ファブリツィオ・バロッツィとアルベルト・ベイガが設計した美術館に収容されている。

建物正面に置かれているのは、グザヴィエ・ヴェイヤンとオリヴィエ・モセの《The Crocodile(ワニ)》。列車をかたどった木造の彫刻で、6.8トンの重さがある。ヴェイヤンとモセは、公募に別々に応募したが、最終的に共同制作を行うことになった。現在は美術館の外にあるが、設置場所は今後変更になるかもしれない。


グザヴィエ・ヴェイヤンとオリヴィエ・モセの《The Crocodile(ワニ)》(2019)。プラットフォーム10のために委託制作された ©Nora Rupp

一方、デザイン、ガラス、セラミック、コンテンポラリージュエリー、グラフィックアートを扱うmudacは、以前はローザンヌ大聖堂に近いメゾン・ゴダール(中世の建物を後に学校に改築した建物)にあり、エリゼ写真美術館は、16世紀までは教会で、18世紀には邸宅として使われていた歴史建築の中にあった。エリゼ写真美術館は、サビーネ・ヴァイス、ヤン・グルーバー、ニコラ・ブーヴィエ、チャーリー・チャップリン、ハンス・シュタイナーなど、12人による作品の集大成を所蔵している。

両美術館が移転した先は、ポルトガルのアイレス・マテウス建築事務所が設計した建物だ。そのファサード全体に伸びる斜めの開口部は、来場者を歓迎して微笑んでいるようにも見える。

3つの美術館では現在、鉄道と列車をテーマに横断的な展覧会が開催されている(会期は9月25日まで)。たとえば、米国人アーティスト、クリス・バーデンの彫刻は、どの美術館でも見ることができる。また、120万点の写真コレクションを誇るエリゼ写真美術館にも絵画や彫刻が展示されているが、担当者はこうした試みを喜んでいるという。一方、MCBAでは、ジョルジョ・デ・キリコエドワード・ホッパー、ポール・デルヴォーらの代表作から、進歩、スピード、パワーを感じさせる60点が展示されている。


MCBAに展示されているポール・デルヴォーの《Solitude(孤独)》(1955) Photo Fédération Wallonie-Bruxelles/©2022 Paul Delvaux Foundation - St. Idesbald/ProLitteris, Zurich/Collection of Wallonia-Brussels Federation

mudacでの展示は、「Let's Meet at The Station(駅で会いましょう)」と題され、出会いの場としての列車がテーマになっている。展示では、クリスチャン・ボルタンスキーサルバドール・ダリソフィ・カルJRらの作品がスイス連邦鉄道のアーカイブ映像と対比されている。また、タキスのインスタレーションのある場所からは線路が見える。ここには3カ月間貸し切りで個人所有の列車を置き、それをグラフィティアーティストがカスタマイズする予定だが、詳細はまだ明かされていない。

3つの展覧会は、3カ月間有効のチケット1枚で鑑賞でき、購入者以外も借りて使うことができる方式を採用している。プラットフォーム10(地元ではすでに「P10」という呼び名が定着しつつあるようだ)は、観光客を呼び込み、ローザンヌを魅力的な文化の中心地にするという狙いのもとで発進した。今後、その狙いが実現するかどうかが問われるが、未来は明るいと感じた。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年6月23日に掲載されました。元記事はこちら

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