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グッゲンハイム・ビルバオ美術館、バスク州自然保護区の拡張計画が10年ぶりに動き出す

スペイン・バスク州にあるグッゲンハイム・ビルバオ美術館は、同州のウルダイバイ生物圏保護区での拡張プロジェクトを十数年にわたって検討してきた。2013年以降、計画は停滞していたが、ついに実現の方向へ動き出している。

グッゲンハイム・ビルバオ Photo: Frank Rumpenhorst/picture-alliance/dpa/AP Images

7月下旬、スペインのバスク州ビスカヤ県(県都ビルバオ)の関係者が、ウルダイバイ地区に4000万ユーロ(約55億円)を投じ、グッゲンハイム・ビルバオの新館を設立する計画を明らかにした。ビルバオの東に位置する同地区には、何百種類もの植物が生息するウルダイバイ河口がある。

ビスカヤ県のスペイン語メディア、デイア紙が伝えるところによると、県議会は新館の総工費が1億2700万ユーロ(約173億円)になるとしている。また、エル・コレオ紙は、グッゲンハイム・ビルバオと新館をつなぐ「トンネル」が設けられると報じた。ビスカヤ県のウニア・レメンテリア副知事は計画の重要性を指摘し、「ビスカヤの社会に多くの恩恵を生み出せる」プロジェクトだと評した。

この件に関し、グッゲンハイム・ビルバオとニューヨークのグッゲンハイム美術館の関係者にコメントを求めたが、返答は得られていない。

グッゲンハイム・ビルバオの拡張計画が発表されたのは2008年。総面積約5000平方メートルの新館建設を予定していた。その後数年、グッゲンハイムの関係者はこのプロジェクトの売り込みを図っている。

当時、グッゲンハイム財団のディレクター、リチャード・アームストロングは、ウルダイバイの新館を象徴するのは「建築ではなく、景観になるだろう」とし、「21世紀に建てられる最初の主要な美術館」になり得ると述べている。これは、グッゲンハイムが生物圏保護区に持続可能な新館建設を構想していることの表れと受け止められた。

グッゲンハイムはまた、年間14万8千人の来場者が見込まれる新館プロジェクトが、当時失業率12%だった地域に900人分の雇用をもたらすとの予測も発表している。

1997年にオープンしたグッゲンハイム・ビルバオも、同じような理念のもとに建設された。グッゲンハイムの関係者は官民連携事業であることを強調したが、当初ビルバオの地元住民は積極的とは言えなかった。しかし、その後25年間、観光客が記録的な数に上ったことで評価が高まり、これをお手本にした計画も生まれている。

2010年、英ガーディアン紙は、ビスカヤ県の政治家をはじめ、バスク地方全体が新館設立に不満を抱いていると報じた。地元住民の意見を聞かず、ニューヨークのグッゲンハイム美術館が一方的に計画を進めていることが理由とされている。

また、バスク州関係者が、この計画がウルダイバイの失業問題や産業衰退の解決策になる可能性があるとする一方、グッゲンハイム美術館はその点でほとんど貢献しないのではないかという懸念の声もあった。2013年、地元経済が下降線をたどる中で、バスク州政府は正式に計画延期を発表した。

過去10年間、グッゲンハイムはアブダビとヘルシンキでの美術館建設計画を抱えていたことから、ウルダイバイプロジェクトは棚上げにされていたようだ。グッゲンハイム・アブダビは、当初の予定からオープンがかなり延期されたが、最近になって2025年の開館予定が発表された。一方、グッゲンハイム・ヘルシンキは、11年に構想が発表されたものの、16年に中止されている。

2021年、ウルダイバイへの拡張計画が地元の政治家たちの後押しで再浮上。今回は、地元政界でのコンセンサスは取れているようだ。エル・ディアリオ紙は、ビスカヤ県がバスク州政府と協力して新館実現に向けて動いていると報じている。また、今年初め、政治家たちは新館が環境に悪影響を与えないとの見方を示していた

ウルダイバイの新館計画が実現する場合、ゲルニカの食器工場跡地と、ムルエタの造船所が利用されるとも伝えられている。この2つの街は車で約10分の距離、グッゲンハイム・ビルバオからは車で約40分の距離にある。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年7月29日に掲載されました。元記事はこちら

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