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ウルティマ・ジェネラツィオーネのラウラがバチカン美術館《ラオコーン像》の台座に「糊付け」

8月18日、気候変動危機を訴えるイタリアの団体、ウルティマ・ジェネラツィオーネの活動家2人が、バチカンにある貴重な彫刻に自分の手を糊付けしたことが同団体のプレスリリースで明らかになった。

ラオコーン像の前で抗議行動中の活動家たち Ultima Generazione

当日の午前10時半頃、活動家2人(ラウラと名乗る26歳の女性と匿名の高齢男性)が、ジャーナリスト数人とともにバチカン美術館に入り、《ラオコーン像》の台座に自らの手を接着剤で貼り付けた。

この区画にいた見学者は避難し、2人の活動家は携帯電話を取り上げられた。同団体はプレスリリースで、携帯電話没収への憂慮を表明している。抗議活動が不当な妨害を受けていないかを確認するために、動画を撮影していたからだ。

リリースによると、ラウラは最近美術史の修士号を取得したが、気候危機を無視し続ける政府が、自分の個人としての未来のみならず、職業人としての未来も奪っていると感じ、抗議行動に及んだという。もう1人の活動家とともに《ラオコーン像》を選んだのは、この彫像が今の状況を象徴しているからだとしている。

《ラオコーン像》は、ギリシャ神話中のトロイの祭司、ラオコーンとその息子たちを描いた彫刻だ。ラオコーンは、トロイ戦争でギリシャから贈られた巨大な木馬(トロイの木馬)を怪しみ、街に入れないよう仲間に助言する。実は木馬には敵兵の一団が隠れていたのだ。女神アテナはギリシャの計画を阻止しようとしたラオコーンに憤り、大海蛇にラオコーンと息子たち2人を絞め殺させた。

ラウラはリリースの中で、「危険を知らせたラオコーンと息子たちは、人々が警告を聞き入れなかったために殺された。トロイはギリシャに攻め込まれて火に包まれ、無知だが罪のない多くの人々が死んだ」と説明している。

もう1人の活動家は、同じリリースの中でこう述べている。「我われは過去何十年も無視されてきた危機の証人として、差し迫った大惨事を同胞に警告したために殺された予知能力者、ラオコーンに近づくことで人々の注意を引き、メッセージを伝えようと決心した。気候変動と生態系の緊急事態に襲われた世界では、美術館は閉じ、芸術も美も存在しなくなる。抜本的な変革を起こさない限り、干ばつ、洪水、火災、汚染、資源枯渇が次世代に残されるだろう」

紀元前40〜30年頃に作られたと考えられるラオコーン像は、バチカンで最も価値のある美術品の1つだ。1506年に発見され、大プリニウスが著作で言及した傑作であることが確認されている。発見後、教皇ユリウス2世が購入し、バチカンの彫刻庭園の目玉となった。

オブザーバー紙は8月初め、英国の環境活動団体ジャスト・ストップ・オイルとウルティマ・ジェネラツィオーネが、カリフォルニアに本拠を置く気候緊急基金(CEF)から100万ドルの資金提供を受けたと報じた。CEFのマーガレット・クライン・サラモン事務局長は同紙に対し、資金はこれらの団体の活動家に対する法的支援にのみ使われると述べている。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年8月19日に掲載されました。元記事はこちら

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