オークションの好調続く。野球カードが1260万ドルで落札。追及権にNZも参入~8月のオークション記事まとめ
ARTnewsが8月に報じたオークション関連の記事をまとめてお届けする。キース・ヘリングの《ラディアント・ベイビー》は壁ごとオークションに掛けられる。亡くなったマイクロソフト共同創業者の10億ドルのアートコレクションがクリスティーズで売却されることになり、単一出品者の競売記録を塗り替えると予想される。サザビーズが8月に15年ぶりに開いたシンガポールでのオークションは好調で、東南アジアの堅調さを示した。オークションの好調はグッズコレクションにも飛び火、往年の大リーガーの野球カードは1260万ドルとスポーツグッズの最高落札額を更新した。オークションの隆盛は一方でアーティストの「追及権」の議論に拍車を掛けている。ニュージーランド政府も、オークションの売り上げの5%がアーティストに還元される制度に参入することを決めた。すでに英仏など80カ国が加入しており、カナダ議会も検討中だ。
キース・ヘリングが実家の壁に描いた《ラディアント・ベイビー》が今月オークションに
キース・ヘリングが実家の壁に描いた《Radiant Baby(ラディアント・ベイビー)》が9月14日、ニュージャージー州のオークション会社、ラゴ/ライツでオークションにかけられる。ハイハイする幼児と後光を、金色のマーカーで青い壁に描いたこの絵は、1990年に亡くなる少し前の作品とされる。ヘリングは美大に通うためニューヨークへ引っ越した後もたびたび、ペンシルベニア州カッツタウンの実家を訪れていた。絵のサイズは高さ5インチ(約12.7センチメートル)。描かれていた、子ども部屋の電気スイッチの上の青い壁の一部ごと出品されるという。ヘリングが1986年と88年に制作したポスターも一緒に競売にかけられる予定だが、見積もり額はまだ公表されていない。
※この記事は、米国版ARTnewsに2022年8月23日に掲載されました。元記事はこちら。
ポール・アレン 写真:The New York Times/アフロ
マイクロソフト共同創業者ポール・アレンの10億ドルのコレクション、クリスティーズで11月に売却
マイクロソフトの共同創業者で、2018年に65歳で死去したポール・アレンのアートコレクションが、クリスティーズで売却されることになった。離婚裁判所の命令で今年初めにサザビーズで売られたマックロー夫妻コレクション(9億2200万ドル)や、クリスティーズで2018年に売却されたデイビッド・ロックフェラーのコレクション(8億3500万ドル)を上回り、単一所有者のオークション販売額では史上最高になると見込まれる。収益は慈善事業に寄付されるという。
アレンは、米ARTnewsのトップ200コレクターリストに20年以上名を連ね、コレクションは推定10億ドル。古典から印象派、近現代アートまで幅広く収集していた。クリスティーズによると、推定約1億ドルのポール・セザンヌの風景画《La Montagne Sainte-Victoire (サント・ビクトワール山)》(1888-90年)などアート作品150点を、11月に競売にかけるという。5000万ドルは下らないジャスパー・ジョーンズ作品《Small False Start》(1960年)も売りに出されると見られる。
※この記事は、米国版ARTnewsに2022年8月25日に掲載されました。元記事はこちら。
ウィリアム・ジェラルド・ホフカー《Melis, composition featuring Ni Dablig with Ni Gemblong with a boy behind the gender music instrument》(1939年)。サザビーズ提供
15年ぶりのシンガポール・オークションが成功、サザビーズ。東南アジアのアート市場は堅調
シンガポールで2022年8月28日、サザビーズのオークションが15年ぶりに開かれた。事前の予想販売額1800万シンガポールドル(SGドル、約1000万ドル)を上回る2400万SGドル(1750万ドル)を売り上げ、東南アジアのアート市場の堅調ぶりを示した。ただし、50ロットの販売結果のうち、200万SGドル(143万ドル)を超えた絵画はわずか3点。ウォルター・スパイスの油絵『ティアファーベル』(1928年)は403万SGドル(289万ドル)で売却。ウィリアム・ジェラルド・ホフカーの1939年作品は、販売予想価格の2倍の227万SGドル(約163万ドル)の高額を付けた。両作とも、ヨーロッパの作家がインドネシア滞在中に描いたものだ。
地元東南アジアの作家では、シンガポールの先駆的なアーティスト、故ジョルジェット・チェンが健闘。彼女の油絵《Boats and Shophouses(ボートと店)》(1963-65年)は202万SGドル(144万ドル)で売れた。チェンは、昨年12月のクリスティーズ香港で、180万SGドルで作家のオークション記録を樹立したばかりだったが、1年未満で塗り替えた。彼女の作品は、福岡アジア美術館のほか、フランスのポンピドゥーセンターや中国のロングミュージアムなどに収蔵されている。
ジョルジェット・チェン《Boats and Shophouses(ボートと店)》(1963–65年)。サザビーズ提供
今回は主に、シンガポール、インドネシア、ベトナムなど東南アジアのアーティストによる近現代アートが出品され、それらの国々や香港、中国本土からディーラーやコレクターが集まった。サザビーズの東南アジア担当マネージングディレクターによると、シンガポールでのオークション開催は、この地域での同社の存在感を高めるためで、香港の代替地としてではないという。
香港から訪れた、デビッド・ツヴィルナー・ギャラリーのシニアディレクターによると、会場には国際的なギャラリー関係者もいて、積極的な雰囲気だったという。中国本土のコレクターや、最近シンガポールに移住して収集を始めた新規コレクターもいたという。「今回のオークションと1月に開催されるアートフェアART SGは、東南アジアのアート市場にとってプラスの兆候」と分析する。
※この記事は、米国版ARTnewsに2022年8月29日に掲載されました。元記事はこちら。
ミッキー・マントルの野球カード 写真:AP/アフロ
往年の大リーガー、ミッキー・マントルの野球カード、1260万ドルで落札。スポーツグッズの最高額を更新
米大リーグの名選手、ミッキー・マントルの野球カードが8月28日、ヘリテージ・オークション社の競売で1260万ドルで落札され、スポーツグッズのオークション最高額を塗り替えた。以前の記録は、サッカーアルゼンチン代表のマラドーナが、1986年のワールド杯優勝時に着ていたジャージの930万ドル(今年5月に記録)。野球カードでは、2021年のホーナス・ワグナーの660万ドルが最高額だった。
マントル選手のこの野球カードは1952年の発行。専門家による評定は10点満点中9.5点だった。1991年に当時最高値である5万ドルをつけていた。今回の記録的な売り上げの背景には、アートと収集品のオークション価格の爆発的な上昇傾向がある。
※この記事は、米国版ARTnewsに2022年8月29日に掲載されました。元記事はこちら。
ニュージーランド議会 写真:AP/アフロ
ニュージーランドも追及権に参入、アーティストに二次流通時の印税を保証。2024年発効
ニュージーランドは8月18日、視覚芸術の作家に追及権を認めると発表した。2024年に正式に発効する。同国のアート作品追及権計画は、フランスやイギリスなど追及権のある80カ国の二次流通市場で作品が再販売された場合、アーティストに一律5%の印税支払いを保証する仕組みだ。ニュージーランドとEU・英国の新貿易協定の一環。
ニュージーランドでは、アート市場は2021年に大きく拡大し、オークションなどの二次流通市場についての議論が起きた。一部のアーティストは追及権を求めてグループを結成、活動してきた。アート関係者が不必要な負担を強いられると、市場への悪影響を懸念する批判の声もあるが、政府は事前に「マオリと太平洋地域のアーティスト、アート専門家、アート市場の専門家、公共のギャラリーと美術館、主要セクター組織」などと調査・検討したという。
カナダ政府も、アートの追及権を認める著作権法の改正を進めている。同政府の代表者によると、「追及権は、カナダのアーティストの経済状況を改善するための重要な一歩だ。アーティストが自分の作品により良い報酬を受けられるようになる」。7月13日の文化・遺産大臣会議で改正案が議論され、今後数カ月で追及権が実現しそうだという。
※この記事は、米国版ARTnewsに2022年8月18日に掲載されました。元記事はこちら。