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価値は30億円以上。カンディンスキーの絵画をオランダの美術館がユダヤ人コレクターの遺族に返還

ヴァシリー・カンディンスキーの絵画《Blick auf Murnau mit Kirche II(教会のあるムルナウの眺め II)》(1910)が、第2次世界大戦中にこの絵を奪われたユダヤ人一家の遺族に返還されることになった。欧州を中心に、ナチスに略奪されたり強制売却させられたりした美術品を返還する動きが続いている。

ワシリー・カンディシンキー《Blick auf Murnau mit Kirche II(教会のあるムルナウの眺め II)》(1910) Public domain

オランダのアイントホーフェンにあるファン・アッベ美術館は、6年越しの法的な争いに終止符を打ち、1951年から所蔵していたカンディンスキー作品の返還を決めた。同美術館が作品を入手したのは、第2次大戦中に略奪された絵画の販売に関わっていたハーグの美術商、カール・アレクサンダー・レガトからだった。

この決定により、作品は元の持ち主で戦前に現代美術のコレクターとして活躍したベルリン在住のユダヤ人、ヨハンナ・マルガレーテ・シュテルン=リップマンの遺族の手に引き渡される。

2018年1月にオランダの返還委員会は、シュテルン=リップマンが作品を所有しなくなった時期を示す事実が「不十分」であるとして、相続人に返還しないとしていた。それから数年を経て決定が覆されたことになる。

シュテルン=リップマンの遺族が、初めて美術館に作品の返還を求めたのは2016年。上記の理由で委員会が返還を退けたのを受け、19年に再び返還請求を行った。

7人のメンバーで構成される委員会は2022年9月中旬、係争中の作品をめぐって新たな見解を発表。18年以降に「新事実」が浮上したのを受け、作品の返還を求める「強制力のある」決定に至ったとしている。

具体的には、ナチスによる略奪品の返還について定めたオランダ政府のガイドラインにより、シュテルン=リップマンが第2次大戦中に迫害された事実に基づいて、戦時中に作品を失ったのは本人の意思に反していたと見なすべきだと委員会は説明している。

作品の評価額は明らかにされていないが、2021年8月にアムステルダム市立美術館から返還された《Bild mit Häusern(家のある絵)》(1909)など、カンディンスキーの同時期の作品の推定価格は2200万ドル前後(現在の為替レートで30億円以上)とされている。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年9月19日に掲載されました。元記事はこちら

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