音のアートで「美術館を生きた有機的な場所に」── MoMAが2023年のプログラムを発表
ニューヨーク近代美術館(MoMA)といえば、戦後美術の巨匠による絵画や彫刻作品が揃うことで知られる。そのMoMAでは来年、最先端を行く現代アーティストたちの「音」に焦点を当てた所蔵作品の数々が体験できる。ライブパフォーマンスを含め、興味深い企画が目白押しだ。
音や音楽をテーマとするイベントは、2023年のプログラムが発表されたばかりのマリー=ジョゼ&ヘンリー・クラビス・スタジオで行われる。同スタジオは、実験的パフォーマンスアートやビデオアート、フィルム、ダンス、音楽作品のためのスペースで、抽象表現主義やポップアートの展示に近い場所にある。2019年のオープン以来、注目作品が定期的に公開され、評論家から高い評価を受けてきた。
その中には、TEDトークを彷彿とさせるパフォーマンスが好評を博したノラ・トゥラートや、映像とダンスを組み合わせ、アートがどのように受け止められるかを探求するシャフリヤール・ナシャトの作品などがあり、最近では実験的ダンスで知られるオクウィ・オクポクワシリが、レジデンスアーティストとして活動している。また、ビデオアートの先駆者、久保田成子のこれまでほとんど公開されてこなかったインスタレーションなど、歴史的な作品が展示されたこともある。
メディア&パフォーマンスアート部門のチーフキュレーター、スチュアート・カマーは、ARTnewsの取材に対し、同スタジオの目的は「美術館を生きた有機的な場所として構想する」ことだとし、「歴史を再考しながら、新進アーティストが歴史とのつながりを見出すきっかけを提供したい」と思いを語った。
23年の皮切りには、現在MoMAで開催中の展覧会、「Just Above Midtown(ジャスト・アバブ・ミッドタウン)」(23年2月18日まで)に関連するパフォーマンス・アート・フェスティバルが予定されている。
「Just Above Midtown」展は、リンダ・グッド・ブライアントがニューヨークで1974年に設立し、86年にクローズするまでアートシーンに大きな影響を与えた同名のギャラリーを取り上げたもの。このギャラリーは、黒人アーティストの後押しを目的としていた。当時、ニューヨークの主要ギャラリーは、黒人アーティストを扱うことがほとんどなかったからだ。
2月に開催されるこのフェスティバルでは、センガ・ネングディの最新作発表も計画されている。同作品は、ケイリン・サリバン・トゥーツリーズとのコラボレーションで制作される。
4月には、MoMAでは数十年ぶりとなるビデオアートの企画展と並行して、同館が所有するローレンス・アブ・ハムダンのビデオインスタレーション《Walled Unwalled(壁のある、壁のない)》(2018)が展示される。アブ・ハムダンが「耳の目撃者」と呼ぶこの作品は、壁やドアなどを通して聞こえた音が証拠として重要な役割を果たした訴訟や事件をもとに、壁の政治的・社会的意味を探るものだ。
続く7月には、作曲家でパフォーマーのパメラZがレジデンスアーティストとして活動を行う。彼女は新しい連作歌曲《Simultaneous(同時性)》を制作し、こちらもインスタレーション形式で展示される予定。さらに9月には、スザンヌ・チアーニとサラ・ダヴァチによる電子音楽作品のパフォーマンスも控えている。40歳近く年の離れた2人の共演は、世代間対話の活性化を目的としたものだ。実際、チアーニはダヴァチのような若いアーティストにとって影響力のある人物とされている。
23年のスタジオプログラムを締めくくるのは、アレクサンドル・エストレラの新作インスタレーション《Flat Bells(フラット・ベル)》。この作品はサウンドスケープとビデオアニメーションを盛り込み、人間と機械の関係を考察するものになるという。
プログラムを企画したのは、トーマス・(T)・J・ラックス、アナ・ジャネフスキー、マーサ・ジョセフなどMoMAメディア&パフォーマンスアート部門のキュレーター、そして映像部門のアソシエートキュレーター、ソフィー・カヴォラコスだ。
メディア&パフォーマンスアート部門のチーフキュレーター、カマーはこう述べている。「美術館にこのようなスペースを持つこと、その意味を問いかけることには多くの学びがある。今後のキュレーションのあり方や、どんな作品をコレクションするかに影響を与えるだろう」(翻訳:山越紀子)
*US版ARTnewsの元記事はこちら。