ロニ・ホーンが約2億円、ジャコメッティが約4億円etc. アート・バーゼル「Paris+」で売れた作品と値段を公開!
アートバーゼル初となるパリでのアートフェア、「Paris+ par Art Basel」(以下、Paris+)」が10月19日(VIPプレビュー)~23日に開催されたが、終日活気にあふれ、売れ行きは好調だった。
Paris+の参加ギャラリーは、人気上昇中のアーティストの新作から、美術史に名を残す巨匠による過去の名作まで、ありとあらゆる種類の作品を出展。その中で好調だったのは、フランスのアートシーンで活躍している作家ではなく、国際的に評価が確立されたアーティストだったようだ。
とはいえ、フランスのギャラリーからも、Paris+は活気にあふれていたとの声が聞かれた。昨年まで長きにわたり、10月のパリでアートフェアを開催していたFIACを超えたと感じているのかもしれない。
パリのギャラリー、テンプロンでエグゼクティブ・ディレクターを務めるアンヌ=クローディ・コリックは、アート・バーゼルが閉幕にあたって発表したプレスリリースに次のようなコメントを寄せている。「ファーストチョイス(*1)に訪れたコレクターの数にも、ブースの混雑具合にも驚かされた。来場者は米国、ラテンアメリカ、中国、そしてトルコからと幅広く、これまでパリで体験したことのない熱気と盛り上がりだった」
アートフェアでの売上情報はギャラリー側の自己申告に頼るしかなく、客観的な検証は困難だ。とはいえ、多くのギャラリーが今回のParis+について発表している内容は、世界の一流アートフェアの域に達している。
では、Paris+で販売された主要作品8点を紹介しよう(各見出しはアーティスト名/ギャラリー名の順に表記)。
Joan Mitchell(ジョアン・ミッチェル)/David Zwirner(デビッド・ツヴィルナー)
販売額:450万ドル(約6億6500万円)
パリでは、ジョアン・ミッチェルのちょっとしたブームが起きている。フォンダシオン・ルイ・ヴィトン(ルイ・ヴィトン財団美術館)で開催中の展覧会は、ミッチェルとクロード・モネの作品を並べて展示するという企画で、ミッチェルの美術史上の重要性を高めるような成功を収めている(2023年2月27日まで)。その勢いに乗ってか、デビッド・ツヴィルナーのParis+のブースでは、ミッチェルの絵画作品《Border(境界)》(1989)が450万ドル(約6億6500万円)で売れたという。
2018年にスイスのバーゼルで行われたアート・バーゼルで、1959年のミッチェル作品が1660万ドルで売れたのと比べれば、販売額はおよそ4分の1だ。これは、《Border》の制作年代がキャリア後期であることが要因だと考えられる。なお、デビッド・ツヴィルナーによれば、今回売れた作品は個人蔵となる。
George Condo(ジョージ・コンド)/Hauser & Wirth(ハウザー&ワース)
販売額:265万ドル(約3億9100万円)
ハウザー&ワースは、9月のフリーズ・ソウルに続いてジョージ・コンド作品が200万ドル台で売れたと報告。ピカソに影響を受け、ゆがんだ顔を描いたコンドの《The Dream(夢)》(2022)が、ギャラリーによると265万ドル(約3億9100万円)で販売されている。フリーズ・ソウルでのコンド作品の販売額は、これをやや上回る280万ドルだった。
Alberto Giacometti(アルベルト・ジャコメッティ)/kamel mennour(カメル・メヌール)
販売額:270万ドル(約4億円)、143万ドル(約2億1100万円)
パリのギャラリー、カメル・メヌールは、初日にアルベルト・ジャコメッティの彫刻2点が売れたと報告。1つは《Composition(コンポジション)》(1927-28)で、金額は275万ユーロ(約270万ドル、約4億円)。もう1点は《Figurine(小像)》(1953-54)の145万ユーロ(約143万ドル、約2億1100万円)だ。いずれもオークションでのジャコメッティ作品の落札額には及ばないが、Paris+での販売額としては最高レベルのものだ。
Roni Horn(ロニ・ホーン)/Xavier Hufkens(グザヴィエ・ユフケンス)
販売額:130万ドル(約1億9200万円)
ロニ・ホーンのミニマルなガラス彫刻は、どのアートフェアでも人気が高い。Paris+でも同様で、グザヴィエ・ユフケンズの発表によれば130万ドル(約1億9200万円)で売れている。これは、BTSのメンバー、RMが最近購入したホーン作品を10万ドル上回る金額だ。
なお、この作品には《Untitled (“I was His Most Virtuous Highness's pillow bearer for twenty-six years. I accompanied His Majesty on travels all around the world..., - His Majesty could not go anywhere without me...)(無題〈私は26年間、高潔な殿下の枕持ちを務めました。陛下と一緒に世界中を旅しました……陛下は私なしではどこにも行けませんでした……〉)》という不思議なタイトルがついている。
Robert Ryman(ロバート・ライマン)/Pace Gallery(ペース・ギャラリー)
販売額:90万ドル(約1億3300万円)
ロバート・ライマンの抽象画は、デビッド・ツヴィルナーとペース・ギャラリーのブースに出展され、人気を集めた(ライマン財団は2021年にペースを離れツヴィルナーと契約)。ツヴィルナーはライマンの《Untitled(無題)》(1963)が300万ドル(約4億4300万円)で、ペースは《Surface Veil(表面のベール)》(1970)が90万ドル(約1億3300万円)で販売されたと発表している。
《Surface Veil》は、グラスファイバーのパネルにマスキングテープの断片を貼り付けたシリーズに属する作品だ。同様の作品は、サンフランシスコ近代美術館やニューヨークのグッゲンハイム美術館などに所蔵されている。
Günther Uecker(ギュンター・ユッカー)/LGDR
販売額:85万ドル(約1億2500万円)
ギュンター・ユッカーは92歳の今も現役で、釘を複雑なやり方で組み合わせて見る者の知覚を惑わせるような抽象作品を制作している。そのユッカーの新作には、85万ドル(約1億2500万円)で買い手がついたと、ロンドン、香港、ニューヨーク、そしてパリにもギャラリーを展開するLGDRが報告している。
一方、同ブースに出展されたフランス人アーティストはこれに遠く及ばなかったようで、マルシャル・レイスの新作は17万5000ドル(約2600万円)とユッカーの5分の1程度にとどまった。レイスはパリ随一の現代美術館、ポンピドゥー・センターで回顧展を開催した実績があり、ユッカーはそうではないことを考えると、なんとも皮肉な話だ。
Michael Ray Charles(マイケル・レイ・チャールズ)/Templon(テンプロン)
販売額:13万8000ドル(約2000万円)、19万6000ドル(約2900万円)
パリの老舗ギャラリー、テンプロンは、マイケル・レイ・チャールズの作品が14万ユーロ(約13万8000ドル、約2000万円)と20万ユーロ(約19万6000ドル、約2900万円)で売れたと発表。レイ・チャールズはテキサス在住のアーティストで、現在ケ・ブランリー美術館(パリ)の企画展に作品が展示されている。
テンプロンでもフランスの有名作家はあまり振るわなかったようで、ポンピドゥー・センターで回顧展が開催されているジェラール・ガルーストも、販売された作品は9万5000ユーロ(約9万3500ドル、約1400万円)という結果だった。
Anicka Yi(アニカ・イー)/Gladstone Gallery(グラッドストーン・ギャラリー)
販売額:15万ドル(約2200万円)
アニカ・イーは、人間の感覚、特に嗅覚に焦点を当てたインスタレーションでアート界のスーパースターになった。しかし今、ニューヨークのグラッドストーン・ギャラリーの個展で展示されているのは、アクリル絵の具で描かれた魚の卵や皮のように見える絵画で、AIが生成したアートのように見えなくもない(個展は11月12日まで)。
グラッドストーン・ギャラリーのParis+のブースでは、このシリーズの作品が1点展示された。同ギャラリーによると、作品は15万ドル(約2200万円)で販売されたという。これまでのオークションでは、これより低い価格で落札されていることから、今回の販売額は期待はずれというわけではないだろう。(翻訳:清水玲奈)
From ARTnews