アートに特化したブロックチェーン企業「アーキュアル」が始動。より厳密な作品の証明書発行が可能に
アート・バーゼルの親会社MCHグループと、チューリッヒのアートNPO団体LUMA財団が立ち上げた企業、「アーキュアル(Arcual)」が11月3日、始動した。アーキュアルは、NFTとは異なり、アート業界に特化したスマートコントラクトを用いる新しいブロックチェーンを提供する。
アーキュアルのスマートコントラクトは、アーティストやギャラリー、美術館、コレクターに、作品の出所や販売契約を記録する標準的な方法のほか、ロイヤリティの分配や真正性を示すためのデジタル証明書発行の機能を提供する。
同社のCEO、バーナディン・ブロッカー・ヴィーダーは、ARTnewsの取材にこう答えた。「アーキュアルの構想がスタートしたのはNFTブームの前なんです。3年半前、アート・バーゼルとLUMA財団のメンバーが、アート業界が抱える問題の解決にブロックチェーンが役立つのではないかという議論を始めました」
アート業界を対象とするブロックチェーンの新興企業は、アーキュアルのほかにもある。昨年は、フェアチェーン(Fairchain)とロバス(Lobus)がアート特化型のブロックチェーン技術を用いたサービスに参入した。これに対し、アーキュアルは2者検証による差別化を目指している。
通常、スマートコントラクトを作成する際、そのコントラクトには1つのウォレットから情報が入力される。デジタルアートやNFTアートの場合、オンラインで作品を直接見ることができるため、さほど問題にならないが、現物の美術品では事情が異なる。現物の場合、契約書の情報や作品が本物かどうか、契約作成者の評判を信用する以外にないのが実情だ。
アーキュアルでは、アーティストとギャラリーの2者が契約書と鑑定書を作成する。これによって、その後の全ての取引において、購入者は真正性が証明された作品を手にすることができるという。
「アーティストとギャラリーが同時に契約を行うことで、作品が実際に存在することを保証する証明書が発行できるとブロッカー・ヴィーダーは言う。「一般的に、分散型パブリックブロックチェーンでは情報入力についての監視が厳しくありません。そうした点で対策が必要でした」
ブロッカー・ヴィーダーは、MCHグループやLUMA財団のような特定の企業や団体だけに属さない、真に分散化されたブロックチェーンのエコシステムを思い描いている。「分散化の要点は、アート業界の複数の異なる組織にホストされているサーバーにまたがって情報を保存できること」だと彼女は説明する。
「今はMCHグループとLUMA財団だけですが、アート業界からより多くの参加者が加わるれば、アート取引で発生するお金が暗号資産業界ではなく、アート業界の中で回る初のブロックチェーンエコシステムを構築できます」。
現在、アーキュアルのベータ版が一部のギャラリーに提供されている。
アーキュアルが始動したことで、アート・バーゼルの香港、バーゼル、パリのアートフェアでこれまでブロックチェーンのパートナーだったテゾス(Tezos)と今後も提携を続けるのかという疑問の声もある。
この件でアート・バーゼルの広報担当者は、MCHとアーキュアルはともにMCHグループの傘下にあるが、アーキュアルは「アート・バーゼルとテゾスの提携関係には何ら影響を与えない」とARTnewsへメールで回答。12月初めに行われるアート・バーゼル・マイアミ・ビーチでも、テゾスとの関係を続ける予定だと述べた。(翻訳:石井佳子)
*from ARTnews