ルーベンスの名画を狙った環境活動家にドイツが損害賠償を命令
ドイツ・ミュンヘンの国立美術館アルテ・ピナコテークで2022年8月、環境活動家がピーテル・パウル・ルーベンスの絵画と自らの手を糊付けした抗議行動について、法的措置の結果が出たと地元メディア『Monopol』が報じた。
『ドイツ放送協会(Deutsche Welle)』によると、標的にされた作品はルーベンスの《幼児虐殺》(1638)で、キャンバスは無傷だったものの、額縁が損傷した。ミュンヘン第一検察庁によると、今回の抗議行動で合計11,000ユーロ(160万円)相当の被害があったという。
ミュンヘン地方裁判所は、この2人の活動家と、一連の様子を撮影していた1人に対し、それぞれ損害賠償を科する刑事命令を出した。検察庁は声明で、相当な罰金を適用したと明かしている。同美術館の広報担当、ティネ・ネーラーも、「もちろん民法に基づく請求を主張します」と、高額な金額になることを示唆した。
活動家の1人と撮影者は、この賠償命令に対して異議申し立てをしており、今後、地方裁判所で争われる予定だ。
今回の抗議行動は、ヨーロッパ各地の美術館で世界的に有名な芸術作品を標的とした一連の行動を指揮する環境活動団体「最後の世代(Letzte Generation)」のメンバーによるもの。
このグループのほかの活動家もこれまでに、ドレスデンのアルテ・マイスター絵画館にあるラファエロの《システィーナの聖母》(1512-13)など、いくつかの名画に自らの体を貼り付ける抗議行動をとってきた。そのほか、同じような環境活動団体が、クロード・モネ、フィンセント・ファン・ゴッホ、エミリー・カーなどの作品にマッシュポテトやメープルシロップなどを投げつけている。
Letzte Generationのウェブサイトによると、その目的は「化石燃料の使用を止める」ことだが、彼らの衝撃的な行動が変革意欲を掻き立てるかどうかについては、世論が二分している。
8月の抗議行動に参加したマイケル・ウィンターは、声明で次のように危機感を露わにした。「私が今日、この絵に自分の体を貼り付けているのは、絶望しているからです。気候の破局はすでに到来しており、ドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州のアール渓谷で起こった洪水災害などの気候変動により、生計を立られなくなっている人々を私たちはすでに目の当たりにしています。もし政府が気候の緊急事態に対して適切な行動をとらなければ、我々の子どもたちに未来はありません」
アルテ・ピナコテークを管理している、バイエルン州立絵画コレクション事務局長のベルンハルト・マーズは、「気候問題に抗議するために、人類の文化における貴重な遺産を損傷することは妥当ではありません」とドイツのメディアに語っている。(翻訳:貝谷若菜)
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