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サザビーズ・アジアのパティ・ウォン会長が退任。急成長中のアジア市場でトップ交代が続く

香港を拠点とするサザビーズ・アジアの会長(シニア・インターナショナル・チェアマン)パティ・ウォンが、30年間在籍した同社を離れることを発表した。サザビーズでは、昨年7月に現代美術部門アジア地区統括を務めた寺瀬由紀も退任している。

パブロ・ピカソの絵画《Mere Tenant un Enfant(子どもを抱く母親)》の前で話すサザビーズ・アジアのパティ・ウォン会長(2010年11月25日、香港にて)。 Photo: D JONES/APP VIA GETTY IMAGES

サザビーズ・アジアでは、長年CEOの職にあったケビン・チンが2021年に15年の在任期間を終えている。パティ・ウォンの退任はこれに続く大きなトップ交代の動きだ。

過去20年間、サザビーズはアジア太平洋地域のコレクターに対するアプローチを強化し、香港を中心とするアジアのアート市場で西洋美術品の販売を拡大してきた。ウォンはチンと二人三脚で、サザビーズ香港本社の急成長を支えている。

ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスを卒業したウォンは、1991年にインターンとしてサザビーズに入社し、中国の美術品・宝飾品の販売などを担当。15年間、英国本社でプライベート・クライアント・サービス部門を統括したのち、2004年にサザビーズ・アジアの会長に就任した。

ウォンは声明で、香港をニューヨークやロンドンに匹敵する美術品売買の中心地とするという目標を達成したことで、サザビーズは1つの節目を迎えたと述べている。

ウォンはさらに「アジア地域の事業はとても好調です。引き続き高い目標を掲げていますが、見通しは非常に良好です」と強調した。現在のところ、アジアにおけるサザビーズの今年度の年間売上高は10億ドル(約1360億円)あまりで、2020年の9億3200万ドル(約1270億円)を上回っている。

ウォンは、サザビーズ・ニューヨークのオークション会場にもたびたび姿を見せ、アジアを拠点とするクライアントの代理人として、欧米からの入札者と競り合って現代アート作品を落札していた。

ウォンの退任に至る背景には、コロナ禍を経て、サザビーズ香港が過渡期を迎えたことがある。21年7月には、やり手の重役として活躍していた現代美術部門アジア地区統括の寺瀬由紀が、秋のイブニングセールとしては過去最高の8800万ドルを売り上げた後、サザビーズを去った。寺瀬はその後、サザビーズの元社員エイミー・カペラッツォらと組んで、アートアドバイザリー会社を立ち上げている。

寺瀬の後任には、現代アートのスペシャリストだったアレックス・ブランチクが就任。それに先立って、サザビーズのオーナーであるパトリック・ドラヒの息子、ネイサン・ドラヒがアジアのマネージング・ディレクターに任命されている。

サザビーズのチャールズ・スチュワートCEOはウォンのことを、オークション界における「存在感のある立役者」と呼び、サザビーズのアジアにおける拠点の歴史に足跡を残すことになると称えた。サザビーズ・アジアのニコラス・チャウ会長も、「アジアのアート市場で、アジアと西洋の美術品、そしてラグジュアリー分野がバランス良く成長している今日の状況は、パティのビジョンに負うところが大きい」と評価した。

年2回のイブニングセールでは、香港以外に日本、韓国、シンガポールでもトップクラスの作品が展示されるなど、さらなる市場の拡大が期待される。スチュワートは、今後もアジアに注力するとして、サザビーズのチームは「先見性と豊かな専門知識を持ち、事業拡大のできる人材だ」と述べている。(翻訳:清水玲奈)

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