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「悲劇的な損失」「先住民に対する虐待」──アボリジニの古代遺跡を何者かが破壊

南オーストラリア州の「聖なる洞窟」にあるアボリジニの古代遺跡が破壊され、当局は「オーストラリアで唯一の芸術作品に対する、大規模で悲劇的な損失」と非難。遺産登録されているこの場所の保護の欠如に対する不満が再燃している。

アボリジニの古代遺跡に掘られた文字。Photo: Mirning cultural group

鉄のフェンスの下を掘ってヌラーバー平原にあるクーナルダ洞窟に侵入した何者かが、石の彫刻に「今は見るな、ここは死の洞窟だ」という文字を刻み、建造物を修復不可能な状態に破壊したと当局が発表した。 

古代アボリジニ文化の考古学者であるケリン・ウォルシュは、12月21日、『ガーディアン』紙に次のように語った。

「洞窟の表面はとても柔らかいので、芸術を破壊することなく落書きを消すことは不可能です。これは大規模で悲劇的な損失です」 

南オーストラリア州の検事総長で原住民担当大臣のキヤム・マハーは、オーストラリアの『ABCラジオ』で、「この事件は、率直に言って衝撃的」と話し、罪を犯した者に厳しい罰を与えるよう呼びかけた。現地の法律では、アボリジニの遺産を破損した場合、6カ月の懲役または6千700ドル(約90万円)の罰金が科される。 

この洞窟は、3万年前から続く、独特の彫刻様式を持るミルニング族のもの。2014年に国家遺産に登録され、環境・水資源省とミルニング族からなるファーウエストコースト・アボリジナル・コーポレーションの管轄となっている。ミルニング族は現在も定期的に聖なる洞窟を訪れているが、オーストラリアの法律では部族が直接管理する権利はまだ認められていないため、彼らは自分たちでこの遺跡を保護することができない。訪れるにしても、南オーストラリア州の環境部門からフェンスの鍵を借りる必要があるのだ。 

南オーストラリア州の広報担当者は、『ガーディアン』紙の取材に次のように話す。「この破壊行為は衝撃的で心が痛みます。南オーストラリア州政府は、ここ数カ月間、ミルニング族やその他の関係者と協議し、この重要な場所をよりよく保護するための総合計画を策定してきました。洞窟はアクセスしにくい場所にある上、フェンスが設けられているので、不法侵入が阻止できる状態にあります」。洞窟をより保護するため、監視カメラの設置も検討されているという。 

しかし、専門家や先住民族の活動家は、フェンスは1980年代に設置されて老朽化しており保護が不十分な上、すでに何者かに破壊されている部分があると報告。政府の早急な対応を求めている。 

ガーディアン』紙によると、オーストラリア洞窟学連盟保護委員会のクレア・バスウェル委員長は、7月に議会常任委員会に提出した文書で、「効果的なゲートを作らず、24時間稼働する監視カメラなど最新のセキュリティサービスを活用しなかったことが、この破壊行為を許してしまった一因だ」と述べている。

今回の事件は、無謀な破壊によってアボリジニの文化が失われた最新の事例に過ぎない。2020年には、鉱山会社リオ・ティントが鉱山を拡張するため、4万6千年前のジュウカン峡谷の岩窟を爆発させた。リオ・ティント社は、破壊に関する政府への提出資料で、「遺跡があるという重要な情報が届かなかったため、鉱山計画を見直す機会が失われた」と遺跡を保護する重要性について訴えた。 

ミルニング族の長老であるアンクル・ブンナ・ローリーは、この破壊行為について、「絶え間ない無礼の一例だ」と英BBCに訴えた。「それは我々の国に対する侮辱であり、我々の歴史に対する虐待だ。なくなったものは、もう取り戻すことはできない」(翻訳:編集部) 

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