バイデン大統領、トランプ時代の連邦政府ビル内パブリックアート制限を解除
ジョー・バイデン大統領は1月31日、連邦政府の建物で展示可能な視覚芸術作品を制限するトランプ時代の規定を撤回した。この規定が施行されたのは2020年7月。ジョージ・フロイドとブリオナ・テイラーが警察官に殺害されたことに抗議するブラック・ライブズ・マター(BLM)のデモが全米に広がる中でのことだった。
この規定で作品の要件として求められていたのは、米国史上の著名な人物や出来事を題材とし、「建国の基盤となった理想が描かれていること」や「抽象的または現代的な表現ではなく、人物を写実的に表現すること」だった。
候補作の幅を狭めるこの規定によって、政府施設に展示する芸術作品の調達を行う「アート・イン・アーキテクチャー(Art in Architecture)」プログラム(米国共通役務庁〈GSA〉が管轄)では、多くのアーティストが検討対象から外された。GSAが発表した今回の規定改正では、候補作品や表現様式の多様化を目指し、主題の制限を撤廃している。
「GSAのパブリックアートコレクションは国の宝です。あらゆる種類のアーティスト、そしてあらゆるコミュニティ出身のアーティストに公平性と機会を保証するという政府の重要な役割を、今回の決定は反映しています」と、同庁のロビン・カーナハン長官は声明で述べている。
カーナハン長官はさらにこう続ける。「パブリックアートは人々のためにあるものです。さまざまな人を力づけ、刺激を与えられるよう、公共空間を彩る作品が多様性と創造性に富んだものになるよう努めていきたいと思います」
トランプ前大統領による規定では、銅像の題材は元大統領、奴隷制度廃止論者、あるいは勤務中に死傷した警察官や消防士などと定められており、文書には「今日のアメリカの偉大さは、過去の犠牲の上にある」と記されている。
また、BLMのデモ隊が標的にしていた南北戦争時代の将軍、奴隷制や植民地主義に関連する歴史上の人物の記念碑を巡る議論にも一節を割き、次のように記述されている。「これらの像は私たちだけのものではなく、一時の政治的流行で気まぐれに廃棄されるべきではない。何世代にもわたる祖先たちや、まだ生まれぬ子孫たちのものなのだ」
1972年以来、アート・イン・アーキテクチャーは政府施設に設置する約500点のパブリックアートを発注してきた。トランプ時代のナショナリスト的な規定に沿わなかったであろう作品の中には、シカゴのジョン・C・クルシンスキー連邦ビルの外にそびえ立つアレクサンダー・カルダーの大型彫刻《Flamingo(フラミンゴ)》(1974)や、ボストンのジョン・ジョセフ・モークリー連邦裁判所内の7カ所に展示されたエルズワース・ケリーの単色パネルの連作《The Boston Panels(ボストンパネルズ)》(1998)などがある。
「地域によって、またコミュニティによって、さまざまなアートがあります。今回の決定により、それぞれの地域社会や米国中の多様な人々を反映する作品を、各地の連邦政府ビルで目にする可能性が開けました」と、GSAのクリスタル・ブラムフィールド氏は声明で述べている。
バイデン政権が、政府関連施設の美観に関するトランプ時代の決定を取り消すのはこれが2度目となる。トランプ前大統領は2020年12月に、政府が建設費5000万ドル以上の建物を新設する際は「美しい建築」にしなければならないという大統領令に署名した。「古典主義建築が望ましく、これを既定の様式とする」というこの大統領令は、ブルータリズムや脱構築主義を「美的魅力に乏しい」と見下していた。バイデン大統領は2021年2月に、これを撤回している。(翻訳:野澤朋代)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年2月2日に掲載されました。元記事はこちら。