建築家が再帰的に奏でるポリフォニー──「山田紗子展 parallel tunes」【EDITOR’S NOTES】
自由な造形と大胆な色彩で知られる建築家、山田紗子の初となる個展がTOTOギャラリー・間で開催されている。さまざまな音が響くポリフォニーとして世界を描きたいと語る彼女がつくりだした展示空間は、過去のプロジェクトでつくられた模型やドローイングを使って再帰的にポリフォニックな環境を立ち上げる試みとなっていた。

建築の展覧会はときに難しい。当たり前ながら完成した建物や空間をその場で体験できるわけではなく、模型やドローイングは情報が圧縮されやすい。そこから建築家の実践や思想を辿ることができるのも魅力のひとつではあるが、では会場で模型を観る体験とは一体何なのかという疑問も残る(もちろん、模型や資料を見られる機会自体が貴重なことも多々あるだろう)。
そんな疑問に対し、現在TOTOギャラリー・間で開催されている「山田紗子展 parallel tunes」はひとつのアプローチを提示しているように思われた。
1984年生まれの山田紗子はランドスケープデザインを学んだのち藤本壮介建築設計事務所での勤務を経て、東京藝術大学大学院で建築を学んで独立。自邸である《daita2019》(2020年日本建築設計学会賞大賞)や《miyazaki》などの住宅作品で知られ、近年は「EXPO 2025 大阪・関西万博休憩施設」や「やぶ市民交流広場YBパーク」など、公共空間の設計も手掛けている。その作品の特徴は、自由な造形や原色を取り入れた色彩の展開、生命感に満ちたインスタレーションにある。さまざまな要素が混ざり反響しあうポリフォニックな空間をつくっており、近年注目される建築家のひとりだと言えるだろう。

そんな同氏の初の個展となるこの展覧会は、まさにポリフォニックな空間を立ち上げるものだった。会場には《daita2019》の1/5模型と等身大を超える断面ドローイング、《miyazaki》《hebi》《pony》などの模型・ドローイングが互いに近接して並んでおり、中庭には大阪・関西万博につくられた《expo'25 rest area 3》の大型模型が置かれ、別の展示室では3つの壁を使った映像インスタレーションが展開されている。
「調和を目指すシンフォニーではなく、和音も不協和音も同時に響く、ポリフォニーとして世界を描きたい」とステートメントに書かれているように、その思想が実装された建築を知る展示ではなく、空間として体験するような場がつくられていると言えるだろう。1/5サイズの模型はミニチュアとして見るには大きすぎるが、再現された空間としては小さすぎ、その隣にあるドローイングは壁を覆うほどの大きさで、それらが会場内に展開されることで独特のリズムが感じられてくる。

作家本人が展覧会の予告動画のなかで「違ったプロジェクトのドローイングと模型が非常に近接して置かれていて、新しい環境みたいなものができあがる」と語っているように、鑑賞者が体験するのはひとつの環境である。単に一つひとつのプロジェクトを観ていくのではなく、模型とドローイングの間を通り抜けるようにして会場内を巡るなかで建築の背後にある思想に触れるような体験が設計されている。
興味深いのは、本展が一種の再帰的な構造をもっていることだ。模型やドローイングはそもそも、山田の建築思想である複数の要素が同時に響き合うポリフォニーが刻み込まれたものだろう。その思想を内包した素材を互いに近接させ、ひとつの空間に組み立てる手つき自体もまた、同じ思想に従っている。思想を体現した表象を使って、同じ思想をもう一度別のスケールで実装すること。本展が単なる作品紹介でも思想を体現するインスタレーションでもない、独特の後味を残すのは、この再帰的な設計ゆえだろう。それは建築家が空間を考えるということが何を意味するのか、展示という形式でもう一度示してみせた試みでもあったのかもしれない。
「山田紗子展 parallel tunes」
会期:4月16日(木)〜7月12日(日)
場所:TOTOギャラリー・間(東京都港区南青山1-24-3TOTO乃木坂ビル)
時間:11:00〜18:00(木金は20:00まで、入場は30分前まで)
休館日:月曜・祝日 5月4日(月)~6日(水)、ただし5月3日(日・祝)は開館