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ナン・ゴールディンのドキュメンタリーがアカデミー賞にノミネート! 医療用鎮痛剤オピオイドをめぐる闇を暴く

アメリカの周縁に生きる人々を切り取ってきた「私写真」の巨匠、ナン・ゴールディン。アメリカで大きな社会問題となったオピオイド(医療用鎮痛剤)危機に対する富豪サックラー一族の関与を取り上げた彼女とローラ・ポイトラス監督による新作『All the Beauty and the Bloodshed』が、アカデミー賞ドキュメンタリー部門にノミネートされた。

ナン・ゴールディンとドキュメンタリー作品『Still from All the Beauty and the Bloodshed』の1シーンより。同作は2022年の第79回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞している。Photo: Courtesy Neon

この映画は、中毒性のある鎮痛剤、オキシコンチンを製造するサックラー一族の製薬会社、パデュー・ファーマとアメリカ内外の主要な美術機関との金銭的なつながりを追う社会派ドキュメンタリーであり、ナン・ゴールディンというアメリカが誇る写真家の数十年にわたるキャリアを掘り下げる作品でもある。

ゴールディン自身、かつてオキシコンチンの中毒に苦しみ、過剰摂取から生還した経験がある。彼女はその後2017年に、活動団体P.A.I.N.(Prescription Addiction Intervention Now:処方薬中毒への介入を今)を立ち上げ、サックラー一族を法廷に引きずり出し、2021年にはパデュー・ファーマを解散に追い込んだ。

9月のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した本作でメガホンを取ったのは、ローラ・ポイトラス監督。彼女は、NSA(アメリカ国家安全保障局)とCIA(中央情報局)の職員で国際的監視網の存在を告発したエドワード・スノーデンに焦点を当てたドキュメンタリー『Citizenfour』(2014年)で、2015年にアカデミー賞ドキュメンタリー賞を受賞している。

この映画がニューヨーク映画祭で初公開されたとき、US版ARTnewsのアレックス・グリーンバーガーはこう書いている。

「もし本作が、単に巨大な権力に立ち向かうゴールディンを追った内容だったとしても、十分な力がある。けれど、ポイトラスはさらに一歩進んで、ゴールディンの人間としての、そしてアーティストとしての進化を見事に描ききった。一人の芸術家についての素晴らしいドキュメンタリーであり、活動家と芸術、芸術と人生、人生と仕事の間のあらゆる境界線を消し去る作品だ」

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