著名アーティストも参加! アートで絶滅危惧種を“楽しく”学ぶプロジェクトがイギリスで始動
イギリスの500以上の美術館や博物館が連携し、小学生や著名アーティストたちとコラボして、気候変動により危機にさらされている同国の生物多様性の保全を訴えるプロジェクトを進めている。
「The Wild Escape」と名付けられたプロジェクトは、アーツカウンシル・イングランドが出資する美術館・博物館の共同事業としては最大級のものだ。インカ・ショニバレCBE、ヘザー・フィリップソン、マーク・ウォリンガーといった現代アーティストや、ミュージシャンでもあるFKAツイッグスなどが参加している。
このプロジェクトは、イギリスの小学生に気候変動で絶滅の危機に追い込まれた動植物の作品を作ってもらい、没入型ゲーム制作スタジオのPRELOADEDが、それら作品をアニメーション化するというもの。プロジェクトの運営は、イギリスの慈善団体アート・ファンドが、世界自然保護基金(WWF)、王立鳥類保護協会、ナショナル・トラスト、イングリッシュ・ヘリテージと共同で行っている。
また、イギリスの著名アーティストたちもこのプロジェクトのためにオリジナル作品を制作した。
アートと音楽の分野をまたいで活躍しているFKAツイッグスことタリア・デブレット・バーネットは、カブトムシや蛇など、イギリスに生息する生き物と自分とを融合させたセルフポートレートを描いた。《A self-portrait in Venus, through a two-fold screen》と題されたこの作品は、ロンドンのナショナル・ギャラリーにあるディエゴ・ベラスケスの《鏡のヴィーナス》(1647)と、ハリリ・コレクションが所蔵する19世紀の日本画家、柴田是真による二曲一隻の屏風絵(1881)からインスピレーションを受けたものだ。
FKAツイッグスはイギリスPA通信の取材に対し、こう語っている。
「世界、豊饒、多産、永遠、自分がこの世界に残すもの、子どもを持つかどうかなどに関わる個人的な自画像のようなもので、動物や生き物を通して自分が感じていることを表現した。私は、本物だと感じられるものや自然で野生的なものが好きだし、自分自身をワイルドな女性、ワイルドなアーティストだと思っている」
ターナー賞受賞アーティストのマーク・ウォリンガーは、イギリスのロマン派詩人、ジョン・キーツの詩に着想を得て、《Fled is that Music》という作品を制作。「Ode to Nightingale(ナイチンゲールに寄す)」というこの詩の中で、キーツは忘却という不可避の運命とナイチンゲールを重ね合わせたが、今やこの鳥そのものが絶滅しかけているのだ。ウォリンガーは声明で、作品をこう説明する。
「ナイチンゲールの数は、60年代と比較して93パーセントも減少し、絶滅の危機にある。英文学の最高傑作の1つであるキーツの詩にインスピレーションを与えたこの小鳥が、絶滅しかねない状況にあるというのは衝撃的だ。私の作品では、消えていくナイチンゲールの声を語る最後の4行半を残し、この詩の93パーセントを消去している」
また、最先端のテクノロジーや手法を採用したセットデザインやパブリックアートを手掛けるマルチメディア・アーティストのエス・デブリンは、やはり絶滅の危機にあるイギリス固有種のハエの絵を描いた。彼女は、昔の科学者たちが野外で観察したものを素早くスケッチしていたことに着想を得たという。
ロンドン自然史博物館は、2021年にイギリスの生物多様性に関する調査結果を集約した「Biodiversity Trends Explorer」というウェブサイトを立ち上げている。今回の「The Wild Escape」プロジェクトは、これに応えるものとして企画された。このサイトによると、イギリスでは1970年代以降、乱開発によって生態系の半分近くが失われた。また、同国の哺乳類の4分の1、植物の5分の1ほどが絶滅の危機に瀕しているという。
アート・ファンドのディレクター、ジェニー・ウォルドマンは声明で次のようにコメントしている。
「初の試みであるこのプロジェクトで示したいのは、各地の美術館・博物館が協働することで新しい学びの場を提供できるということ。特に、私たちのすばらしいコレクションを見た子どもたちから、創造的な反応を引き出したい。子どもたちには、美術館・博物館から学びや楽しみを得てほしい。それと同時に、この国が直面する最大の課題の1つ、生物多様性の喪失に目を向けてほしいと願っている」(翻訳:野澤朋代)
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