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  • 2023.03.01

メトロポリタン美術館、画家3人の国籍をロシアからウクライナに変更

NYのメトロポリタン美術館は、これまで「ロシア人」にカテゴライズしていた少なくとも3人のアーティストを「ウクライナ人」表記に修正し、また展示の解説文も変更した。ある作品の解説文では、ロシア軍によるウクライナの文化資産の破壊行為に触れる記述も追加された。

アルヒープ・クインジ《赤い夕日》(1905–08)Courtesy: Creative Commons/Metropolitan Museum of Art

国籍が変更となったのは、イヴァン・アイヴァゾフスキー(Ivan Aivazovsky)、アルヒープ・クインジ(Arkhyp Kuindzhi)、イリヤ・レーピン(Ilya Repin)の3人で、いずれも19世紀に活動していた画家だ。この3人の国籍は、他の美術館でもロシアウクライナ、両方のケースが存在する。画家生活の中で、彼らが住むところを転々としたこと、そして両国の国境が時と共に変わってきたという事情があるためだ。

同美術館の広報担当者は今回の変更について、こう説明する。

メトロポリタン美術館では常に、コレクションの所蔵品について調査と検討を続けています。これは作品を分類、提示する上で、最も適切で正確な方法を見定めるためです。今回の分類変更は、この分野の研究者と共同で行われた研究にもとづいて更新されました」

例えばクインジの場合は、ロシア帝国の一地区であるエカテリノスラフ県マリウポリスキー郡で生まれた。これは現在のウクライナ、マリウポリの街にあたる場所だ。

ネット上では、クインジのようなアーティストはウクライナ人とするべきだとの声が高まっていた。中でも積極的にこの点を訴えてきたのが、芸術史学者のオクサナ・セメニクが運営するツイッターアカウント「Ukrainian Art History」だ。

1月には、クインジがウクライナ人アーティストとされなければならない理由を綴ったツイートが、同アカウントにスレッド形式で投稿され1400件以上のいいねを集めた。セメニクは、この時連投されたツイートの1つに「彼の有名な風景画はすべて、ウクライナ、ドニプロ地域、大草原を描いているが、それだけではなく、これはウクライナの人々についての絵画なのだ」と書いている。さらに一連の投稿を締めくくるツイートでは、ウクライナのドニエプル川に沈む真っ赤な夕日を描いた作品《ドニエプル川の赤い夕日》(1905-08)に触れ、この時点でメトロポリタン美術館がクインジをロシア人と表記していた点を指摘した。

メトロポリタン美術館はその後、クインジの帰属をウクライナ人に変更した。さらに《赤い夕日》に添えられた館内解説文には、以下のような一文が加えられた。「20223月、ウクライナのマリウポリにあるクインジ美術館はロシアの空爆により破壊された」

「広大なひとつのロシア」という解釈を是正する動き

一方、旧ロシア領で現在のウクライナに位置する町、チュグエフで生まれたレーピンも、ウクライナ人アーティストとして分類されることになった。また、当時ロシア帝国に属していたクリミア半島のフェオドシヤ生まれのアイヴァゾフスキーも、メトロポリタン美術館ではウクライナ出身と位置づけられた。ウクライナ当局によれば、同国内にあったアイヴァゾフスキーの作品は、20222月に始まったウクライナ侵攻によってロシア軍に略奪されたという。

彼の帰属をめぐる問題は、過去にも議論を呼んだことがある。2014年にロシアがクリミアに侵攻したのち、ロシアとウクライナの両国はアイヴァゾフスキーが自国の芸術家だと主張した。それでも、AFP通信が2017年に指摘したように、この時点ではアイヴァゾスフキーはロシア人だと考える人が多かった。

アイヴァゾフスキーの帰属は今も、その作品が展示されている美術館や国によって異なる。アルメニア国立美術館では、アルメニア人と定義されている(彼はアルメニア系の家族の元に生まれている)。また、モスクワにある国立トレチャコフ美術館ではロシア人とされている。一方でウクライナの政治家は最近になって、彼はウクライナ人だと主張している。

昨年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、一部の美術館はロシアおよびウクライナの文化を背景に持つ芸術作品の位置づけを再検討してきた。ロンドン・ナショナル・ギャラリーは、1899年前後に描かれたエドガー・ドガの絵画について、ネット上の反発を受けて、これまでの《Russian Dancers(ロシアの踊り子)》というタイトルから《Ukrainian Dancers(ウクライナの踊り子)》に改めている。メトロポリタン美術館も、同じシリーズのドガのドローイングについて、ひっそりとタイトルを変更し、現在この作品は《Dancer in Ukrainian Dress(ウクライナ風の衣装を着た踊り子》というタイトルで展示されている。ただし別のドガのドローイングについては、いまだに《Russian Dancers》というタイトルのままだ。

今回の帰属変更は、ウクライナの歴史学者、オレーシャ・フロメイチュク(Olesya Khromeychuk)の言葉を借りるなら、「意図的か怠慢かを問わず、この地域を『果てしなく広がるひとつのロシア』と捉える誤った解釈」について、責任ある対応を目指す動きと言える。ツイッターアカウント「Ukrainian Art History」の創設者であるセメニクは、メトロポリタン美術館の分類変更を歓迎し、クインジの帰属変更についてFacebookで「信じられないようなニュースだ」と評した。(翻訳:長沢智子)

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