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グリーン経済への移行を! スコットランドの環境活動家が「ウォレスの剣」のガラスケースを破壊

「This is Rigged(これは不正操作だ)」という名を冠したスコットランドの環境活動家グループが、スコットランドのナショナル・ウォレス・モニュメントで抗議運動を行った。このモニュメントは20世紀初頭の女性参政権運動においても重要な場所として知られる。

今回の抗議行動に用いられた石に残されたメッセージ。Photo: Courtesy This Is Rigged

「This is Rigged」のメンバーであるKatとXanderと名乗る二人は、ノミやハンマー、石を使い、ここで展示されているスコットランド独立に貢献した騎士ウィリアム・ウォレスの剣のガラスケースを破壊。政府はグリーン経済への移行をもっと加速させ、今後、新たなガスや石油の採掘を止めるべきだと訴えた。この様子を捉えた動画がTwitterに投稿されている

ナショナル・ウォレス・モニュメントを管理するスターリング・カウンシルの広報担当者は、これを「恥ずべき行為」だと断じ、メール取材でこう述べた。

「我々は現在、この歴史的なウォレスの剣に損傷があるかどうか調査中であり、修理にかかる費用を試算しています。そのため、この剣の展示は今後少なくとも数週間は見送ることとなります」

この抗議運動は、ジャスト・ストップ・オイルやLetzte Generationといったグループが昨年美術館で行ってきたものと類似しているように思えるが、活動家らは、「異なる歴史に触発されたもの」としている。

同モニュメントは、19世紀末から20世紀初頭に起こったサフラジェット(フェミニストたちによる女性参政権運動)においても重要な場所だ。サフラジェットの活動家たちは1912年、岩を使ってウォレスの剣のケースを壊すことで抗議運動を行ったのだが、このときに使用された岩には「あなた方の自由は剣によって勝ち取られた」というメッセージが残されていた。

今回、「This is Rigged」のメンバーもこれに倣い、石に同様のメッセージを記している。

「あなた方の自由は剣によって勝ち取られた。あなた方の権利は参政権運動によって勝ち取られた。私たちはもう一度、正しいことのために戦わなければならない。これ以上、石油とガスはいらない。今こそ公正な移行を」

「This is Rigged」のハンナ・トーランスは、US版ARTnewsの取材に対し、「私たちの歴史は抵抗の物語です。私たちが持つすべての権利とすべての自由は、人々が戦ってきたものなのです」と語っている。

「私たちはスコットランドを深く愛し、文化を大切にし、それを守りたいと思っています。しかし、スコットランドの主要遺産の70%は気候変動による大洪水の危機にさらされているのです。これら遺産を守るために、私たちは抗議行動を通じて戦います」

スコットランドは巨大な石油生産地だが、イギリスから独立していないため、直接的にその経済的利益を享受できずにきた。1970年代に北海油田が発見されて以来、石油はスコットランド独立のための焦点となっている。

一方、「This is Rigged」の活動家たちは石油・ガス生産のライセンスをこれ以上取得させないよう政府に圧力をかけてきた。代わりに石油労働者たちにグリーンエネルギーの教育をするなど、急成長する再生可能エネルギー分野に投資するよう主張している。

こうした流れを受けて今年1月、スコットランド政府はあらゆる石油・ガスの新たな採掘に反対し、化石燃料による「経済的回収の最大化」を支持しない意向を発表した。とはいえ、これはあくまで草案であり、すでに承認手続きに入っているライセンスはこの方針の対象にはならないと見られる。

しかしトーランスは、この方針を直ちに実行する必要があると話す。スコットランドの既存の油田と今後計画されている油田の埋蔵量をすべて使用した場合、世界の温暖化を2.5℃上昇させる可能性があるからだ。

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