「人種差別は今も美術館の中で生きている」──アメリカ先住民の女性がSNSで差別を告発
3月11日の土曜日、オレゴン州のポートランド美術館にネイティブ・アメリカン・アートの展覧会を見に訪れた先住民の女性が、伝統的な作りのベビーキャリア(背負子)を外すよう注意され、物議を醸した。
この一件に対し、ポートランド美術館は公式な謝罪を発表。女性とその家族に陳謝するとともに、来館者に関する方針の改定を行っている。
アメリカ先住民カルク族の女性は、ヤンクトナイ族のアーティスト、オスカー・ハウの大規模な巡回回顧展を見に子ども連れで同美術館を訪れたが、ビジター・サービスの係員から、背負子を着けたままでは入館を認められないと制止された。リュック着用禁止のルールに反するというのが理由だ。第一報を伝えたオレゴニアン紙によると(個人が特定できる情報は伏せられている)、女性はそれを拒否して入場を諦め、フェイスブックにこの出来事を投稿したという。
フェイスブックには、美術館で背負子の赤ちゃんと一緒に笑顔で写っている写真がシェアされている。しかし、そこに付けられた説明には、「ポートランド美術館──展示されている先住民はクールだが、その文化を日常で実践している先住民はそうではない」と、笑顔とは似つかわしくない心情が吐露されている。彼女はさらに、「皮肉なのは、私たちが先住民のアート展を見に行ったこと。人種差別は美術館の壁の中で生きている」と書いている。
週明けの13日、ポートランド美術館はインスタグラムとツイッターの公式アカウントに謝罪文を掲載した。「当館での残念な出来事」とされたその謝罪声明の一部には、こう書かれている。
「美術館の対応で不快な思いをさせてしまったことを深くお詫びします。私たちは、このご家族が当館で、それもネイティブ・アメリカンの芸術を称える展覧会で、否定的な扱いを受けたことに衝撃を受けています。私たちは、誰もがここで歓迎されていると感じてほしいと思っています。この件は美術館としての価値観を反映していませんが、こうしたことが起きた事実を深く反省しています」
オスカー・ハウ展を担当する同館のネイティブ・アメリカン・アート分野キュレーター、キャスリーン・アッシュ=ミルビーは、オレゴニアン紙の取材にこう答えた。
「先住民と美術館の関係構築は、一朝一夕にできるものではありません。私たちは、地元の先住民の方々と良好な関係を築くために懸命に努力しています。今回の一件が起きたことで、私たち全員は本当に悲しんでいますし、これまでの成果が台無しになってしまうかもしれないと憂慮しています」
同美術館では、今後同じような事態が発生しないよう、ベビーキャリアに関するポリシーを見直している。
一般的に美術館では、リュックサックを抱えての入場は禁止されている。誤って作品にぶつけて破損させる危険性があるほか、最近の環境活動家の抗議行動のように、凶器やマッシュポテト、スープ、接着剤など、美術品を傷つけかねない物品を隠し持つのに使われることもあるからだ。リュックを持ち込める場合でも、お腹側に持つよう求められることが多い。(翻訳:石井佳子)
from ARTnews