「ダビデ像はポルノ」──保護者の批判で、フロリダ州のチャータースクール校長が辞職
フロリダ州のタラハシー・クラシカル・スクールの校長が、ルネサンス美術の授業内容が6年生の児童にふさわしくないとする保護者からの苦情を受けて辞職した。これに関する理事長の発言が、波紋を呼んでいる。
フロリダ州のタラハシー・デモクラット紙によると、授業でミケランジェロのダビデ像を児童に見せたことが事の発端だった。保護者の一部は、ダビデ像を「ポルノだ」と非難したという。
同校の理事長、バーニー・ビショップ3世はスレート誌の取材に答え、学校側は彫刻そのものを問題視してはいないが、教師が児童に「非ポルノ写真」と説明したこと、保護者への事前通知が漏れたことが問題だったと述べた。ビショップはこう続ける。
「保護者がこの学校を選ぶのは、彼らが望む教育を行っているからです。私たちは、カレッジ・ボード(*1)のコースを用意するつもりはありませんし、1619プロジェクト(*2)やCRT教育(*3)のような無用の授業は行いません。バージニア州ではやっているかもしれませんが。親の権利は子どもの権利に優先されます。教師は専門家で、全ての知識を身につけている? 冗談でしょう?」
*1 アメリカ合衆国の大学入試標準テストの1つであるSATや、APプログラムといった高等教育カリキュラムなどの策定・運営を行う非営利団体。
*2 米国の歴史を人種の観点から教えることを学校に推奨するバイデン政権の計画。ニューヨーク・タイムズ紙の特集「1619プロジェクト」に沿ったものとされる。
*3 Critical Race Theory(批判的人種理論)の略。
一方、前校長のホープ・カラスキージャは、保護者への事前通知なしに、筋肉美に溢れたダビデ像の写真を児童に見せることになったのは伝達ミスが重なったためだ、と3月23日付のハフィントン・ポストの記事で語っている。
カラスキージャによると、ある保護者は16世紀のルネサンス彫刻の傑作であるダビデ像を授業で使うことについて、「自分の子どもは見るべきではない」と、真っ向から反論したという。ダビデ像は、巨人ゴリアテを倒した英雄として、旧約聖書のサムエル記に登場するダビデを描いたものだ。
タラハシー・デモクラット紙によると、タラハシー・クラシカル・スクールでは2020年の開校以来、3人の校長が辞任または解雇されている。カラスキージャも、校長就任から1年も経っていない。
同校は、アメリカで1990年代から増えてきたチャーター・スクール(*4)で、フロリダの初等教育で一般的な「古典的教育カリキュラムモデル」に従っている。この教育モデルは「西洋の伝統の重要性」、つまり、「白人、西欧、ユダヤ・キリスト教の基盤に歴史的な焦点を当てる」ものだ。
*4 保護者・教員・地域団体などが州や地域の教育行政機関から認可(チャーター)を受けて設置し、公費で運営される公設民営型の学校。教育関連法規の多くが免除されるため、独自の教育が可能。
このモデルは、公費を用いて民間で運営するチャーター・スクールで最も広く採用されており、ロン・デサンティス州知事はじめフロリダ州の保守派議員たちは、さらにその影響力を拡大させようとしている。同州では昨年3月に、通称「Don's Say Gay(ゲイと言ってはいけない)」法案(*5)が可決されたが、LGBTQ+の子どもたちに対する人権侵害であるとして、全米で抗議運動が起こった。
ビショップは、「ダビデ像全体を見せるのは、ある年齢では適切なこと」だと言い、「年齢設定はこれから検討します」と付け加えた。「それに、像の全体を見せる必要はありません。幼稚園児には頭だけ見せれば、それの良さが分かる。全体を見せずとも、手や腕、筋肉などから、ミケランジェロが大理石で表現した美を見ることができるのです」
ダビデ像は以前にも論争の的になったことがある。2020年ドバイ万博のイタリア館には、3Dプリンターで作られた実物大の像が展示された。しかし報道によると、保守的なイスラム教徒に配慮し、像のほとんどが石の壁で覆われていた。(翻訳:石井佳子)
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