米タイム誌がアート界を支える100人を選出。日本からは寺瀬由紀と蜷川敦子が名を連ねる
アート界で活躍する100人を選ぶ「TIME100 Art」が初めて発表された。エイミー・シェラルドやゲルハルト・リヒターら著名作家に加え、アートビジネスや美術館の現場を支える人物も選出され、日本からは寺瀬由紀と蜷川敦子が入った。
タイム誌は、現在のアート界を形作る100人を選出した「TIME100 Art」を初めて発表した。アーティストをはじめ、美術館館長やキュレーター、アート専門の弁護士、ディーラーなど、幅広い分野から選ばれている。同号の表紙を飾ったのは、タイラー・ミッチェルが撮影した画家のエイミー・シェラルドだ。存命のアーティストが単独でタイム誌の表紙を飾るのは50年ぶりとなる。発表にあたり、TIME編集長のサム・ジェイコブスは次のように述べている。
「私たちは、現在のアート界を形作り、大きな動きを生み出している人々に目を向けてきました。もちろん、アーティストが一人で作品を生み出しているわけではありません。制作を資金面で支える慈善家や非営利団体、キャリアを支えるギャラリストやアドバイザー、さらにキュレーターや美術館のリーダーまで、多くの人々がアートを支えています。このリストの半数を占めるのは、アーティスト以外の人々です。彼らがいてこそ、アートは成り立っているのです」
リヒター、カテランからKAWSまで、多彩な顔ぶれ
TIME100 Artの選出者の半数を占めるアーティストには、シェラルドをはじめ、現代美術を代表する著名作家が数多く名を連ねている。たとえば、ダクトテープでバナナを壁に貼り付けた《Comedian》(2019)をはじめ、物議をかもす作品を数多く発表してきたマウリツィオ・カテランや、2024年のヴェネチア・ビエンナーレでネイティブ・アメリカンのアーティストとして初めてアメリカ館の単独代表を務めたジェフリー・ギブソンが選ばれた。このほか、美術史を踏まえながら黒人の人物像を描き、巡回回顧展にも多くの観客が訪れたケリー・ジェームズ・マーシャルや、作品が数千万ドル(約数十億円)で取引され、美術史家や批評家によって繰り返し論じられてきたゲルハルト・リヒターなども含まれる。

一般にはそれほど知られていないものの、アート界で高く評価されてきた作家も選ばれた。ジェントリフィケーションが進むニューヨークのアートシーンの衰退を論じたエッセイで話題を呼んだジョシュ・クラインや、発表するエッセイがたびたび議論を呼ぶヒト・シュタイエルがその一例だ。
このほか、奴隷制やジム・クロウ法(主にアメリカ南部で黒人に対する人種隔離を制度化した法律)の遺産をテーマにコンセプチュアルな作品を手がけるキャメロン・ローランドや、祭壇を思わせるインスタレーションと先駆的な研究を通じて、複数世代のラテン系アーティストやキュレーターに影響を与えてきたアマリア・メサ=ベインズも選ばれた。さらに、2020年のスーパーボウルでアメリカ手話による国歌斉唱を行い、近年のホイットニー美術館での回顧展では、ろう者としての経験を扱った作品を発表したクリスティーヌ・スン・キムも名を連ねている。
また、一般にも広く知られる作家が選ばれている。AIを用いた作品で知られ、データランドを創設したレフィク・アナドル、イギリスのストリートアーティストであるバンクシー、アート作品だけでなくコレクターズアイテムでも大きな商業的成功を収め、自身もコレクターとして知られるKAWSが名を連ねる。このほか、今月には教皇レオ14世の誕生日を祝うインスタレーションを発表するなど、大規模なパブリックプロジェクトで知られるフランスのJRも選ばれた。
選出者の中で異色なのが、自らを「ワーシップ・ペインター(礼拝画家)」と称するヴァネッサ・ホラブエナだ。礼拝や神への賛美の一環として、宗教的な題材を短時間で描くライブ・ペインティングを行っており、ドナルド・トランプ大統領の資金集めイベントではキリストの顔を描いている。
一方、マリーナ・アブラモヴィッチ、アイ・ウェイウェイ、ジェフ・クーンズ、ジュリー・メレツといった著名作家は選外となった。こうした作家が選ばれなかった一方で、タイム誌は今回の100人をどのような基準で選んだのかを明らかにしていない。

コレクターや美術館関係者も名を連ねる
選出された11人のコレクターには、巨額の資金をアートに投じることで知られる人物だけでなく、収集活動を社会的な取り組みにつなげている人物も含まれる。ケン・グリフィンやロナルド・ローダー、コマル・シャーのほか、アリシア・キーズとスウィズ・ビーツ夫妻らが選ばれた。今回選出されたうち9人は、US版ARTnewsが発表する「TOP 200 COLLECTORS」の常連でもある。
美術館関係者では、メトロポリタン美術館のマックス・ホライン、スタジオ・ミュージアム・イン・ハーレムのセルマ・ゴールディン、ロサンゼルス・カウンティ美術館のマイケル・ゴーヴァンらが選ばれた。キュレーターでは、ハイラインのアーティスティックディレクター兼チーフキュレーターで、2022年のヴェネチア・ビエンナーレでキュレーターを務めたチェチーリア・アレマーニや、グッゲンハイム美術館の副館長兼チーフキュレーターで、ドクメンタ16のアーティスティックディレクターも務めるナオミ・ベックウィズが選出されている。
アートビジネスの分野では、4人のアートアドバイザーが選ばれ、その中にはアート・インテリジェンス・グローバルのエイミー・カペラッツォと寺瀬由紀が含まれている。6人のディーラーには、ラリー・ガゴシアンやデイヴィッド・ツヴィルナーに加え、タケ・ニナガワを運営し、アートウィーク東京の共同創設者でもある蜷川敦子が名を連ねた。このほか、アート・バーゼルのCEOを務めるノア・ホロウィッツや、会員制オークションプラットフォーム「Fair Warning」を創業したロイック・グーザーも選ばれている。

このほか、建築や法律、行政といった分野からも、それぞれ1人ずつ選ばれている。フリック・コレクションをはじめとする美術館の改修を手がけ、ガゴシアン、デイヴィッド・ツヴィルナー、ハウザー&ワースなどのギャラリーも設計してきた建築家アナベル・セルドルフ、盗難や略奪によって失われた美術品の返還に取り組む弁護士クリストファー・マリネロ、ニューヨーク市文化事務局長官のディヤ・ヴィジらだ。
シェラルドが語るスミソニアンとの対立
誌面にはシェラルドのインタビューも掲載されている。そこで彼女は、回顧展「American Sublime」で、自由の女神像に扮したトランスジェンダーの黒人女性を描いた《Trans Forming Liberty》の展示をめぐり、米国立肖像美術館と対立した経緯について改めて語った。シェラルドは、同館が作品の展示に難色を示したと主張している。一方、美術館側は認識に食い違いがあったとし、作品を外すのではなく、その背景を説明する補足資料を加えることを検討していただけだと説明している。シェラルドはタイム誌に対し、次のように語った。
「『American Sublime』には、展覧会全体を通して伝えようとしている一つの物語があります。《Trans Forming Liberty》だけをそこから切り離し、別の文脈を与えることは、私自身の根幹や、この作品を制作した理由から離れることになります。私はそれを受け入れることはできなかったのです」
(翻訳:編集部)
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