スーダンにある遺跡の隠し部屋からキリスト教壁画を発見。北方の模倣ではない独自の創造力を再評価
スーダンのナイル河畔にあるヌビアの都市遺跡、オールド・ドンゴラで住居の発掘を行なっていた考古学チームが、入り組んだ複数の部屋が床下に隠されているのを発見。そこには意外にもキリスト教の壁画が描かれていた。
発掘調査の指揮をとっているワルシャワ大学地中海考古学ポーランドセンターのプレスリリースによると、日干しレンガでできた部屋の壁に描かれていたのは、フンジュ時代(16~19世紀)のものと見られるキリスト教絵画だった。
考古学研究者のアルトゥール・オブルスキは、「欧州研究会議のUMMA助成金が使えるのはこれが最後というときに、発掘の神様が私たちに微笑んでくれたようだ」とツイッターに投稿。UMMA(中世アフリカの都市コミュニティの変遷)プログラムの助成金によって、かつてヌビア地域で栄えたオールド・ドンゴラ(ヌビア語ではトゥングル)の遺跡調査が可能になったことに触れている。
発見された壁画の1つには、ヌビアの王が頭を垂れてキリストの祝福を受け、かたわらで見守る大天使ミカエルが両者を覆うように翼を広げている様子が描かれている。また、黒っぽい衣をまとい、本と十字架を携えるという独自の様式で描かれた聖母マリアの絵もある。
オブルスキは別のツイッター投稿で、発見された壁画の独特のスタイルやモチーフについてこうコメントしている。
「この壁画は、アフリカの人々が北方の芸術を拙い技術で真似たという偏見を否定するものだ。単に世界のトレンドを取り入れるだけでなく、自分たちのニーズに適合させるクリエイティビティが彼らにはあった。したがって、これからはヌビアやアフリカを中心とした枠組みで研究を進めるべきだ」
壁画だけでなく、それが見つかった部屋についても謎がある。狭く、奇妙な形をしたその空間は、地面より高い位置にあるため墓所である可能性は低い。研究者たちの仮説の1つは、オールド・ドンゴラをダビデという名の王が治めていた時代、エジプトからの攻撃を受けた際に、この秘密の空間でキリスト教の壁画が描かれたのではないかというものだ。(翻訳:石井佳子)
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