イギリスとアメリカの美術館がタッグを組んで「不可能を可能に」! ジョシュア・レノルズの肖像画を共同購入
イギリスを代表する肖像画家ジョシュア・レノルズの作品を、ロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館とロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーが共同で購入する決定が明らかになった。
ロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館とロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーは、このほどジョシュア・レノルズ作の肖像画《Portrait of Mai (Omai)》(1776年頃)を5000万ポンド(約83億円)で共同購入することに合意した。
この作品は、コレクターのジョン・マグナーが2001年のオークションで1030万ポンド(当時の為替レートで約13億円)で落札したもの。以前、テート国立美術館ネットワークが購入を試みたが、マグナーはその申し出を断った。その後も、輸出禁止の対象とされたこの作品を、イギリスの美術館や博物館が競って取得しようとしていた経緯がある。
今回、J・ポール・ゲティ美術館が加われば購入はほぼ確実と見られていたが、ナショナル・ポートレート・ギャラリー側が資金負担分の調達にギリギリまで奔走する動きが注視されていた。最終的に同ギャラリーは、ナショナル・ヘリテージ・ファンドの助成金1,000万ポンド(約16億6000万円)や、史上最高額だというアート・ファンドの助成金250万ポンド(約4億1500万円)に加え、ARTnewsトップ200コレクターズに名を連ねるオフェル家など個人コレクターから支援を得たことを明らかにしている。
同ギャラリーのディレクター、ニコラス・カリナンは声明で、「不可能を可能にするために昼夜を問わず働いてくれた同僚、関係する全ての人に心から感謝します。私たち全員が恩恵を受けるような、特別な仕事を成し遂げてくれました」と述べ、この絵画作品の取得は「ナショナル・ポートレート・ギャラリーの歴史上、最も重要な出来事」だとしている。なお、2028年のロサンゼルス五輪開催時期には、J・ポール・ゲティ美術館で展示が行われる予定。
今回の決定に至る過程が大きな注目を集めていた理由の1つは、この肖像画の美術史的な重要性にある。8フィート(約240cm)もの大きさの絵には、ポリネシア人が初めて英国を訪れた時の様子が描かれているが、これはイギリスにおける有色人種の肖像画としては最も早い時期のものとされる。
J・ポール・ゲティ美術館のティモシー・ポッツ館長は声明で、「この絵はイギリス美術の最高傑作の1つであると同時に、ヨーロッパと太平洋諸島の人々との最初の出会いを具体的かつ説得力のある表現で描いたもの」と説明している。
また、美術館による国際間の共同購入が非常に珍しいことも、注目を集めた理由だ。これまで、アメリカの美術館とイギリスの美術館による共同購入の事例は数えるほどしかない。さらに、カリナンによれば「イギリスの美術館による最高額の取得」だという。(翻訳:石井佳子)
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