ウクライナのホロコースト追悼碑付近にロシアのミサイルが着弾、怒りを煽る
ロシアによるウクライナ侵攻から一週間が経ち、ウクライナの都市部では陸空両方からの攻撃が激化する。ロシア軍の戦火はすでにウクライナの文化財にも影響を及ぼしている。キーウ北部イヴァンキフの美術館が爆破された際には、ウクライナの国民的画家であるマリア・プリマチェンコの作品が破壊された。そして3月1日、キーウ市内のバビ・ヤール・ホロコースト追悼センター(第二次世界大戦中にナチスによって2日間で3万3000人以上のユダヤ人が虐殺された場所)の付近にロシア軍の砲弾が撃ち込まれた。
ウクライナ当局によると、この攻撃で5人が死亡。ホロコーストの追悼碑には直接被害は及ばなかったが、同センターが新たに博物館として使用する予定だった建物が破壊された。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、この攻撃について「世界に向けて80年間、二度とこのような悲劇を繰り返さないと言い続けたバビ・ヤールの地に爆弾が落ちたとき、世界が沈黙を保つならば一体どうなるのか? 少なくとも5人の命が失われた。歴史は繰り返されるのだ」と非難した。
バビ・ヤールには、ホロコーストによって命を奪われたユダヤ人のための、ヨーロッパ最大級の集団墓地がある。そこはロシアの標的となった、キエフの主要なテレビ塔の近くであり、集合住宅が建ち並ぶ人口密集地でもある。
同センター諮問委員長のナタン・シャランクシーは「プーチンは、民主的な国家への不法な侵略を正当化するためにホロコーストを歪曲し操作しようとしているが、まったくもって忌まわしいことだ。彼がナチスによる虐殺の歴史を持つバビ・ヤールを爆撃をもって、キーウへの攻撃を開始したことは象徴的である」と声明した。
世界のユダヤ人の芸術と歴史を専門とした美術館もこの攻撃を非難している。米国のホロコースト記念館は「今日のバビ・ヤール記念館へのロシアの攻撃には憤っている」とコメント。また、英国の慈善団体であるホロコースト追悼記念日トラストは、この攻撃について、ツイッターで「恐ろしいことだ」と発信した。
先週、プーチン大統領は侵攻を前にした演説で「ウクライナの非軍事化と非ナチ化を求める」と、ウクライナを「ネオナチ」呼ばわりした。しかし、ゼレンスキー大統領はユダヤ人だ。
バビ・ヤール・ホロコースト追悼センターの資料によると、1941年から43年までの間に、捕虜やロマ(主に北インドのロマニ系に由来する移動型民族)の人々を含む10万人ものユダヤ人がこの地で殺害された。同センターではそれらの犠牲者を追悼するための博物館を含めた複合施設を2026年オープン予定で準備しており、博物館については年末に開館予定だった。
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月2日に掲載されました。元記事はこちら。