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2022年ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展、国別パビリオンガイド

コロナ禍の影響で1年延期された「第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」が、いよいよ来月開幕する。会期は2022年4月23日〜11月27日。

ヴェネチアの風景 FELIX HORHAGER/PICTURE-ALLIANCE/DPA/AP IMAGES
ヴェネチアの風景 FELIX HORHAGER/PICTURE-ALLIANCE/DPA/AP IMAGES

今回、ビエンナーレの最大の見どころとされるメイン展示は、チェチリア・アレマーニがキュレーションを担当する。シュルレアリスムに焦点を当てるとともに、女性アーティストをかつてないほどの比重で取り上げ、レオノーラ・キャリントンの作品にちなんで「The Milk of Dreams(ミルク・オブ・ドリームス)」というタイトルが付けられている。

とはいえ、周辺にある90あまりの国別パビリオンも、もちろん見逃せない。中にはメイン展示に関連した企画もあるが、大部分の国は独自の企画を立てている。テーマは、パタゴニアの環境保全から黒人女性が逆境から立ち直る力、イタリアの経済衰退、ガーナの国旗まで幅広く、政治的な主張をするドイツ館もあれば、「無」の空間を見せるクロアチア館もある。

ここでは、これまでに発表された国別パビリオン(五十音順)と、ビエンナーレ公認の4つの関連イベントを紹介する。パビリオンの大半はビエンナーレのメイン会場であるアルセナーレとジャルディーニにあるが、ヴェネチア市内の個別会場を使う国もある。

アイスランド

Photo: Courtesy Icelandic Art Center
Photo: Courtesy Icelandic Art Center

アイスランド代表は、多様な感覚を生み出すマルチメディアインスタレーションで知られるシーグルズル・グジョーンソン(Sigurður Guðjónsson)。これまでアイスランド国立美術館(レイキャビク)、レイキャビク美術館、ハンブルガー・バーンホフ現代美術館(ベルリン)、ベルゲン・クンストハレ(オスロ)など、世界各地で作品を発表している。アイスランド館は、2015年にクリストフ・ビュッヒェル(Christoph Büchel)のインスタレーション《The Mosque(ザ・モスク)》がヴェネチア警察によって閉鎖されるなど、近年大きな注目を集めている。今回キュレーションを務めるのはモニカ・ベロ。

会場:アルセナーレ

アイルランド

Photo: Courtesy Irish Pavilion
Photo: Courtesy Irish Pavilion

アイルランド代表アーティストのナイアム・オマリー(Niamh O’Malley)は、鉄、木、ガラスなどで構成された彫刻で、目に見えない力を視覚的に表現しようと試みる。動きと透明性という2つの概念を追究する作品を制作してきたオマリーは、ダブリンのテンプル・バー・ギャラリー+スタジオのキュレーターチームが企画を行うアイルランド館でも、同様の作品を発表するとみられる。「Gather(集める)」と題された展示は、ヴェネチア・ビエンナーレの後、アイルランドに巡回する予定。

会場:アルセナーレ

アゼルバイジャン

Photo: Courtesy Azerbaijani Pavilion
Photo: Courtesy Azerbaijani Pavilion

アゼルバイジャン館による公式発表はまだ行われていないが、ヴェネチア・ビエンナーレのウェブサイトには、次の参加アーティストが掲載されている。ナルミン・イスラフィロワ(Narmin Israfilova)、インフィニティ(Infinity)、ラミナ・サーダトカン(Ramina Saadatkhan)、フィダン・ノヴルゾワ(Fidan Novruzova)、フィダン・アクンドヴァ(Fidan Akhundova)、サビハ・カンキシエワ(Sabiha Khankishiyeva)、アグデス・バギルザデ(Agdes Baghirzade)。キュレーターはエミン・マンマドフ。

会場:Procuratie Vecchie, San Marco 153/a/139

アラブ首長国連邦

Photo: Augustine Paredes
Photo: Augustine Paredes

アラブ首長国連邦(UAE)代表はモハメド・アーメド・イブラヒム(Mohamed Ahmed Ibrahim)。UAEの現代アートシーンの形成に貢献したイブラヒムは、自然の風景をモチーフにした抽象的な絵画や彫刻を、粘土、枝、岩などの素材を使って制作。その作品は、パリのポンピドゥー・センターやUAEのシャルジャ芸術財団をはじめとする世界的な美術施設に所蔵されている。今回のUAE館は、1986年から現在までのイブラヒムの仕事を概観する展示になる予定。キュレーションを担当するのは、ニューヨーク大学アブダビ校アートギャラリーのマヤ・アリソン。

会場:アルセナーレ

アルバニア

2022年のヴェネチア・ビエンナーレで、死去したアーティストのみを取り上げる国はめずらしい。アルバニア館はその一つで、2020年にコロナ感染による合併症で亡くなったルムトリ・ブロシュミ(Lumturi Blloshmi)の回顧展を行い、代表作約12点を展示する予定だ。アルバニア館で女性アーティストの作品が展示されるのはこれが初めて。キュレーターのアデラ・デメチャはユーロニュース・アルバニアに対し、ブロシュミは「(作品に)パフォーマンスを取り入れた最初のアルバニア人アーティストの一人」と紹介している。

会場:アルセナーレ

アルメニア

Photo: Courtesy Piedras
Photo: Courtesy Piedras

アルゼンチン代表アーティストは、新しいテクノロジーが人の感情に与える影響をテーマに絵画や映像を制作しているモニカ・ヘレル(Mónica Heller)。美術誌テレモトによると、15のモジュールで3Dアニメーションを上映する予定で、アルゼンチン館初のビデオインスタレーション展示となる。キュレーターのアレホ・ポンセ・デ・レオンは、ヘレの作品は、あからさまな政治的要素を含まないからこそ「現代の芸術的なイメージに関する問題に対し、ラディカルな解決策を提示できる」と述べている。

会場:アルセナーレ

イスラエル

Photo: Courtesy Braverman Gallery
Photo: Courtesy Braverman Gallery

イリット・アズレイ(Ilit Azoulay)は、写真を日常から生まれる廃棄物のようなものと見なすコンセプチュアルな作品で知られる。断片的に切り取られたイメージに、文章や音声でコンテクストが付与されている。今回のヴェネチア・ビエンナーレのイスラエル館では、「Queendom(クイーンダム)」と題した展示で、写真とサウンド・インスタレーションの一連の新作を発表する。キュレーターはシェリー・ハーテン。

会場:ジャルディーニ

イタリア

Photo: Photo Elena Andreato
Photo: Photo Elena Andreato

イタリア館はこれまで、国別パビリオンの中では例外的に、複数のアーティストによる意欲的な企画展を行うことが多かった。しかし、今回はめずらしく単独のアーティストによる展示を行う。代表アーティストはジャン・マリア・トサッティ(Gian Maria Tosatti)。批評家のエウジェニオ・ヴィオラがキュレーションを担当し、イタリアの経済と産業の発展という壮大なテーマを考察するサイトスペシフィックなインスタレーション《History of Night and Destiny of Comets(夜の歴史と彗星の運命)》を発表する予定。

会場:アルセナーレ

ウガンダ

Photo: Courtesy Uganda National Pavilion
Photo: Courtesy Uganda National Pavilion

ヴェネチア・ビエンナーレ初参加のウガンダは、カンパラを拠点とする2人のアーティスト、アカイェ・ケルネン(Acaye Kerunen)とコリン・セカジュゴ(Collin Sekajugo)を代表に選出。前者はアフリカにおけるジェンダーと労働をテーマにした作品を、後者は人種の概念を問うコラージュ作品を制作している。シャヒーン・メラリがキュレーションを担当する展示のタイトルは「Radiance - They Dream in Time(輝き:彼らは時の中で夢を見る)」。

会場: Palazzo Palumbo Fossati, San Marco 2597

ウクライナ

Photo: Courtesy Ukrainian Pavilion
Photo: Courtesy Ukrainian Pavilion

ウクライナ館では、代表アーティストのパブロ・マコフ(Pavlo Makov)がかねてから取り組んでいる気候変動に関するプロジェクトを発表する予定。キュレーション担当は、ボリス・フィロネンコ、リザベタ・ハーマン、マリア・ランコで、展示タイトルは「Fountain of Exhaustion(枯渇の泉)」。マコフの新作《Aqua Alta(アクア・アルタ)》は、12段の金属製の漏斗(ろうと)に水を流すもので、上部では勢いよく流れているものの、下部に到達するころにはわずかばかりの水滴となる。資源の枯渇をテーマにしたこの作品は、ウクライナの現状を示唆するものにもなるだろうとキュレーターたちは語っている。しかし、ロシアのウクライナ侵攻を受け、この展示が実現するかどうかは不透明だ。アーティストとキュレーターたちは、「命が危険に晒されているため、パビリオンのプロジェクトを続行することができない」と2月に発表している。

会場:アルセナーレ

ウズベキスタン

Photo: Courtesy Space Caviar
Photo: Courtesy Space Caviar

ウズベキスタンの代表アーティストに選ばれたのは、アブロール・ズファロフ(Abror Zufarov)とチャーリー・タップ(Charli Tapp)。展示内容は、アルゴリズムの概念を生み出した9世紀頃の数学者で、ヒヴァ(現在はウズベキスタンの都市)出身だとされるムハンマド・イブン・ムサ・アル・クワリズミにインスピレーションを受けたものとなる。スタジオ・スペース・キャビアとシーダ・ゴマスシによる企画は、「Dixit Algorizmi - The Garden of Knowledge(ディジット・アルゴリズミ:知識の庭)」というタイトルで、会期中に進化を遂げていくという。庭を思わせる展示室は光を反射するプールで四分割され、サウンドインスタレーションの音が鳴り響く。また、タシケント現代美術センターの主催で、同館の展示と連動したテーマのワークショップが開催される。

会場:アルセナーレ

ウルグアイ

Photo: Via Pollock Krasner Foundation
Photo: Via Pollock Krasner Foundation

ウルグアイ代表のヘラルド・ゴールドワッサーは、服の仕立てをモチーフにした作品を制作。彼はそれを、3次元空間におけるドローイングだと捉え、さまざまな数学的システムを用いて布を切断し、作品化している。今回のヴェネチア・ビエンナーレでは、ラウラ・マロセッティ・コスタとパブロ・ウリベのキュレーションにより、人間を機械に見立てた新作を発表する。

会場:ジャルディーニ

英国

Photo: ©Sarah Weal
Photo: ©Sarah Weal

ロンドンを拠点に活動するソニア・ボイス(Sonia Boyce)は、ヴェネチア・ビエンナーレの英国代表初の黒人女性だ。ボイスのドローイング、絵画、写真は、黒人を描くポートレートで、アフリカ系カリブ人のルーツを暗示している。ボイスはこの他にもビデオ、オーディオ、パフォーマンスなど幅広い制作活動を行なっていて、テート・モダン、ビクトリア&アルバート博物館などに作品が所蔵されている。キュレーションを担当するのはエマ・リッジウェイ。

会場:ジャルディーニ

エジプト

Photo: Courtesy Egyptian Ministry of Culture
Photo: Courtesy Egyptian Ministry of Culture

2022年1月にエジプト代表として発表されたアーティストは、ウィアム・エル=マスリー(Weaam El-Masry)、モハメド・シュークリー(Mohamed Shoukry)、アーメッド・エル・シャール(Ahmed El-Shaer)。アル・アハラーム紙オンライン版の報道によると、この3人は「最も著名なエジプトの現代アーティストたち」で、「Eden Like Garden(エデンのような園)」と題した展示を行う予定だ。エジプト文化省の発表にはキュレーターの名前は含まれていない。

会場:ジャルディーニ

エストニア

Photo: Photo Dénes Farkas/Courtesy CCA Estonia
Photo: Photo Dénes Farkas/Courtesy CCA Estonia

モンドリアン財団の招聘により、エストニアはジャルディーニにあるオランダ館を引き継ぐことになった(オランダ館はヴェネチアの別会場に移る)。エストニアは1997年からヴェネチア・ビエンナーレに参加しており、2022年はエストニア現代美術センターが選出したクリスティーナ・ノーマン(Kristina Norman)とビタ・ラザビ(Bita Razavi)の2人が共同で制作したプロジェクトを、「Orchidelirium: An Appetite for Abundance(オーキデリリウム:豊穣の欲望)」と題して発表する。あまり知られていない20世紀のエストニア人アーティスト、エミリー・ロザリー・ザール(Emily Rosaly Saal)による熱帯植物の水彩画や油彩画に注目する内容だ。ノーマンはタリンを拠点に活動するアーティストで、2009年のビエンナーレにもエストニア代表として参加した。ラザビはテヘラン出身でヘルシンキとエストニアの田舎を行き来しながら活動している。キュレーションを行うのはタリン・アート・ホールのコリーナ・L・アポストル。

会場:ジャルディーニ

オーストリア

Photo: Photo Christian Benesch
Photo: Photo Christian Benesch

オーストリア代表アーティストは、ヤコブ・レナ・クネブル(Jakob Lena Knebl)とアシュリー・ハンス・シェール(Ashley Hans Scheirl)の2人。一般的な展覧会の形式を覆し、内部に列柱が並ぶオーストリア館の特異な構造を考慮した展示を行うと発表している。「Invitation of the Soft Machine and Her Angry Body Parts(ソフトマシーンとその怒れるボディパーツの招待)」と題された展示は2つに分かれ、2人がそれぞれの空間に展示を行う。クネブルは1970年代の社会政治的問題を探究し、シェールは「ウォークイン方式のアクセス可能な絵画」の作品を制作する。両者に共通するのは、欲望の政治とも言えるものへの関心だ。キュレーション担当は、ルートヴィヒ近代美術館(ウィーン)のカロラ・クラウス館長。

会場:ジャルディーニ

オーストラリア

Photo: Photo Zan Wimberley
Photo: Photo Zan Wimberley

オーストラリア代表はサウンドアーティストのマルコ・フジナート(Marco Fusinato)で、シドニーの現代アートセンター、Artspace(アートスペース)のアレクシー・グラス=カンターがキュレーションを担当する。故オクウィ・エンヴェゾーがキュレーターだった2015年のヴェネチア・ビエンナーレのメイン展示にも出展されたフジナートの作品は、知覚の様式をテーマとしている。2013年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された初のサウンドアートの企画展でも、フジナートの作品が展示された。今回のオーストラリア館の展示は「DESASTRES(災害)」と題され、オーストラリアの厳重なロックダウンによりスタジオに入れなかったことから、すべて作家の自宅で制作された作品だ。フジナート自身が会場でエレキギターを演奏するという野心的な試みも予定され、秩序と無秩序のボーダーラインに関心を持ち続けているフジナートならではのユニークな試みになりそうだ。

会場:ジャルディーニ

オマーン

Photo: Courtesy National Pavilion of the Sultanate of Oman
Photo: Courtesy National Pavilion of the Sultanate of Oman

ヴェネチア・ビエンナーレ初参加となるオマーンのキュレーターには、美術史家のアイシャ・ストビーが選ばれた。同国出身、または同国にゆかりのあるさまざまなアーティストの作品が出展される。オマーンを代表するアーティストとして知られるアンワール・ソーニャ(Anwar Sonya)の作品や、サウンドアーティストの故ライヤ・アル・ラワヒ(Raiya Al Rawahi)の遺作が展示されるほか、ハッサン・ミール(Hassan Meer)、ブドゥール・アル・リヤミ(Budoor Al Riyami)、ラディカ・ヒムキ(Radhika Khimki)などの作家も参加する。

会場:アルセナーレ

オランダ

Photo: Joseph Marzolla

オランダ代表はメラニー・ボナーヨ(melanie bonajo)。キュレーションはマーイケ・フーウェンベルグ、ハイアー・ハラルドセス、ソラヤ・ポル。テクノロジーによって生まれる疎外感や親密さをテーマに、映像、インスタレーション、パフォーマンスなどさまざまな形で作品を制作してきたボナーヨが、「When the body says Yes(身体がイエスと言うとき)」という新作ビデオインスタレーションを発表する。孤独な時に感じる、誰かに触れられたいという欲求を取り上げた作品だ。「このプロジェクトでは、つながりと安心感をもたらすものとして身体の重要性を再発見し、アクティビズムの一つの形として、触れ合いと友情を育みたいと考えている」とボナーヨは述べている。

会場: Chiesetta della Misericordia of Art Events, Cannaregio

カザフスタン

Photo: Courtesy the artists

2019年のヴェネチア・ビエンナーにカザフスタンが初参加する計画は、大幅な予算削減により中止された。再挑戦となる2022年は、ORTAコレクティブ(ORTA Collective)が代表アーティストとして、ロシアの前衛芸術家で数多くの演劇作品の装飾を手がけたセルゲイ・カルムイコフにオマージュを捧げる作品を発表する予定だ。カザフスタン館のキュレーターはアートディーラーのメルイェール・カリエバで、「政治的な決定への配慮」を避けるため、政府の資金提供を受けていないと明言している。カザフスタンは最近も国内で騒乱が起きていることから、2022年のヴェネチア・ビエンナーレへの参加が最終的に可能かどうか疑問視する声もある。

会場:Spazio Arco, Dorsoduro 1485

カナダ

Photo: ©Evann Kheraj/Courtesy the artist, Victoria Miro, and David Zwirner
Photo: ©Evann Kheraj/Courtesy the artist, Victoria Miro, and David Zwirner

カナダ代表に選ばれたのは、ビデオアーティストで写真家のスタン・ダグラス。歴史的に疎外された人々の物語をテーマに制作を行い、過去4回ビエンナーレに参加。2016年には、実験的な抽象写真でハッセルブラッド国際写真賞を受賞している。カナダ館はカナダ国立美術館(オタワ)の委託によりリード・シアーがキュレーションを担当する。

会場:ジャルディーニ/Magazzini del Sale n5

カメルーン

ヴェネチア・ビエンナーレ初登場のカメルーン館が話題を呼びそうな理由はいくつもある。その一つは、通例とは異なり自国政府の資金提供を受けていないことだ(ただし、カメルーン文化省の委託を受けている)。費用負担を行うのはグローバル・クリプト・アートDAO(Global Crypto Art DAO)で、カメルーン館の一部でヴェネチア・ビエンナーレ史上初となるNFTの展覧会を開催する。「The Times of the Chimera(キマイラの時代)」と題された展示に参加するのは、フランシス・ナタン・アビアンバ(Francis Nathan Abiamba)、アンジェレ・エトウンディ・エッサンバ(Angéle Etoundi Essamba)、シェイ・フリッシュ(Shay Frisch)、ジュスティーヌ・ガガ(Justine Gaga)、サリフー・リンドウ(Salifou Lindou)、ウンベルト・マリアーニ(Umberto Mariani)、マッテオ・メッツァドリ(Matteo Mezzadri)、ホルヘ・R・ポンボ(Jorge R. Pombo)。キュレーターは、ポール・エマニュエル・ロガ・マオップとサンドロ・オルランディ・スタグル。

会場:Liceo Artistico Guggenheim, Dorsoduro 2613/Palazzo Ca' Bernardo Molon, San Polo 2186

韓国

Photo: Courtesy the artist
Photo: Courtesy the artist

韓国館は「Gyre(渦)」というタイトルで、キム・ユンチョル(Yunchul Kim)が、新作3点を含む7点のインスタレーションを展示する予定だ。ミューオンと呼ばれる素粒子を検出できるガラスの彫刻は、ミューオンを感知するたびに光を放つ。呼吸しているように見える作品もあり、人工物と自然との境界を掘り下げる。韓国館は、2022年に入って詳細が発表される以前から、主にキュレーターチームをめぐる疑念が高まったことが原因で、注目を集めることになった。2021年夏に利益相反でチームのメンバーが次々と辞任し、最終的にイ・ヨンチョルが新しく芸術監督に指名された。

会場:ジャルディーニ

ガーナ

Photo: ©Na Chainkua Reindorf

2019年のヴェネチア・ビエンナーレで、初登場のガーナ館はとりわけ大きな称賛を集めた。2度目の参加となる今回は、キュレーターのナナ・オフォリアッタ・アイムが、自由の象徴としてのガーナの国旗をテーマに、「Black Star-The Museum as Freedom(黒い星-自由としての美術館)」と題した展示を企画している。ナ・チャインクア・ラインドルフ(Na Chainkua Reindorf)、アフロスコープ(Afroscope)、ディエゴ・アラウジャ(Diego Araúja)の作品と、DKオッセオ・アサレ(DK Osseo Asare)による建築デザインが展示される。オフォリアッタ・アイムはガーナ館について、「自分たちに合わないシステムから脱却し、豊かな歴史に基づいた、まだ定義されていない新しいシステムが、ノスタルジーではなく反省と経験がもたらす洞察に基づいて形成されつつある」と説明している。

会場:アルセナーレ

北マケドニア

Photo: Courtesy the artists
Photo: Courtesy the artists

北マケドニア館では、ロベルト・ヤンクロスキ(Robert Jankuloski)とモニカ・モテスカ(Monika Moteska)が、ビデオや写真、さまざまなオブジェでインスタレーションを制作する。展示タイトルは「Landscape Experience(ランドスケープ・エクスペリエンス)」で、人間による自然破壊をテーマに「私たちが存在する意味と責任について深く掘り下げる」ものになるという。アナ・フランゴフスカとサーニャ・コジッチ・ムラデノフがキュレーターを務める。

会場: Scuola dei Laneri, Santa Croce 113/A

キルギスタン

Photo: Photo We Are the Nomads
Photo: Photo We Are the Nomads

キルギスタンは隣国カザフスタンと同様、2022年に初めてヴェネチア・ビエンナーレに自国のパビリオンを登場させる。代表アーティストはフィルーズ・ファルマン=ファーマイアン(Firouz Farman-Farmaian)。ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、アフガニスタン、パキスタンにまたがって存在していたとされる古代トゥル地方をテーマとした手縫いの作品10点を、現地の職人の協力を得て制作する予定だ。展示タイトルは「The Gates of Turan(トゥランの門)」で、「太古の遊牧民の天地創造神話」を表現する。キュレーションを担当するのはジャネット・レイディ。

会場:Hydro Space, Giudecca Art District, Giudecca 211/C

キューバ

Photo: Photo Riccardo Tosetto
Photo: Photo Riccardo Tosetto

キューバ館による公式発表はまだ行われていないが、ヴェネチア・ビエンナーレのウェブサイトには、アーティストとしてラファエル・ビラレス(Rafael Villares)、クチョ(Kcho)、ジュゼッペ・スタンポーネ(Giuseppe Stampone)、キュレーターとしてネルソン・ラミレス・デ・アレリャーノ・コンデの名が掲載されている。

会場:Isola di San Servolo

ギリシャ

Photo: Courtesy Onassis Foundation
Photo: Courtesy Onassis Foundation

「Oedipus in Search of Colonus(コロヌスを探すオイディプス)」という興味深い展示タイトルがつけられたギリシャ館では、ルキア・アラバヌ(Loukia Alavanou)が、ギリシャの古代遺産とアテネの北西にあるネア・ゾイ地域のロマのコミュニティとのつながりを描いた新しいバーチャルリアリティー(VR)作品とサウンドインスタレーションを展示する予定。神話の中でコロヌスの街に追放されたオイディプスを、同じく社会政治的な手段でアテネから追放されたロマの人々と比較できるとアラバヌは考えている。ギリシャ館の発表によれば、「不可能な場としてのアート」を見せる展示となる。キュレーターはハインツ・ペーター・シュベルフェル。

会場:ジャルディーニ

クロアチア

Photo: Photo Sophia Elizabeth Bennett
Photo: Photo Sophia Elizabeth Bennett

クロアチア代表として参加するトモ・サビッチ=ゲカン(Tomo Savić-Gecan)は、「無」の展示を実践すると発言しているアーティストだ。そのためもあって、展示内容については、ほとんど何も発表されていない。「無」をキュレーションするのは、展示プログラムが常に話題を集めるスイスのクンストハレ・バーゼルのディレクター/キュレーターのエレナ・フィリポヴィッチで、展示タイトルは《Untitled(Croatian Pavilion), 2022(無題〈クロアチア館〉、2022年)》。

会場:via Garibaldi 1513, Castello

グアテマラ

Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images
Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images

グアテマラ館による公式発表はまだ行われていないが、ヴェネチア・ビエンナーレのウェブサイトには、アーティスト兼キュレーターとしてクリスチャン・エスコバル(Christian Escobar)が掲載されている。

会場:SPUMA - Space For The Arts, Giudecca 800/R

グレナダ

今回、グレナダ館は異例の経緯をたどり、企画が始まるまでは存在していなかったアーティスト集団を代表として選んだ。サイファー・アート・コレクティブ・オブ・グレナダ(Cypher Art Collective of Grenada)は、コロナ禍のさなかにコラボレーションを始めた7人のアーティストで構成される。展示は、グレナダ領カリアク島に伝わるシェイクスピア・マス(シェイクスピアの作品に基づく儀式でカーニバルの一環として行われる)の伝統に焦点を当てたものになる予定。ダニエレ・ラディーニ・テデスキのキュレーションで、過去数年にわたる調査に基づく2チャンネルのフィルムインスタレーション、絵画などの作品を発表する。

会場:Il Giardino Bianco Art Space, Via Giuseppe Garibaldi, 1814

ケニア

Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images
Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images

2022年のケニア館の公式発表はまだ行われていないが、ヴェネチア・ビエンナーレのウェブサイトによれば、アーティストはディケンズ・オティエノ(Dickens Otieno)、ショウィア・キヤンビ(Syowia Kyambi)、カロキ・ニャマイ(Kaloki Nyamai)、ワンジャ・キマニ(Wanja Kimani)の4人。キュレーターはジミー・オゴンガ。

会場:Fàbrica 33, Cannaregio 5063

コートジボワール

Photo: Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images

コートジボワール館による公式発表はまだだが、ヴェネチア・ビエンナーレのウェブサイトによれば、アーティストはフレデリック・ブリュリー・ブアブレ(Frédéric Bruly Bouabré)、アブドライ・ディアラスバ(Abdoulaye Diarrassouba dit Aboudia)、アルマンド・ブア(Armand Boua)、サン=テティエンヌ・イエンジ(Saint-Etienne Yéanzi dit Yeanzi)、レティシア・キー(Laetitia Ky)、アーロン・デメツ(Aron Demetz)。キュレーターは、マッシモ・スカリンジェッラとアレッサンドロ・ロマニーニ。

会場:Magazzino del Sale 3, Dorsoduro 264

コソボ

ヤクプ・フェリ(Jakup Ferri)は、自らの置かれた位置を「2つの世界の間に生きている」と定義し、これを考察するために、コソボと西欧諸国双方の様式を取り入れた絵画やタペストリーなどを制作。国連加盟国の約半数にしか国家として承認されていないコソボの現状を外部の人々の目に触れさせることが、自分のアートの目的だと述べている。現在はアムステルダムとプリシュティナを拠点としているフェリは、生まれ故郷であるコソボの代表アーティストとして、インケ・アルンズのキュレーションによる展示でこのテーマに取り組む。

会場:アルセナーレ

サーミ

Photo: Courtesy Office for Contemporary Art Norway
Photo: Courtesy Office for Contemporary Art Norway

ノルウェー、フィンランド、スウェーデンを代表する北欧館は、2022年に展示を行う3人の先住民アーティストにちなんで「サーミ館」に名称を変更する。パウリーナ・フェオドロフ(Pauliina Feodoroff)、マレト・アンネ・サラ(Máret Ánne Sara)、アンデルス・スンナ(Anders Sunna)は、この地域の先住民であるサーミの人々が直面する問題に焦点を当てた作品を制作してきた。同館の委託を行ったノルウェー現代美術事務所(Office for Contemporary Art Norway)ディレクターのカチャ・ガルシア=アントンは、次のように述べている。「未来を左右する重要な時期である今、環境への接し方や人間同士の関係性において先住民の生き方について考えることは極めて重要だ」

会場:ジャルディーニ

サウジアラビア

Photo: Courtesy Arab States Institute in Washington
Photo: Courtesy Arab States Institute in Washington

サウジアラビア館の詳細は未発表だが、ヴェネチア・ビエンナーレのウェブサイトには、同国代表としてムハンナド・ショノ(Muhannad Shono)の名が記載されている。ショノは、サウジアラビア国内で急速に注目を集めているアーティスト。シリア出身でチェルケス人の血を引く両親を持つ、自身の出自を反映した彫刻で知られる。現在はアーティスト・イン・レジデントでサウジアラビアの古都アルウラに滞在中。ショノの展示「The Teaching Tree(ザ・ティーチング・ツリー)」のキュレーションは、リーム・ファダが担当する。

会場:アルセナーレ

サン・マリノ

Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images
Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images

サン・マリノ館についてはまだ公式発表が出ていないが、ヴェネチア・ビエンナーレのウェブサイトには、エリザ・カンタレッリ(Elisa Cantarelli)、ニコレッタ・チェッコリ(Nicoletta Ceccoli)、ロベルト・パチ・ダロ(Roberto Paci Dalò)、エンドレス(Endless)、ミケランジェロ・ガリヤーニ(Michelangelo Galliani)、ローザ・ムンディ(Rosa Mundi)、アンヌ・セシル・スルガ(Anne-Cécile Surga)、ミケーレ・トンボリーニ(Michele Tombolini)の名が同館代表として掲載されている。キュレーターは、ビンチェンツォ・ロトンド。

会場:Palazzo Donà Dalle Rose, Fondamente Nove Cannaregio 5038

シリア

Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images
Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images

2022年のシリア館についての公式発表はまだ出ていないが、ヴェネチア・ビエンナーレのウェブサイトには、参加アーティストとして以下の名前が掲載されている。ソウサン・アルズビ(Saousan Alzubi)、イスマイエル・ナスラ(Ismaiel Nasra)、アドナン・ハミデ(Adnan Hamideh)、オムラン・ユーネス(Omran Younis)、アクサム・タラー(Aksam Tallaa)、ジュゼッペ・アマディオ(Giuseppe Amadio)、マルチェロ・ロ・ジューデス(Marcello Lo Giudice)、ロレンツォ・プリージ(Lorenzo Puglisi)、ハンヌ・パロスオ(Hannu Palosuo)、フランコ・マツケリ(Franco Mazzucchelli)。キュレーターはエマド・カシュアウト。

会場:Isola di San Servolo

シンガポール

Photo: Courtesy National Arts Council Singapore
Photo: Courtesy National Arts Council Singapore

ここ数年、アーティストのシュビギ・ラオ(Shubigi Rao)は、本の破壊をテーマにしたプロジェクト「Pulp(パルプ)」に取り組んできた。今回のシンガポール館で発表される《Pulp III: A Short Biography of the Banished Book(パルプIII:追放された本の小伝)》は、このシリーズの最新作。「叙情的なマニュスクリプト」と説明されるこの作品は、歴史の中で知識がどのように伝えられていたかを探究する。キュレーターのウーテ・メタ・バウアーは、ラオの最新プロジェクトを「存在し続けること、生産的かつ有意義な形で共生することへの深い認識」だと評している。

会場:アルセナーレ

ジョージア

Photo: Courtesy In-between Conditions
Photo: Courtesy In-between Conditions

ジョージア館では、2人組で活動するアーティストのマリアム・ナトロシュビリ(Mariam Natroshvili)とデトゥ・ジンチャラゼ(Detu Jincharadze)が、「I Pity the Garden(私は庭を憐む)」と題した展示を行う。中心となるのは、絶滅した植物をバーチャルリアリティー(VR)で体験する実験的作品《Ghost Garden(ゴースト・ガーデン)》で、超現実的なインスタレーションとして展開される予定。ジョージア館の発表では、「生態系の危機は、現実でもVRでも、終わりの兆候の一つだ」と述べられている。企画を担当するのは、キュレーション・プラットフォームのイン・ビトウィーン・コンディションズ。

会場:Spazio Punch, Fondamenta S. Biagio, 800/O, Giudecca

ジンバブエ

Photo: Courtesy Zimbabwean Pavilion

多くの国と同様、ジンバブエ館でも西洋的な知識の伝達手段(歴史書や記録など)の絶対性に疑問を呈する展示を行う。ファザイ・ベロニカ・ムケムワが企画した展示のタイトルは「I did not leave a sign(私はサインを残さなかった)」。参加アーティストは、クレシア・ムクワジ(Kresiah Mukwazhi)、ウォレン・マポンデラ(Wallen Mapondera)、テレンス・ムセキワ(Terrence Musekiwa)、ロナルド・ムチャトゥタ(Ronald Muchatuta)。

会場:Santa Maria della Pietà, Calle della Pietà

スイス

Photo: Photo Sebastien Agnetti
Photo: Photo Sebastien Agnetti

スイス館代表は、政治闘争や移民をテーマにしたインスタレーションや彫刻を制作するラティファ・エチャフ(Latifa Echakhch)。エチャフは、作曲家のアレクサンドレ・バベルやキュレーターのフランチェスコ・ストッキと共に、リズムとサウンドを使ったプロジェクトを展開する。スイスを拠点に活動する彼女は、フランスで最も権威のある芸術賞、マルセル・デュシャン賞の受賞者で、アラブ首長国連邦のシャルジャ・ビエンナーレ(Sharjah Biennial)やフランスのリヨン・ビエンナーレ(Biennale de Lyon)など、主要なビエンナーレで作品を発表している。今回発表する新作インスタレーション《The Concert(ザ・コンサート)》は、儀式で使われる火をモチーフに、人々の時間感覚を歪ませるものになるという。エチャフは声明で次のように述べている。「作品を見に来てくれた人たちには、コンサートを見た後のような高揚感を抱いて会場を後にしてもらいたいんです。リズムや記憶の断片がまだ頭の中で反響しているような状態でね」

会場:ジャルディーニ

スコットランド

Photo: Matthew A Williams
Photo: Matthew A Williams

スコットランド代表は、黒人差別や植民地主義をテーマにしたビデオ作品やインスタレーションで知られるアルバータ・ホイットル(Alberta Whittle)。アートフェスティバルのグラスゴー・インターナショナル(Glasgow International)がキュレーションを担当する(同展はビエンナーレ公認関連イベントとして開催される)。出品作品についての詳細は未発表だが、ホイットルがこれまで発表してきた作品と共通するテーマを扱ったものになるようだ。彼女は声明で次のように述べている。「健康、悲しみ、拒否、人種、癒し。こうした、いくつもの喫緊の課題が私の頭の中を占めています。今こそ、個人としてだけでなく、集団としても、先入観を捨て、積極的に内省するにはどうすればいいかを問い直す時です」

会場: Docks Cantieri Cucchini, S. Pietro di Castello 40

スペイン

Photo: Courtesy the artis
Photo: Courtesy the artis

スペイン代表のイグナシ・アバリ(Ignasi Aballí)が展示するのは、《Corrección(修正)》と題された建築インスタレーション。アバリは、絵画、写真、映像などを横断的に使いながら、物質性や空間について探求しているアーティストだ。彼がエル・パイス紙に語ったところによると、《Corrección》はスペイン館内に作られる独自の環境なのだという。「不可能で、不条理で、想像できないような内部空間が作られる。場所によっては通り抜けることができなかったり、他の地点に辿り着けなかったりする。開口部、廊下、すべての部屋が、これまでにない見え方になるだろう」。キュレーション担当は美術史家のベアトリス・エスペホ。

会場:ジャルディーニ

スロベニア

ヴェネチア・ビエンナーレのメイン展示のテーマがシュルレアリスムであることを受けて、スロベニア館ではマルコ・ヤクシェ(Marko Jakše)を代表に選定。その作品は、巨人のように見える人物や、自然が無限に広がっていくような印象を与える。「Without a Master(主人を持たない)」と題された今回の展示は、「私たちの内と外にある根源的なものとは何か、そして何よりも、事物はどのようにして在るのか」をテーマにしている。キュレーション担当はロベルト・シモニシェク。

会場:アルセナーレ

セルビア

Photo: Courtesy the artist
Photo: Courtesy the artist

他の多くのパビリオンと同様、セルビア代表のウラジミール・ニコリッチ(Vladimir Nikolic)も自然界と人間の関係性を探究する。セルビア館の展示では、水に焦点を当てながら、水域と人間の「関係や相互依存」を理解しようと試みる。たとえば、新しい映像作品の《800m》は、ドローンの「植民地的」な視点から作家の身体を撮影したさまざまな映像を用いるもので、《A Document(ドキュメント)》は絵画作品だ。「Walking with Water(水と共に歩む)」と名付けられた展示のキュレーションはビリアナ・シリックが担当する。

会場:ジャルディーニ

台湾

Photo: Cudjuy Pahaulan

2月末時点で、台湾の代表作家はまだ明らかになっていない。関連イベントである台湾の展示を巡っては、代表アーティストとなるはずだったサクリウ・パヴァヴァルン(Sakuliu Pavavaljung)が複数の女性に性的暴行を加えたという疑惑が2021年末に浮上して以来、紛糾が続いていた。台湾南部生まれでパイワン族の血を引くサクリウは、この疑惑を否定している。台北市立美術館はサクリウをビエンナーレの代表から正式に外したと発表したが、後任のアーティストは発表されていない。サクリウはドイツのカッセルで開催されるドクメンタ15にも参加する予定だが、ドクメンタは詳しい情報が明らかになるのを待つとしている。

会場: Palazzo delle Prigioni, Castello 4209

チリ

Photo: Benjamin Echazarreta

チリは今回、4人を代表に選ぶという異例の決定をした。アーティストのアリエル・ブスタマンテ(Ariel Bustamante)、美術史家のカルラ・マキアベッロ(Carla Macchiavello)、建築家のアルフレード・ティアマン(Alfredo Thiermann)、映像作家のドミンガ・ソトマヨール(Dominga Sotomayor)だ。カミラ・マランビオのキュレーションによる展示は「Turba Tol Hol-Hol Tol(トゥルバ・トル・ホル=ホル・トル)」と題され、先住民の生存のための闘いが、気候変動に対する闘いと密接に関連しているとしている。パタゴニアの泥炭湿地の環境保護を出発点として、周辺に住むセルクナム族の人々の生存に焦点を当てる。

会場:アルセナーレ

中国

Photo: Courtesy Chinese Pavilion
Photo: Courtesy Chinese Pavilion

中国館は「Meta-Scape(メタ・スケープ)」と題して、人と機械の融合を意味する「境(jing)」の概念を現代的に表現する展示を行う。館内の大部分を占めるのは、王郁洋(Wang Yuyang)による三角形の結び目のような形の彫刻《Snowman(スノーマン)》で、庭園の中に設置される予定だ。また、張子康(Zhang Zikang)のキュレーションにより、徐累(Xu Lei)と劉佳玉(Liu Jiayu)の作品も展示される。

会場:アルセナーレ

デンマーク

Photo: Courtesy Art Hub Copenhagen
Photo: Courtesy Art Hub Copenhagen

デンマーク館の詳細は未発表だが、ウフェ・イソロット(Uffe Isolotto)の作品を、ヤコブ・リレモシがキュレーションする予定。イソロットはインスタグラムで、「We Walked the Earth(私たちは地球を歩いた)」というタイトルのデンマーク館の内容を予告するようなコメントを投稿。未来的な人間やハイブリッド動物の奇妙なレンダリング、未来のデンマークで稼働する農場について説明している。

会場:ジャルディーニ

トルコ

Photo: Courtesy Ege Art
Photo: Courtesy Ege Art

トルコ代表はフスン・オヌール(Füsun Onur)、キュレーション担当はビゲ・オレル。オレルはイスタンブール・ビエンナーレのディレクターで、トルコ館の委託を行ったイスタンブール文化芸術財団(Istanbul Foundation for Culture and Arts)の現代アートプロジェクトのリーダーでもある。イスタンブールを拠点に50年以上活動を続けてきたオヌールは、大規模な彫刻的インスタレーションで知られている。彼女は1960年代にフルブライト奨学金を得て米国に滞在し、1967年にメリーランド・インスティテュート・カレッジ・オブ・アートで彫刻の修士号を取得。2014年には、イスタンブールで初期の抽象的なドローイングや未発表の作品を含む回顧展が開かれた。オヌールの作品は、2007年のモスクワ・ビエンナーレ、2012年のドクメンタ13(カッセル)、1987年から2015年までのイスタンブール・ビエンナーレに5回出展されている。

会場:アルセナーレ

ドイツ

Photo: Jens Ziehe
Photo: Jens Ziehe

ドイツ代表として参加するマリア・アイヒホルン(Maria Eichhorn)は、商取引の舞台裏やその記録という形で、コンセプチュアルな作品を発表してきたことで知られる。今回の新作が同様の作品となるかどうかは不明だが、ナチスもシンボルとした鷲が飾られていたドイツ館の建物に関する政治的背景をテーマとして扱うことをほのめかしている。アイヒホルンは、今回キュレーターを務めるルートヴィヒ美術館(ケルン)のディレクター、ユルマズ・ジエビオルに、「作品は分かりやすいものになり、コンセプトとしても、そして動きを通して物理的にも体験できる」と語ったという。

会場:ジャルディーニ

ナミビア

Photo: Courtesy Namibian Pavilion
Photo: Courtesy Namibian Pavilion

ナミビアはヴェネチア・ビエンナーレ初参加。キュレーターのマルコ・フリオ・フェラーリオによる企画はミステリアスなものになりそうだ。展示されるのは、数年前からナミビアのクネネ地方の砂漠に出現し始めた人のような石像のシリーズで、制作者はレン(RENN)という匿名のアーティスト。フェラーリオは、「A Bridge to the Desert(砂漠への架け橋)」と名付けられたナミビア館の展示企画を進める中で、謎に包まれたこのアーティストの素性を知ったという。

会場:Isola della Certosa)

日本

Dumb Type 《TRACE/REACT II》 2020 「ダムタイプ|アクション+リフレクション」展示風景(2020)東京都現代美術館 Photo: Kazuo Fukunaga
Dumb Type 《TRACE/REACT II》 2020 「ダムタイプ|アクション+リフレクション」展示風景(2020)東京都現代美術館 Photo: Kazuo Fukunaga

日本館は、1984年に結成されたアートコレクティブであるダムタイプ(Dump Type)の新作にスポットを当て、高谷史郎をはじめとするメンバーに加え、坂本龍一が特別参加する。ダムタイプは、マスメディアの情報の流れを批評する大規模なインスタレーションを多く発表してきた。国際交流基金の委託による日本館での展示は、激動する今の時代というテーマに取り組むものになると見られる。日本館の発表(2019年)に掲載されたアーティスト・ステートメントには「今まで信じてきたシステムが崩壊しようとしている、分断された混沌しかない世界で、今まで事実だと思われていたものが不確かに感じられ、人々は自分たちが信じたいものを『真実』と思い込む」述べられている。

会場:ジャルディーニ

ニュージーランド

Photo: Courtesy the artist and Milford Galleries, Aotearoa New Zealand
Photo: Courtesy the artist and Milford Galleries, Aotearoa New Zealand

ニュージーランドは他に先駆けて、2019年9月に次のビエンナーレの展示計画を発表した。2022年のニュージーランド館を飾るのは、太平洋諸島先住民の血を引くアーティストとして初めて同国代表に選ばれたユキ・キハラ(Yuki Kihara)の作品。キハラが手がける写真やビデオ、パフォーマンス作品は、植民地支配の歴史の重さをテーマにしていることが多い。今回のニュージーランド館では、写真、映像、記録資料を組み合わせた新作《Paradise Camp(パラダイス・キャンプ)》を発表する。このプロジェクトでは、サモア語で第三の性を意味する「ファファフィーネ(Fa’afafine:直訳すると“女性のように”)」を自認する人々に焦点を当て、こうした人々に関する固定観念や誤解に異を唱える。キュレーションを担当するのは、メルボルン大学教授(オーストラリア)のナタリー・キング。

会場:アルセナーレ

ネパール

Photo: Photo by Chhiring Dorje Gurung, courtesy of the artists
Photo: Photo by Chhiring Dorje Gurung, courtesy of the artists

初参加国の一つであるネパールは、近年、国際的なアートの世界で自国の存在感を高めようと努力を続けてきた。シーラシャ・ラジバンダリとヒット・マン・グルンのキュレーションのもと、代表作家のツェリン・シェルパ(Tsherin Sherpa)が現地の素材を使い、ネパールをめぐる植民地的なナラティブに異議を唱える新作を発表する。展示タイトルは、「Tales of Muted Spirits - Dispersed Threads - Twisted Shangri-La(無言の魂、分散した糸、ねじれたシャングリラの物語)」。

会場: Castello 994

ハンガリー

Photo: Photo Bíró Dávid
Photo: Photo Bíró Dávid

ハンガリー館のキュレーターはモニカ・ジクラ、アーティストはゾフィア・ケレステス(Zsófia Keresztes)で、キュレーターとアーティストの双方を女性が占めるのはハンガリー館初となる。「After Dreams, I Dare to Defy the Damages(夢の後、私はあえてダメージに挑む)」と題された展示では、ケレステスの新作彫刻を発表し、アイデンティティーの流動性について考察する。作品はヴェネチア・ビエンナーレで展示された後、ブダペストのルートヴィヒ現代美術館で展示される予定。

会場:ジャルディーニ

パレスチナ

Photo: Courtesy Zawyeh Gallery
Photo: Courtesy Zawyeh Gallery

ヴェネチア・ビエンナーレにパレスチナを参加させようとするこれまでの試みには、賛否両論があった。たとえば、2002年にキュレーターのフランチェスコ・ボナミがパレスチナ館を提案した時、イタリアのメディアは反ユダヤ主義だとして非難している。今回もパレスチナ館は設置されないが、米国コネチカット州ウッドブリッジにあるPalestine Museum(パレスチナ博物館)の後援で、関連イベントとして展示が行われる。企画は「From Palestine with Art(パレスチナよりアートとともに)」というタイトルで、パレスチナ博物館のキュレーターであるナンシー・ネスベットが企画を担当。イブラヒム・アラッザ(Ibrahim Alazza)、モハメッド・ハリ(Mohamed Khalil)、ラナ・マタル(Rana Matar)などパレスチナにゆかりのある19人のアーティストが参加する。また、難民の鍵を吊るした木の展示などで、政治性も明確に打ち出される。

会場: Palazzo Mora, Room 8, Cannaregio 3659

バングラデシュ

Photo: Courtesy Bangladeshi Pavilion
Photo: Courtesy Bangladeshi Pavilion

バングラデシュ館による公式発表はまだ行われていないが、ヴェネチア・ビエンナーレのウェブサイトに掲載されたアーティストは次の通り。ジャマール・ウディン・アーメッド(Jamal Uddin Ahmed)、モハメド・イクバル(Mohammad Iqbal)、ハールーン=アッラシード(Harun-Ar-Rashid)、サモン・ワヒド(Sumon Wahed)、プロミティ・ホサイン(Promity Hossain)、モハマド・エウヌス(Mohammad Eunus)、マルコ・カサラ(Marco Cassarà)、Franco Marrocco(フランコ・マロッコ)、ジュゼッペ・ディエゴ・スピネッリ(Giuseppe Diego Spinelli)。キュレーターはビビアナ・バヌッチ。

会場:Palazzo Pisani Revedin, San Marco 4013

フィンランド

Photo: Ida Enegren/Frame Contemporary Art Finland
Photo: Ida Enegren/Frame Contemporary Art Finland

フィンランド代表は、ビデオ・パフォーマンス・アーティストのピルヴィ・タカラ(Pilvi Takala)。タカラはこれまで、パレ・ド・トーキョー(パリ)やMoMA PS1(ニューヨーク)など、世界各地で社会構造や行動規範を考察する作品を発表してきた。フレーム・コンテンポラリー・アート・フィンランドの委託によるフィンランド館は、クリスティーナ・リーがキュレーションを担当する。

会場:ジャルディーニ

フィリピン

フィリピン館では、既存のアート作品の枠を超えて、さまざまなメディアを使った展示が行われる。展示タイトルは「All of us present, This is our gathering/Andi taku e sana, Amung taku di sana(みんな揃った、これが私たちの集り)」。アーティストのジェラルド・タン(Gerardo Tan)、音楽学者のフェリシダード・A・プルーデンテ(Felicidad A. Prudente)、織物作家のサミー・ブーレ(Sammy Buhle)が、音と織物の関連性をテーマにした作品を発表する。同館の説明によると、「音と織物による文化の伝達という分野横断的なアプローチで、多数の島からなるフィリピンの伝統的な面と現代的な面を紡ぎ合わせる」ものだという。キュレーション担当はヤエル・ブエンカミーノ・ボロメオとアルビン・ジェイソン・フローレス。

会場:アルセナーレ

フランス

Photo: ©DR
Photo: ©DR

フランス代表は、記憶をテーマにしたビデオインスタレーションや写真作品を制作しているジネブ・セディラ(Zineb Sedira)。ロンドンを拠点に活動し、これまでパレ・ド・トーキョー(パリ)、モントリオール現代美術館、テート・ブリテン(ロンドン)など世界各地で展覧会を開催してきた。アルジェリア系アーティストがヴェネチア・ビエンナーレでフランス代表に選ばれたのは今回が初めて。セディラは、1960年代〜1970年代にフランス、アルジェリア、イタリアで起きた政治活動のうねりと、当時の映画制作への影響を扱った新作《Les Rêves n'ont pas de titre(夢には題名がない)》を発表する予定だ。キュレーターは、ヤスミナ・レガド、サム・バルダウィル、ティル・フェルラス。

会場:ジャルディーニ

ブラジル

Photo: Photo Jéssica Bernardo/Courtesy the artist
Photo: Photo Jéssica Bernardo/Courtesy the artist

ブラジル館のキュレーションを担当するのは2021年のサンパウロ・ビエンナーレを企画したヤコポ・クリヴェッリ・ヴィスコンティで、ブラジル代表アーティストとしてジョナサス・デ・アンドラーデ(Jonathas de Andrade)を指名。映像作品が海外で高く評価されているデ・アンドラーデはブラジルの社会的弱者に焦点を当てた作品を数多く制作している。ブラジル館では「Com o coração saindo pela boca(口から心臓が飛び出しそうなほど)」と題し、ブラジルの国民性を形成する要素を改めて考察する。出発点は、解剖学の授業でよく使われる横たわる女性の巨大な彫刻だ。デ・アンドラーデは子どもの頃この彫刻に出会ったという。写真、インタラクティブな彫刻、人体について考えるビデオ作品など、ブラジル館全体が科学博覧会を思わせる展示となる予定。

会場:ジャルディーニ

ブルガリア

アーティスト集団ゲリティン(Gelitin)の元メンバーとして国際的な知名度があるミハイル・ミハイロフ(Michail Michailov)が、今年のブルガリア代表アーティストだ。イリーナ・バトコヴァのキュレーションによる展示は「Here you are(ヒア・ユー・アー)」と題される予定だが、詳細は未発表。

会場:Spazio Ravà, San Polo 1100

ペルー

ペルー代表のヘルベルト・ロドリゲス(Herbert Rodriguez)は、絵画やコラージュを通して、アマゾン地域における自然破壊や独裁政権、先住民が直面する危機など、ペルー社会の暗黒面を正面から取り上げてきた。「Peace is a Corrosive Promise(平和は腐食性の約束だ)」と題されたペルー館での展示のキュレーションは、ホルヘ・ビジャコルタとビオラ・バロットが担当する。

会場:アルセナーレ

米国

Photo: Shaniqwa Jarvis/©Simone Leigh
Photo: Shaniqwa Jarvis/©Simone Leigh

現在活動している彫刻家の中で最も有名な作家の一人であるシモン・リー(Simone Leigh)は、米国代表初の黒人女性アーティストとなる。リーは、黒人女性とその抵抗をテーマに、工芸、風土的建築、西アフリカ美術を思わせる作品を多く制作している。展示タイトルが「Sovereignty(主権)」だという以外の詳細は未発表。ビエンナーレの期間中、オープン・ソサエティ財団(Open Society Foundation)のディレクターであるラシーダ・バンブレーが、歴史上の黒人女性に関するシンポジウムを開催する。キュレーションを担当するのは、ボストン現代美術館のジル・メドベドウ館長とエバ・レスピーニ主任学芸員。今回米国館で発表された作品は、2023年に同美術館で開催されるリーの回顧展で展示される予定だ。

会場:ジャルディーニ

ベネズエラ

Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images
Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images

国を揺るがした抗議運動の影響で、2019年のベネズエラ館は開幕直前まで設営作業が続いていた。同国の財政はまだ非常に厳しい状態にあるものの、2022年も展示を行う予定。タイトルは「Tierra, País, Casa, Cuerpo(土地、国、家、身体)」で、パルミラ・コレア(Palmira Correa)、セザール・バスケス(César Vázquez)、ミラ・クアスト(Mila Quast)、ホルヘ・レシオ(Jorge Recio)の作品を展示する。キュレーション担当はザカリアス・ガルシア。

会場:ジャルディーニ

ベルギー

Photo: Courtesy the artist
Photo: Courtesy the artist

2017年のヴェネチア・ビエンナーレでイラク館に出展したフランシス・アリス(Francis Alÿs)が、今回はベルギー代表として参加する。ハン・ネフケンス財団(バルセロナ)のキュレーター、ヒルデ・ティアリンクが企画を担当し、アリスはビデオ作品《Children's Games #19: Haram Soccer(子どものゲーム#19:ハラム・サッカー)》(2017)の続編となる新作を発表する予定。アリスは国境や紛争をテーマに政治的な色合いの濃い映像作品を数多く制作し、過去のヴェネチア・ビエンナーレのメイン展示(1999年、2001年、2007年)にも選出されている。

会場:ジャルディーニ

香港

Photo: Courtesy the artist and Blindspot Gallery
Photo: Courtesy the artist and Blindspot Gallery

フレイヤ・チョウがキュレーターを務める香港館では、アンジェラ・スー(Angela Su)の作品を展示する(なお香港館は、ビエンナーレの国別パビリオンとしては認められていないため国別パビリオンの作品に与えられる金獅子賞の対象にはならないが、公式の関連イベントとされている)。スーは展示の詳細を明らかにしていないが、チョウによれば、これまでにスーが行ってきたのと同様、研究に基づいて制作された作品を発表し、「私たちの存在の状態と科学技術との相互関係をテーマとする」という。香港の現代美術館、M+との共同企画で、ヴェネチア・ビエンナーレの会期終了後、作品はM+に送られる。

会場:アルセナーレ

ポーランド

Photo: Daniel Rumiancew
Photo: Daniel Rumiancew

ポーランド代表は、ロマに対する固定観念を覆すカラフルなパッチワーク作品で知られるマウゴジャータ・ミルガ=タス。キュレーターはヴォイチェフ・シマヌスキとヨアンナ・バルサ。ルーマニア系ポーランド人であるミルガ=タスの展示について、ポーランド館の説明文には次のように書かれている。「そこは、足を踏み入れるたびに魅了される魔法の世界。観客にとって一種の隠れ家、希望と休息を与える避難場所となるだろう」

会場:ジャルディーニ

ポルトガル

Photo: Courtesy Direção-Geral das Artes
Photo: Courtesy Direção-Geral das Artes

ポルトガル代表に選ばれたのは、今勢いに乗っているビデオアーティスト、ペドロ・ネヴェス・マルケス(Pedro Neves Marques)。ジョアン・ムランとルイス・シルバが企画するパビリオンのタイトルは、「Vampires in Space(バンパイア・イン・スペース)」で、ネヴェス・マルケスの手掛けた映像作品や詩を展示する。モチーフにしている吸血鬼は、ネヴェス・マルケスの解釈によるとジェンダーやセクシャリティを捉え直すためのシンボルだという。2022年のポルトガル館の展示内容とともに明らかになったのは、代表アーティストの選考過程をめぐる騒動だ。キュレーターのブルーノ・レイタンは、彼が推薦したグラダ・キロンバが代表になるべきだったにもかかわらず、審査員による採点の問題で実現しなかったと主張している。レイタンの計画通りに事が運んでいれば、キロンバはポルトガルを代表する初の黒人アーティストとなっていた。

会場:Palazzo Franchetti San Marco 2847

ボリビア

Photo: Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images
Photo: Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images

ボリビア館による公式発表はまだ行われていないが、ヴェネチア・ビエンナーレのウェブサイトには、アーティストとしてワルミチャチャ(Warmichacha)、キュレーターとしてロベルト・アギラール・キスベルトの名が記載されている。

会場:Artspace4rent, Cannaregio 4120

マルタ

Photo: Via Wikimedia Commons
Photo: Via Wikimedia Commons

マルタ館では、500年以上前に制作されたカラヴァッジョの《洗礼者ヨハネの斬首》(1608)にインスピレーションを得た作品が展示される。マルタのバレッタの大聖堂にあるこの絵画から抽出したテーマをもとに、現代に向けて制作した新作のインスタレーションを発表するのは、アルカンジェロ・サッソリーノ(Arcangelo Sassolino)、ジュゼッペ・シェンブリ・ボナチ(Giuseppe Schembri Bonaci)、ブライアン・シェンブリ(Brian Schembri)。キュレーション担当は、キース・シベラスとジェフリー・ウスリップ。

会場:アルセナーレ

南アフリカ

Photo: Courtesy South African Pavilion
Photo: Courtesy South African Pavilion

南アフリカ館では、コロナ禍の時代における回復力と自己実現をゆるやかなテーマとしながら、3人のアーティストがさまざまな手法で表現した作品を展示する。ロジャー・バレン(Roger Ballen)の新作はガラスに描かれたペインティングで、女子刑務所の黒く塗り潰された窓に受刑者が引っ掻いてできた模様を想起させる。レボハン・クガニェ(Lebohang Kganye)は、おとぎ話を思わせるシーンに自らを置いた写真を展示。フムラニ・ントゥリ(Phumulani Ntuli)は、波の前にアフリカンドレスを着て現れる自身の姿をストップモーションアニメで表現する。「Into the Light(ひかりの中へ)」と題された展示のキュレーションを担当するのはアメ・ベル。

会場:アルセナーレ

メキシコ

Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images
Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images

メキシコ館は「脱植民地主義的視点」を打ち出すとの目標を掲げている。代表アーティストは4人で、いずれも植民地構造の外側で知を表現する方法を探究するマリアナ・カスティージョ・デボール(Mariana Castillo Deball)、ナオミ・リンコン・ガヤルド(Naomi Rincón Gallardo)、フェルナンド・パルマ・ロドリゲス(Fernando Palma Rodríguez)、サンティアゴ・ボルハ・チャレス(Santiago Borja Charles)。メキシコは選考方法を変更し、初めて複数のアーティストを代表として選んだ。カタリナ・ロザノとマウリシオ・マルシンがキュレーションを担当し、「Hasta que los cantos broten(歌が芽吹くまで)」と題して展示を行う。

会場:アルセナーレ

モンゴル

Photo: Courtesy Art Space 976
Photo: Courtesy Art Space 976

ヴェネチア・ビエンナーレのウェブサイトによると、モンゴル代表アーティストはムンフツェツェグ・ジャルカジャブ(Munkhtsetseg Jalkhaajav)。人間とカラスを融合させたものを描いた絵画作品を数多く発表しているが、これは鳥が生命力を表すというモンゴル伝統医学の概念を暗示している。ジャルカジャブはコラージュ作品も制作しており、「伸縮素材の布を縫い合わせることで、修理のように別々のパーツを組み合わせて健全な状態を作り出す」と説明している。この考えに基づいたと思われるモンゴル館の展示タイトルは「A Journey Through Vulnerability(脆弱性をめぐる旅)」。ガントゥヤ・バダムガラブがキュレーションを行う。

会場:Castello 2131

モンテネグロ

Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images
Photo: Photo Felix Hörhager/picture-alliance/dpa/AP Images

モンテネグロ館については、ナタリア・ブジョセビッチがキュレーションを担当することが判明している以外、詳細は不明。情報が少ないのは、展示内容がユニークであることも関係しているかもしれない。ヴェネチア・ビエンナーレのウェブサイトによれば、タイトルは「The Art Of Holding Hands as we break through the sedimentary cloud(手をつなぎ、堆積した雲を突き破る)」。参加アーティストは、ダンテ・ブー(Dante Buu)、リディヤ・デリッチ&イバン・シュコビッチ(Lidija Delić & Ivan Šuković)、ダルコ・ブチュコビッチ(Darko Vučković)、イェレナ・トマセヴィッチ(Jelena Tomašević)に加え、「非同盟諸国のアートコレクション」としてズザナ・チャルポヴァ(Zuzana Chalupova)、レネ・ポルトカレロ(Rene Portocarrero)、イラクの不詳のアーティスト、およびベルナルド・マテメーラ(Bernard Matemera)の作品を展示する予定だ。

会場:Palazzo Malipiero, San Marco 3078-3079/A, Ramo Malipiero

ラトビア

Photo: ©Kristīne Madjare
Photo: ©Kristīne Madjare

ラトビア館では、アーティスト2人によるユニット、スクーヤ・ブラデン(Skuja Braden)が、家庭を構成する要素をテーマに展示を行う。ジェームズ・ボールドウィンからの引用文、カリフォルニアの禅僧院への訪問、バルト地域のクィアコミュニティをめぐる議論などからヒントを得たもので、「Selling Water by the River(川のほとりで水を売る)」と題されている。キュレーションを担当するのは、アンドラ・シラペテレとソルビタ・クレーセ。家庭は、まるで川のように流動的で常に変化しているという考えに基づき、食器やホースなどをかたどった磁器作品を発表する。

会場:アルセナーレ

リトアニア

Photo: Photo Milda Zabaraskauite
Photo: Photo Milda Zabaraskauite

2019年のリトアニア館は、パフォーマンス作品《Sun & Sea(太陽と海)》により金獅子賞を受賞して話題をさらった。この作品は今も世界各地を巡回している。2022年は代表アーティストのロベルタス・ナルクス(Robertas Narkus)が、キュレーターのネリンガ・ブンブリエネと組んで「Gut Feeling(ガット・フィーリング)」と題した展示を行い、再び驚きをもたらすことになりそうだ。このタイトルは、直感と生物学的現象という二つの慣用句のダブルミーニングになっている。展示は、リトアニア館内だけでなく、ヴェネチアに広まるジェントリフィケーション(高級化)の波の中で古くからの姿をとどめるカステッロ地区の広場でも行われる。ナルクスによれば、新作は「私の個人的な視点、実在の人物と架空の人物の物語、そしてバクテリアの王国との共生」という3つの要素で構成される。

会場:Castello 3200 and 3206, Campo de le Gate

ルーマニア

Photo: George Chiper-Lillemark/Courtesy the artist
Photo: George Chiper-Lillemark/Courtesy the artist

ルーマニア館で展示を行うのはアディナ・ピンティリエ(Adina Pintilie)。さまざまなタブーに挑んだ映画「タッチ・ミー・ノット〜ローラと秘密のカウンセリング〜」(2018)でベルリン映画祭の金熊賞を受賞して以来、彼女にとって最大のプロジェクトとなる。出展するのは、身体のあり方について考える新しい映画プロジェクト《You Are Another Me - A Cathedral of the Body(あなたはもう一人の私:身体のカテドラル)》だ。キュレーション担当のコスミン・コスティナスとビクトル・ノイマンは、声明の中で次のように述べている。「今の社会には、生政治(個人の身体に介入したり生き方を管理したりする権力)による統制、宗教や文化における保守主義、人の心を蝕む恥の意識が蔓延しています。こうした状況を背景に、ルーマニア館では認知された歴史や認知されていない歴史、トラウマ、欲望などを処理する装置としての身体について考える場を構想しています」

会場:ジャルディーニおよびルーマニア文化・人文科学研究所新ギャラリー(Palazzo Correr, Campo Santa Fosca, Cannareggio 2214)

ルクセンブルク

Photo: Courtesy Nosbaum Reding
Photo: Courtesy Nosbaum Reding

ルクセンブルク代表のティナ・ギレン(Tina Gillen)は、「Faraway So Close(遠くてとても近い)」というタイトルで、外面性と内面性の関係をテーマに新作の絵画やサイトスペシフィックな作品、空間演出装置のような作品などを発表する。ブリュッセルを拠点とするギレンはアントワープ王立芸術アカデミーで教鞭をとるかたわら、クンストラーハウス・ベタニエン(ベルリン)やプラットフォーム・ガランティ(イスタンブール)などで作品を発表している。クリストフ・ガロワがキュレーションを担当する。

会場:アルセナーレ

レバノン

Photo: Courtesy Aline Asmar d’Amman
Photo: Courtesy Aline Asmar d’Amman

2022年のヴェネチア・ビエンナーレで展示会場自体が最も大きく変わるのは、レバノン館かもしれない。建築家アリーネ・アスマール・ダンマンが設計を担当し、リリースによると「レバノンの都市景観に見られる神話的な現代の廃墟の形」を思わせる会場が実現するという。たとえば、ベイルートの繁華街にあるジョゼフ・フィリップ・カラム設計の映画館や、オスカー・ニーマイヤー設計によるトリポリのラシド・カラミ国際展示場は、内戦中に建設されたが一度も使われていない。ユニークな会場で行われる展示は「The World in the Image of Man(人間のイメージの世界)」というタイトルで、アイマン・バールバキ(Ayman Baalbaki)の絵画やダニエル・アルビッド(Danielle Arbid)の映像作品などを展示する。キュレーターはナダ・ガンドゥール。

会場:アルセナーレ

ロシア

Photo: Courtesy Russian Pavilion
Photo: Courtesy Russian Pavilion

ロシア館では、キリル・サフチェンコフ(Kirill Savchenkov)とアレクサンドラ・スカレバ(Alexandra Sukhareva)が、シュルレアリスム色の濃いメイン展示に呼応する作品を発表する予定だった。キュレーターのライムンダス・マラサウスカスは、「ある状態から別の状態への移行、未来と過去の間のねじれた流れ、死者と生者(とAI)の間や、昼と夜の間で一時停止した境界」を喚起する展示になるだろうと説明していた。だが、ロシアによるウクライナ侵攻が始まると、サフチェンコフ、スカレバ、マラサウスカスの3人は参加辞退を表明し、ロシア館での展示は開催されないことになった。アーティストたちは声明で次のように述べている。「ミサイル攻撃で民間人に死者が出て、ウクライナ市民がシェルターに隠れ、抗議の声を上げようとするロシア人たちが沈黙させられているときに、アートの居場所はない」

会場:ジャルディーニ

(翻訳:清水玲奈、野澤朋代)

※2月28日にロシア館は不参加を決定
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月3日に掲載されました。元記事はこちら

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