ウォーホルの著作権侵害訴訟、最高裁へ。「公正利用」の判断とは?
3月28日に米国の最高裁判所は、アンディ・ウォーホル美術財団と写真家のリン・ゴールドスミスとの間で争われている著作権侵害訴訟について、審理を行うと明らかにした。最高裁の判断は、芸術分野における著作物の「フェアユース(公正利用)」のあり方に大きな影響を与える可能性がある。なお、これまで現代アートに関する訴訟が最高裁で審理されたケースはほとんどない。
問題になっているのは、ウォーホルが1984年に制作したシリーズ作品で、ゴールドスミスがニューズウィーク誌の取材で1981年に撮影したポップスターのプリンスの写真を使ったもの。ウォーホルはその写真を、バニティフェア誌の依頼を受けて制作した作品で参照しているが、ゴールドスミスはそのことを知らなかったとされる。彼女は数十年後になって、ウォーホルが写真の著作権を侵害したと訴えた。
この訴訟の重要性はかねてから注目を集めている。最高裁が下すことになる判決は、既製の画像を流用して制作を行うアーティストにとって、何が「フェアユース」にあたるかを明らかにすることになるからだ。アプロプリエーションと呼ばれるこの手法は、度々裁判沙汰の原因となっており、ジェフ・クーンズやリチャード・プリンスなどのアーティストが提訴されている。
ウォーホル美術財団の代理人を務めるレイサム&ワトキンス法律事務所の弁護士、ローマン・マルティネスは声明の中で次のように述べている。「最高裁が本件の審理を決めたことを歓迎する。フェアユースの原則は芸術表現の自由を保護し、合衆国憲法修正第1条の核心的価値をさらに前進させる上で重要な役割を担うものだ」
この訴訟は2017年に、「プリンスシリーズ」が著作権を侵害していないという判決を得ようと、財団側がゴールドスミスに先んじて訴えを起こしたことから始まった。ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所は2019年に、財団に有利な判決を下している。
ゴールドスミスはこれを不服として控訴。2021年に第2巡回区控訴裁判所が下した判決では、彼女の写真が「プリンスシリーズ」の絵画の「認識可能な基礎」であることが認められ、ゴールドスミスが勝訴した。この時、絵の視覚的特徴をもとに判断したというジェラルド・リンチ判事は、ウォーホルはゴールドスミスの写真の一部(たとえば色調など)を変えているが、それが「変容的(transformative)」(*1)だとは言えないと述べている。ウォーホル美術財団は、最高裁での審理を求める手続きを2021年末に始めていた。
最高裁による審理のニュースは、ウォーホルに対する関心が高まっている中で発表された。ネットフリックスは最近、「アンディ・ウォーホル・ダイアリーズ」というドキュメンタリーシリーズの配信を開始。また、クリスティーズは3月21日に、ウォーホルが描いたマリリン・モンローの肖像画(予想落札価格は2億ドル)をオークションに出品すると発表している。この作品は、これまでに販売されたアート作品の中で最も高額な作品の一つとなる可能性がある。(翻訳:野澤朋代)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月28日に掲載されました。元記事はこちら。