• ECONOMY
  • NEWS
  • 2022.06.30

アート界がNFT参入に消極的なのはなぜかetc. 若きアート市場分析のスペシャリストに聞く

長年アート市場の不透明さを解き明かし、複雑な要素が絡み合うアートの世界を分析してきたのがマグナス・レッシュだ。ARTnewsでは世界最大規模のNFTイベント、NFT.NFC開催中にレッシュにインタビュー。アート市場とNFT市場の共通点、NFTがこれからのギャラリー運営を変える理由、そして不安定なNFT市場の今後の見通しについて、彼は示唆に富む回答をしてくれた。

マグナス・レッシュ Courtesy Magnus Resch

『Management of Art Galleries(アートギャラリーの経営)』や『How to Become a Successful Artist(成功するアーティストになる方法)』などの著書があるレッシュは、アート市場の動きについてとことんクールな見方をする。彼が経済学者で起業家、そしてイェール大学の講師でもあると聞けば納得がいくのではないだろうか。

こうしたデータ重視の姿勢は、混沌としたNFTの世界に切り込むには理想的と言える。そこで、タム・グリンとの共著『How To Create And Sell NFTs - A Guide For All Artists(NFTの作り方と売り方−全アーティストのための手引き)』が6月22日に出版されたのを機に、アート市場とNFTに関する質問をぶつけてみた。

──アート市場の分析に足を踏み入れたきっかけは?

20代の頃、研究資金を得ようとアートを売り始めたんですが、「なぜ成功するギャラリーとそうでないギャラリーがあるのか」と思うようになった。それがきっかけで、この疑問を博士論文のテーマにしたんです。

──何が分かりましたか?

成功するかどうかを決めるのは、アートとは無関係だということ。アーティストがどんな作品を作るかは、成功するかどうかとほとんど関係がありません。ギャラリーの場合、成功を左右するのはアートとは関係のない仕事です。ギャラリーやアーティストの成功は、原則としてネットワーク作りによって決まる。何を売るか、何を作るかよりも、誰を知っているかが重要なんです。

──ちょっと前にNFTのコレクターと話したのですが、同じようなことを言っていましたね。「どんな作品かは関係なくて、背後に強力なコミュニティがあれば買いだ」と。

アートの世界も同じですよね。アート界は、NFTはお金だけの世界だと軽く見ている。確かにその通りで、NFTが買われる第一の理由は金儲けでしょう。アート界はというと、少なくとも市場の頂点では、ここが非常に特徴的な点ですが、市場の頂点では全てがお金のためなんです。

──そんな共通点があるのに、アート界はNFTへの参入に消極的ですね。

私も驚きでしたよ。NFTのイベントに行くと、従来のアート界から参加する人があまりに少ないのはなぜだろうと。でも、理解はできます。自分も最初は嫌だったから。だって、突然出現した新しい人たちばかりの世界で、これまでアート界で得た信用や長年築き上げてきたあれこれが無になるわけですからね。それに、まったく新しいテクノロジーや言語を学び、理解しなければならない。大変だったけれど、好奇心が原動力になってこの本を書いたんです。


『How To Create And Sell NFTs - A Guide For All Artists(NFTの作り方と売り方−全アーティストのための手引き)』 Courtesy Magnus Resch

──アート関係者がNFT市場に参入するのをためらうのはなぜですか? 美意識の問題なんでしょうか。

美意識はまったく関係ないでしょう。アート業界の人たちが消極的な理由はいくつかあります。第一に、今まで聞いたこともないようなアーティストの作品が、突然何百万ドルという値段で売れるから敬遠したくなる。第二に、敷居の高さ。ウォレット、メタマスク、ブロックチェーンなど、聞き慣れない言葉が飛び交っていることだけでも怖いんです。そして第三の理由は、アートの世界は歴史的に新しいものへの適応が遅いということ。現状維持で構わない。今のままがちょうどいいから、というわけです。

──アート界はNFTを無視できるでしょうか?

アート市場の最大の問題は、ビジターは多いがバイヤーが少なすぎること。アートを買う人の数は減っています。なぜかと言えば、買おうとしても恐ろしくてアート界に入り込めないんです。エリート主義で、初心者には門戸が開かれていない。アート界は新しい顧客を招き入れることができなければ、自滅するしかありません。その打開策になり得るのがNFTです。NFTは価格が完全に透明化され、誰でも自動的にアクセスできるからこそ買い手が出現したんです。

──アーティストにはどんな影響がありますか?

アーティストが理解しつつあるのは「ギャラリーなしでも成功できる」ということ。50%の取り分じゃあもうダメなんです。アーティストは起業家として、自ら顧客や流通経路を見つけ出し、作り出せます。3年前にはまったく稼げなかったアーティストが、誰かに頼るのではなく、自分の手でキャリアを切り開いた結果、今ではとてもリッチになった例も少なくない。ジェン・スタークやジャスティン・アヴェルサーノはいい例です。

──でも、アーティストはそこまでしたいのでしょうか。ギャラリーが見込み客を巧みにあしらったり、駆け引きをしたりするのは、最終的にアーティストに最高の買い手が付き、そして願わくは美術館に所蔵されるのに役立つのではないでしょうか?

アーティストがギャラリーを必要としているのは事実だけれど、NFTのほうでもギャラリーを必要としているんですよ。ほとんどのNFTは成功を得るための信頼性に欠けているから、長期的に価値を維持することができない。ジェネレーティブアート(*1)のプラットフォーム、アートブロックス(Art Blocks)創設者のエリック・カルデロンは、NFTの市場価値を維持するためには従来のアート界を利用することが必要だと分かっている。だからこそ、彼はテキサス州のマーファにリアルの展示スペースを作り、メガギャラリーのペースとコラボしているというわけです。


*1コンピューターを使い、意図的に偶然性を取り入れたプログラムで制作されたアート。

──NFT市場の今後の動きについて、どう予測していますか?

短期間だけ急騰した後、下降に転じるでしょう。そして1年半後には、市場は安定すると思います。

──それはよかった、安心しましたよ。

(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年6月23日に掲載されました。元記事はこちら

RECOMMEND
ブロックチェーンが変えるアート~アートテック最前線

  • ARTnews
  • ECONOMY
  • アート界がNFT参入に消極的なのはなぜかetc. 若きアート市場分析のスペシャリストに聞く