長らく過小評価されてきた作家、レイモンド・サンダースがデイヴィッド・ツヴィルナーに移籍
オークランドを拠点に活動するアフリカ系アメリカ人作家、レイモンド・サンダースがデイヴィッド・ツヴィルナー・ギャラリーに所属することが発表された。元の所属ギャラリーとも契約は継続しながらメガギャラリーに所属する動きは、昨今みられるギャラリー間の格差縮小の取り組みの流れを汲んでいる。
この10年でアメリカ国内の美術館から熱視線が送られるようになったレイモンド・サンダースが、世界有数のコレクション規模を誇るメガギャラリー、デイヴィッド・ツヴィルナーに所属することが発表された。
サンダースは1934年、アメリカ・ペンシルバニア州生まれ。1960 年にカーネギー工科大学で美術を学んだのち、1961年にカリフォルニア芸術工芸大学で修士号を取得。翌年、白人男性が占めるニューヨークのアートシーンにデビューした。
これまでの慣例であれば、所属が変わるというと元のギャラリーから離れることを意味するが、サンダースは、ニューヨークのアンドリュー・クレプス・ギャラリーとの契約を継続するという。今回の移籍を祝い、デイヴィッド・ツヴィルナーとアンドリュー・クレプスの両ギャラリーは、3つの会場を使用してサンダースの個展を開催する予定だ。担当キュレーターは、ツヴィルナー傘下のギャラリー、52 Walkerを運営するエボニー・L・ヘインズ。
デイヴィッド・ツヴィルナーのようなメガギャラリーが、小規模なギャラリーと共同契約を結ぶことは珍しくなくなりつつある。そのきっかけを作ったのは、同じくメガギャラリーに名を連ねるハウザー&ワース。彼らは、新しいアーティストを招き入れると同時に、所属中のギャラリーとの契約も継続するというパートナーシップ「コレクティブ・インパクト」を実施しており、すでに、ウマンとアンベラ・ウェルマンといったアーティストがニコラ・ヴァッセルやカンパニー・ギャラリーなど元の所属ギャラリーとの契約を続けながら、ハウザー&ワースに加わっている。
サンダーズの所属を伝える声明で、デイヴィッド・ツヴィルナーはこう語る。
「アンドリューがレイモンド・サンダースの作品を紹介してくれたのは2023年のこと。彼は本来であれば、アメリカのアート業界を代表する人物。しかし、これまで正当に評価されてきませんでした。彼の作品をひと目見て、私の心は奪われました」
サンダースの作品の多くは、線や模様、記号が書き込まれた背景に拾った素材を貼り付けたアッサンブラージュのように見える。ロバート・ラウシェンバーグのようなコンバイン・ペインティングを彷彿とさせる、魅惑的で謎に満ちたその作品は、支持体に広がるさまざまな素材のつながりを引き出している。
1960から1970年代にかけてサンダースは、ニューヨークのテリー・ディンテンファスギャラリーで個展を開き、好評を博す。また、イシュマエル・リードの黒人芸術運動に関する考えに異議を唱え、彼が黒人の特色を十分に解釈できていないと主張した小冊子『Black Is a Color』によってアート界の外からも注目された。カリフォルニア州オークランドに拠点を置くサンダースは、サンフランシスコ近代美術館で個展を1971年に開催している。
サンダースはまた、カリフォルニアを拠点とする黒人アーティストやブラック・パワー運動がアート制作に与えた影響に関する重要な展示や、2022年にニューヨーク近代美術館が企画した「Just Above Midtown」展にも参加している。
このような経歴の持ち主であるにもかかわらず、サンダースは同年代の作家ほど高い評価を得られていない。彼にとって20年ぶりとなったニューヨークでの個展を2022年に企画したアンドリュー・クレプスは、次のように声明を発表している。
「レイモンドに対する評価は、その実績に対して全く十分とは言えません。3つのギャラリーで同時開催される今回の企画は、これまでで最も規模の大きい彼の展示の一つであり、彼の作品がいかに奥深く豊かなものであるかを示す内容になるでしょう。これほど幅広い模様と素材を難なくまとめ上げ、作品ごとに異なる世界観を作り出せるアーティストを、私はほかに知りません」(翻訳:編集部)
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