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  • 2022.10.07

アートファンを魅了する都市、メキシコシティのアートスポット8選。フリーダ・カーロからストリートアートまで

アートを楽しみたい人にとって、メキシコシティは最高の場所だ。ただし、こんな表現では、この街の魅力をまったく捉えきれていない。世界で最も愛されている画家の1人、フリーダ・カーロを輩出しただけでなく、100年以上にわたってさまざまな国際的芸術運動の最前線となってきた街なのだから。そんなメキシコシティから、8つのアートスポットを厳選して紹介しよう。

メキシコシティのレフォルマ通りに立つ独立記念塔 Nick Hilden

豊かなアート資産があるにも関わらず、この地域に対する悪評のせいで、メキシコシティ、さらに言えばメキシコ全体が誤解され、その芸術的価値が過小評価されているのは残念なことだ。良く言えば、ビーチと酒を楽しむだけの場所として、悪く言えば、すばらしいアートはともかく、訪れるには危険すぎる場所と考えられている。

筆者は過去6年間の大半を、メキシコシティを含むメキシコ各地で暮らした。その経験から、こうした評判は正確ではないと断言できる。治安に問題があるのは確かだが、旅行者は安心して観光ができる。特にメキシコシティはここ数十年で急速に変わった。治安が改善して活気あるアートシーンを抱える都市へと変貌を遂げ、世界のどの芸術都市にも引けを取らない作品に溢れているのだ。

それでは、有名な美術館から地元の人しか知らない穴場まで、この街でおすすめのアートスポットを紹介しよう。


1. 近代美術館(Museo de Artes Moderno)


近代美術館に展示されているフリーダ・カーロの《The Two Fridas(2人のフリーダ)》(1939) Photo: Nick Hilden/ARTnews

近代美術館は、メキシコシティの名所として知られるチャプルテペック公園内の、抽象彫刻が並ぶ庭の中心にある。館内に入ると、独特な二重螺旋階段が1階の企画展示室と、上階の常設展示室を分けている。

メキシコの著名画家たちの作品が豊富にそろう所蔵品の中でも、フリーダ・カーロの《The Two Fridas(2人のフリーダ)》は目玉と言える作品だ。

チャプルテペック公園を訪れたら、それ自体が芸術品のような植物園にもぜひ立ち寄りたい。


2. タマヨ美術館(Museo Tamayo)


Photo: Nick Hilden/ARTnews

近代美術館から歩いてすぐのところにあるタマヨ美術館は、その名の通り、有名なメキシコ人画家ルフィーノ・タマヨによって設立された。

ここでの展示は前衛的なものが多く、有名作家や新進気鋭の現代アーティストの作品を取り上げ、趣向を凝らした企画展を定期的に開催している。常設展ではタマヨの作品に加え、ロスコ、オキーフ、ウォーホル、マグリット、ベーコン、ダリ、ピカソ、タピエス、ヴァザルリ、リキテンスタインなど、世界の名だたるアーティストの作品を見ることができる。

展示作品の絵画や彫刻だけでなく、ブルータリズム建築の建物も一見の価値がある。


3. 国立人類学博物館(Museo Nacional de Antropologia)


メキシコシティの国立人類学博物館(Museo Nacional de Antropologia)に立つ、キノコのような巨大噴水「El Paraguas(エル・パラグアス)」 Photo: Nick Hilden/ARTnews

タマヨ美術館に隣接する国立人類学博物館は、古代美術や民族美術、あるいは文化史全般が好きな人にはたまらない場所だ。

館内でまず目に飛び込んでくるのは、キノコのような巨大な柱《El Paraguas(エル・パラグアス:スペイン語で傘の意)》。上部から水を降らせ、中庭にひんやりとして心地よいミストを充満させている。奥に進むといくつもの展示室が続き、膨大な数の美術品や遺物などで、メキシコの多様な文化を地域や時代ごとに紹介している。

驚くような展示物もたくさんあるが、一番有名なのは太陽の石だろう。重さが24トンもあるこの巨大なアステカ文明の石の彫刻を中心にして、館内で最も印象深い展示が構成されている。この展示室には、アステカ神話の神、ショチピリを表した16世紀の有名な像もあり、その台座には幻覚性のある植物や薬物などが彫られている。

精巧な作りの仮面、彫刻、儀式用の衣服など、数え切れないほどある展示物の中でも、アステカの王モクテスマの鮮やかな頭飾りは必見だ。


4. カーサ・アスール(Casa Azul、正式名称はフリーダ・カーロ博物館)


メキシコシティにあるカーサ・アスール(Casa Azul、正式名称はフリーダ・カーロ博物館)に展示されたフリーダ・カーロの遺品 Photo: Nick Hilden/ARTnews

美術鑑賞のためにメキシコシティを訪れるなら、カーサ・アスール(青い家)として知られるフリーダ・カーロ博物館は外せない。

この建物は、カーロが生まれ育った家を博物館として開放したもの。彼女はここで夫のディエゴ・リベラと一緒に暮らし、ここで息を引き取った。館内にはカーロが描いた絵画だけでなく、手紙や写真、生前に彼女が使っていたさまざまな物が展示されている。

常に混雑しているものの、メキシコで一番有名な芸術家の暮らしぶりや、彼女の送った人生を身近に感じることができる貴重な場所だ。なお、チケットは事前にオンライン購入する必要がある。鑑賞時間枠の定員がすぐに埋まってしまうので、訪れたい日の1週間前か、少なくとも数日前には購入しておきたい。


5. ベジャス・アルテス宮殿(Palacio de Bellas Artes)


メキシコシティのセントロ歴史地区にあるベジャス・アルテス宮殿 Photo: Nick Hilden/ARTnews

メキシコシティのセントロ歴史地区の中心に立つベジャス・アルテス宮殿は、アールヌーボー、新古典主義、アールデコなどさまざまな様式を取り入れた見事な建物だ。

ここではミュージカル、バレエ、演劇などの公演のほか、さまざまな美術展が開催されている。中でも有名なのは建物の内部に描かれたいくつもの大きな壁画で、ディエゴ・リベラ、ルフィーノ・タマヨ、ダビッド・アルファロ・シケイロスの作品を見ることができる。


6. 革命記念塔(Monumento a la Revolución)


メキシコシティの革命記念塔。メキシコ革命で命を落とした英雄を称えるモニュメントとして建てられたPhoto: Nick Hilden/ARTnews

数多くのすばらしい建築が並ぶこの街でも、革命記念塔は特に目立つ存在と言えるだろう。もともとは立法府の建物として、そして19世紀末から20世紀初頭にかけて長期にわたり政権を握っていたポルフィリオ・ディアス大統領を称えるものとして設計され、建設が始まった。しかし、独裁的なディアス政権に対する革命が起き、建設は頓挫。そのまま20年ほど放置されていたが、その後メキシコ革命で命を落とした英雄たちに捧げる記念碑として完成された。

新古典主義、アールデコ、社会主義リアリズムを融合させたこのユニークな建築は、パンチョ・ビリャ、フランシスコ・マデロ、ラサロ・カルデナスといった革命家の霊廟でもある。


7. レオノーラ・キャリントンの野外彫刻


メキシコシティのレフォルマ通りにある、英国人シュルレアリスム作家、レオノーラ・キャリントンの彫刻《How Doth the Little Crocodile(小さなワニはどのように)》 Photo: Nick Hilden/ARTnews

メキシコシティの街路には数多くの彫刻があるが、英国出身のシュルレアリスム作家、レオノーラ・キャリントンによる彫刻ほど有名な(そして奇妙な)ものはないだろう。

キャリントンはパリとロンドンで美術(特にシュルレアリスム)を学んだ後、メキシコシティに移り住み、残りの人生を過ごした。彼女はこの地のアートシーンや女性運動で重要な役割を果たしている。

キャリントンの彫刻は街中に点在しているが、特に街の中心部を横切るレフォルマ通り沿いで多く見ることができる。中でも《How Doth the Little Crocodile(小さなワニはどのように)》は、最も彼女らしい作品だろう。現在、彼女が住んでいた家を美術館に改装する計画が進行中だが、2017年の大地震、そして20年からのコロナ禍で滞っている状況だ。


8. ゲレロ地区のストリートアート


メキシコシティのゲレロ地区にあるストリートアート Photo: Nick Hilden/ARTnews

ゲレロ地区は、メキシコシティの中でも治安が悪いエリアとして知られているものの、実にすばらしいストリートアートを見ることができる。

目抜き通り沿いを歩くと、次から次へと見事な壁画が目に飛び込んでくる。膨大な時間をかけて何十人ものアーティストが描いてきたイメージの集積は、まるで万華鏡のようだ。特徴的なのは、シュルレアリスム的な画風や、先住民芸術を現代によみがえらせたスタイルが中心となっていることだろう。また、数ブロックにわたって全ての建物が紫色に塗られているビオレタ通りにも足を伸ばしたい。

ただ、安全のため次のことに気をつけてほしい。明るい時間帯に行くこと、1人では行かないこと、常に周囲に気を配ること、高価な持ち物を大っぴらに見せないこと。写真撮影は自由だが、高価なスマートフォンやカメラは目立たないように使おう。日中はさほど心配する必要はないが、日が沈んだら安全な地区へ移動するのが賢明だ。(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年9月23日に掲載されました。元記事はこちら

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