奈良美智作品は約14億円で落札! アジア勢の入札が目立ったサザビーズ現代アートオークション
11月16日の夜、サザビーズ・ニューヨークで2部構成の現代アートオークションが行われた。3億1490万ドル(約441億円、手数料込み)を売り上げ、落札額の新記録が出た作家も少なくない。特に、2000年以降の現代アート作品に特化したイブニングセール「The Now(ザ・ナウ)」の3回目に当たる第1部で活発な入札が見られた。
バーバラ・クルーガー、キャロル・ボヴェなどが最高落札額を更新
16日のオークションに出品された作品は、ルーシー・ブルやアンナ・ワヤントなど人気上昇中の若手アーティストから、ウィレム・デ・クーニングやフランシス・ベーコンといった評価が確立されている一流作家のものまで多岐にわたる。60点の出品作品のうち、8割強の49点が落札されたが、ジョアン・ミッチェルの絵画を含む2点は事前に出品が取り下げられた。
また、保証付き(*1)の作品が26点、入札の取り消しができない作品が24点など、多くのオークションと同様、ほとんどの出品作品で金銭的な事前保証が行われている。
*1 作品を出品してもらいやすくするため、オークションハウスが一定の金額で購入することを事前に出品者に保証すること。
2億6800万ドル〜3億4380万ドル(約375億〜481億円)と見られていた予想総額に対し、実際の落札総額(手数料を除く)は2億7690万ドル(約388億円)。予想の最低ラインに近い結果となったが、21年11月に行われた同じ現代アートオークションの総額2億3300万ドルを上回った。なお、このときに第1回の「The Now」イブニングセールが開かれている。
サザビーズは、この「The Now」シリーズで、若手作家への旺盛な需要を取り込むことに成功した。その波及効果で、既に実績のある現代アーティストの売り上げにもはずみがついている。今回も、バーバラ・クルーガー、ジャクリーン・ハンフリーズ、キャロル・ボヴェ、ベティ・サール、エリザベス・ペイトン、サルマン・トゥールといったアーティストの作品が、それぞれの最高落札額を更新した。
オークション当日は、アートディーラーのブレット・ゴービーやデビッド・ナーマッドなどの常連から、テレビプロデューサーのライアン・マーフィーといった新顔まで各界の有力者が集まり、会場は満員の盛況だった。
アジア勢は新世代の作品に夢中!
第1部の「The Now」では、これまでオークションで期待以上の成果を上げてきたアーティストが、さらに記録を伸ばしている。出品作品の7割近くが最高落札予想価格を上回ったが、中でもアジアからの入札が活発で、22点の出品作品のうち約半数にアジアからの入札が集った。
今回の目玉となったのが、奈良美智の《Light Haze Days/Study(ライト・ヘイズ・デイズ/習作)》(1993)だ。奈良作品に特徴的な鋭いまなざしの少女が描かれたこの作品は、21年にロサンゼルス・カウンティ美術館で開催され、その後、上海などへ巡回した奈良美智の回顧展で展示されたものだ。
900万〜1200万ドル(約13億〜17億円)とされた同作品の予想落札価格に対し、サザビーズ台湾のディレクター、ウェンディ・リンとの電話で入札を行った参加者が、1010万ドル(約14億円)で落札した。手数料込みの最終価格は1190万ドル(約17億円)。ただし、19年にサザビーズ香港で記録した、奈良美智作品としての最高落札額2500万ドルには遠く及ばない結果だった。
オークションの2番目に作品が出品されたサルマン・トゥールは、パキスタン出身の画家だ。20年にニューヨークのホイットニー美術館で米国初の大規模個展が開かれて以来、トゥール作品への関心はうなぎ上り。今回出品されたのは、この個展のポスターに使われた絵画《Four Friends(4人の友だち)》(2019)で、緑がかった光を放つ蛍光灯の下で4人の人物がくつろぐ場面が描かれている。展覧会のカタログにはクリスティ・チョウが所有者として掲載されていた。
《Four Friends》は5人の入札者を集め、会場はにわかに活気づいた。最終的にサザビーズ・ロンドンのプライベートセール責任者、ファーガス・ダフを通して電話入札を行った参加者が160万ドル(約2億2400万円、手数料込み)で競り落としている。最低予想価格の30万ドル(約4200万ドル)を大きく上回り、トゥール作品の落札額新記録となった。
エリザベス・ペイトンほか、女性作家の作品も健闘
また、女性作家の作品も予想以上の人気を見せた。エリザベス・ペイトンの肖像画《Nick with His Eyes Shut(目を閉じているニック)》(2003)や、クリスティーナ・クォールズのバラバラ死体をモチーフにした《Bits n Pieces(断片)》(2019)は、それぞれの作家の最高落札額を記録している。ペイトン作品は250万ドル(約3億5000万円、手数料込み)、クォールズ作品は160万ドル(約2億2400万円、手数料込み)で、それぞれの最低予想価格100万ドル(約1億4000万円)と60万ドル(約8400万円)を上回った。
装飾的な背景の中にたたずむ女性の絵で知られる画家マリア・ベリオは、15日の夜にフィリップスで行われたオークションで落札価格の新記録を樹立したばかりだったが、サザビーズには別作品《The Harbingers(兆し)》(2020)が出品された。結果、最低予想価格の3倍にあたる92万ドル(約1億3000万円)で、サザビーズ・アジアのパティ・ウォン会長との電話で入札を行った参加者が落札した。手数料込みの最終価格は120万ドル(約1億7000万円)。
今回の結果は、数日前に行われたサザビーズの近代美術オークションが振るわない結果に終わるなど低調が続いていた最近の状況を考えると、いい意味で予想を裏切ったと言えるだろう。オークション終了後、サザビーズ・ニューヨークのブルック・ランプリー会長は、ARTnewsにこう語った。「今、アート市場には大きなプレッシャーがかかっています。実際、このところ一流作品が大量に市場に出回っているので、全てにふさわしい買い手を見つけるのは簡単ではありません」
第2部のハイライトは、約119億円で落札のウォーホル作品
第2部の現代アートセールは、サザビーズ・ヨーロッパ会長のオリバー・バーカーがオークショニアを担当。サザビーズの秋季オークションの締めくくりとなるものだったが、新しい作家による最近の作品が出品された第1部と比べると、盛り上がりに欠けていた。
そんな中、この夜の最高落札額をたたき出したのは、アンディ・ウォーホルの《ホワイト・ディザスター(白い車の衝突19回)》(1963)だ。高さ約3.6メートルの大作で、19枚の衝突事故写真で構成されている。
これはウォーホルの初期の代表作「死と惨劇」シリーズの1点で、今回のオークションでは8000万ドル(約112億円)以上の値がつくと予想されていた。入札の取り消し不可という条件下で、サザビーズ・ニューヨークの専門家から2件の入札があり、7400万ドル(約104億円)で落札された。手数料込みの最終価格は8500万ドル(約119億円)。ウォーホル作品のオークションにおける落札額としては4番目の高額だったにもかかわらず、第1部の作家ほどの熱気を会場に呼び起こすことはなかった。
このほか注目されたのは、ウィレム・デ・クーニングの3点の絵画だ。1970年代から80年代にかけて制作された鮮やかな抽象画で、いずれも遺族によって出品された。3点合わせた落札額は5810万ドル(約81億円)で、ほぼ予想通りの結果になった。
フランシス・ベーコンの《Three Studies for Portrait of Lucian Freud(ルシアン・フロイドの肖像のための3つの習作)》(1964)は、英国の画家フロイドをモデルに3つの表情を描いた作品で、この10年はヨーロッパの個人コレクターが所蔵していた。落札額は予想最低価格の3000万ドル(約42億円)に届かない2800万ドル(約39億円)に終わっている。手数料込みの最終価格は3000万ドル(約42億円)。
一方、ベーコン同様、市場での評価が確立されているバーバラ・クルーガーは、《Untitled (My face is your fortune)(無題〈私の顔はあなたの財産〉)》(1984)で自らの最高落札額を更新した。
クルーガーの特徴であるモノクロ写真の転用と謎めいたテキストを重ね合わせた作品で、サザビーズ・ニューヨークのプライベートセール責任者、デビッド・シュレーダーとの電話で入札した参加者が125万ドル(約1億7500万円)で落札。最低予想価格の60万ドル(約8400万円)に対し、手数料込みの最終価格は160万ドル(約2億2400万円)に達した。これまで、クルーガー作品のオークションでの最高落札額は21年11月にクリスティーズで達成されたものだったが、これが塗り替えられたことになる。(翻訳:清水玲奈)
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