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サザビーズの現代アートオークションが約282億円の売上総額を達成。ルイーズ・ブルジョワは41億円、バスキアの注目作は35億円にとどまる

5月18日、ニューヨークのアッパー・マンハッタンにあるサザビーズ本社で2部にわたるイブニングセールが開催され、手数料等を含む合計で2億470万ドル(約282億円)を売り上げた。

ポーシャ・ズババヘラ《Vese Vakanddibata (They all gave me strength)》。Photo: Courtesy Sotheby's

金利上昇や相次ぐ銀行破綻など、逆風の中でのオークション

このイブニングセールでは一部の出品が取り下げられた後、予想落札価格の総額が1億6900万ドル(約233億円)に下方修正されていたが、実際の落札価格総額はこれを上回る1億7500万ドル(約242億円)だった。

オークションの第1部は、過去5年以内に制作された需要の高い作品が出品される「Now」イブニングセールで、売上総額は3720万ドル(約51億円)。続く第2部の「Contemporary」イブニングセールの売上総額は、1億6750万ドル(約231億円)となった。「Contemporary」では、オークション開始直前に5つのロットが取り下げられ(それぞれ予想落札価格は100万ドル以下)、最終的な落札総額は1億4580万ドル(約201億円)となった。なお、出品取り下げ前の予想落札総額は1億5490万ドル(約214億円)だった。

業界関係者の中には、低金利時代が終わりを告げたことから、上昇を続けていたアート市場の最高価格帯が調整局面に入り、アートへの投資熱は沈静化すると予想する人もいた。また、ニューヨークの一部のアートアドバイザーはUS版ARTnewsの取材に対し、現代アーティストの中でも特に40歳以下の若手作家への需要集中が収まってきているのは、このカテゴリーがここ数年で飽和状態になったことを示していると述べている。

それでも、18日のサザビーズのオークションには活気があり、第1部の「Now」イブニングセールでは、ジャスティン・カギアット、ヘンリー・テイラー、ニコール・アイゼンマン、シモーヌ・リー、スティーブン・シアラー、ポーシャ・ズババヘラの6人が、それぞれ落札価格の最高記録を樹立。また、第2部の「Contemporary」イブニングセールでは、4人のアーティストの記録が更新された。

欧米で立て続けに銀行破綻が発生したことで、経済的な逆風がアート市場のトッププレーヤーに与える影響が懸念されているが、情報筋によると影響はそれほど深刻なものにはならないという。金利上昇の影響は、借り入れ資金でアートへの投資を行う少数のコレクターにとっては足かせになるかもしれないが、舞台裏で行われる資金調達がどうであれ、実際の売り上げにはほとんど影響を及ぼさないと見ているのだ。

ニューヨークを拠点とするサザビーズのライバル企業の会長はUS版ARTnewsの取材に応じ、今回のオークション前のアート市場は基本的に好調で、2022年秋と比較すると各オークションハウスは「明らかに強気な姿勢」で5月のオークションに高額のロットを出品してもらえるよう交渉を進めてきたと説明した。また、ロンドンを拠点にアート関連のファンド・資産管理会社を経営するフィリップ・ホフマンの話では、金融情勢の先行きは不透明なものの、オークション出品前に保証(*1)を得られれば、顧客はリスクを負うことを辞さない傾向にあるという。


*1 オークションハウスまたは第三者が、落札者が現れず不落札に終わる事態を避けるため、作品を一定の価格で購入すると出品者に保証すること

ルイーズ・ブルジョワの代表作は約41億円、若手の最高額更新が目立つ

オークションに出品が予定されていながら取り下げられた中には、奈良美智の絵画もあった。奈良の作品に繰り返し登場する大きな目をした女の子を描いた作品で、予想落札額は1800万ドル(約24億8000万円)だった。サザビーズは、オークション開始前に委託者がこの作品の出品を取り下げたことから、予想落札総額を引き下げていた。

今回の最高落札額作品は、ルイーズ・ブルジョワ巨大なブロンズ彫刻《Spider》で、サザビーズ・アメリカスのリサ・デニソン会長との電話で入札した参加者が、最低予想落札額の3000万ドル(約41億円)で落札。最終的な価格は、手数料込みで3280万ドル(約45億円)だった。これに次ぐ高額で落札されたのは、ジャン・ミシェル=バスキアの《Now's the Time》(1985)。ミュージシャンのチャーリー・パーカーへのオマージュを込めてレコード型のカンバスに描かれたこの作品の落札価格は3000万ドル(約41億円)程度と見られていたが、競りは2300万ドル(約32億円)で開始され、2550万ドル(約35億円)で落札。手数料込みで2860万ドル(約39億円)と、予想を下回る結果だった。

ヘンリー・テイラー《From Congo to the Capital, and black again》(2007)

今回のイブニングセールで最も期待された出品作品の1つが、ピカソが娼婦を描いた《アヴィニョンの娘たち》(1907)をベースに、人物を黒人女性に置き換えたヘンリー・テイラーの絵画《From Congo to the Capital, and black again》(2007)だ。この作品はロサンゼルス現代美術館で開催されたテイラーの個展「B Side」で展示されたもので、相当数の入札を集めた。最終的には、予想落札価格の100万ドル(約1億3800万円)を大きく上回る250万ドル(約3億4500万円)で、電話による参加者が落札。テイラーのオークション記録となった。

シモーヌ・リーの具象的な彫刻作品も彼女の最高落札額記録を樹立。リー作品の特徴である椰子の葉のスカートを身につけた女性像《Las Meninas II》(2019)は、過去4年間で3回売買されているが、今回のイブニングセールでは300万ドル(約4億円)で落札された。リーの最高額は、同じ週の初めにフィリップスで更新されたばかりだったが、これをさらに上回っている。ジンバブエを拠点とするポーシャ・ズババヘラの絵画《Vese Vakanddibata (They all gave me strength, 2016)》(2016)は、4人の人物が融け合って1つになっている様子を描いたもので、手数料込みで35万5600ドル(約4900万円)。これも、ズババヘラ作品の落札価格としては過去最高となっている。

また、ベッドで抱き合う2人の女性を描いたニコール・アイゼンマンの《Night Studio》は、240万ドル(約3億3000万円)で落札されたが、過去の図録では、この作品はニューヨークを拠点とするジョシュア・ゲッセルとヨエル・クレミンのコレクションの所蔵となっていた。マシュー・ウォンの風景画《The Jungle》(2017)は、グッゲンハイム財団の元理事で投資家のデヴィッド・シューマンが出品し、180万ドル(約2億5000万円)で落札。この作品は4月に香港のオークションで出品予定が取り消されたのち、今回ニューヨークで出品された。(翻訳:清水玲奈)

取材協力:Alex Greenberger

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