テート・モダンのシニア・キュレーター、中森康文がアジア・ソサエティ美術館館長に就任
ニューヨークを拠点にする世界的な非営利組織、アジア・ソサエティが、芸術文化担当副代表兼アジア・ソサエティ美術館館長に、現テート・モダンのシニア・キュレーター、中森康文を任命した。中森は8月から同館の展示やコレクション、芸術文化プログラムを統括する。
アジア・ソサエティは、1956年にジョン・D・ロックフェラーによって設立された民間の非営利団体。ニューヨークに本部があるほか、上海、香港、マニラ、ムンバイ、シドニー、ソウルなど世界各地に支部があり、2018年には東京支部が設立されている。アジアや世界の国々が直面する課題に取り組むことを目指し、芸術、ビジネス、文化、教育、政策など様々な分野で知見を提供し、アジアと世界の国々との協力を促進している。アートの分野では、中国や韓国の陶磁器、東南アジアの彫刻のほか、アジアやアジア系アメリカ人アーティストによるビデオ、アニメーション、写真作品などの現代美術を収集、展示している。
今回の任命にあたり、中森は声明で次のように抱負を語る。
「アジア・ソサエティ美術館と世界的な団体の芸術文化プログラムを率いることになり、非常に興奮しています。同美術館が、アジアと世界との関係性とその歴史に目を向けることで、アジア人とアジア系移民による美術の学術的・学芸的分野を拡大する原動力となることを望んでいます」
中森は2018年から、テート・モダンのインターナショナル・アート、写真部門のシニア・キュレーターを務め、同館の写真コレクションの中心的な役割を果たしてきた。プレスリリースによると、中森はそのほかにも、人種間の平等を考えるチームを通じて同館に助言を与えてきたほか、プログラミングによる同館の写真と現代アートの新しい管理法を提案し、アジアおよびアジア系移民のアートのプログラミング分野の様々な取り組みにスポットを当ててきたという。
今回の選出にあたった調査委員会の共同委員長を務めたアジア・ソサエティのエミリー・ラファティ評議員は、中森について、「世界的なアートシーンに向けてアジアの芸術の重要性をアピールできる、美術館のリーダーに値する人物と評価しました。アジア・ソサエティと同美術館にとって重要な岐路にあるこの時期に、中森氏が参加してくださることを嬉しく思います」と語る。
中森は、早稲田大学政治経済学部を卒業し、ウィスコンシン大学のロースクールで法学博士号、コーネル大学で美術史および視覚研究の博士号を取得。クレアモント大学ミュージアム・リーダーシップ研究所の2016年度フェローに選ばれている。
アート部門での経験は、テートに加え、ミネアポリス美術館では写真・ニューメディア部門の責任者、ヒューストン美術館では写真キュレーターを務めている。また、『Katsura: Picturing Modernism in Japanese Architecture』などの本も執筆している。
法務に関する経験も豊富だ。1995年から2002年にかけて東京とニューヨークで企業法務を担当したほか、草間彌生財団をはじめとする日本とイギリスのアート機関の理事も務めている。(翻訳:編集部)
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