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低調のクリスティーズ・ロンドン、予想価格帯を下回ったトゥオンブリーやブルジョワに対し、ハーストやホックニーは好調

6月28日にロンドンで開催されたクリスティーズオークション、20世紀・21世紀イブニングセールの売上総額は6380万ポンド(約117億円)。著名アーティストの作品が多数出品されたにもかかわらず、ほとんどのロットが予想最低落札価格以下かそれに近い水準での落札に終わった。

ポール・シニャック《Calanque-des-Canoubiers-Pointe-de-Bamer-Saint-Tropez》(1896)、カンバスに油彩 Photo: Courtesy Christie's

肖像画中心の出品。最高落札額はシニャックの風景画

今回のクリスティーズのセールでは、市場調整の兆候が顕著だった5月のニューヨークのような低調な動きが目についた。6月27日夜、やはりロンドンで行われたサザビーズオークションで、クリムトの《扇を持つ貴婦人》が欧州の美術品オークション史上最高額を樹立したのとは対照的だ。

アルベルト・ブッリ、サイ・トゥオンブリールイーズ・ブルジョワなど一流アーティストの作品が予想価格帯を下回る落札額になった一方、エドガー・ドガダミアン・ハーストデイヴィッド・ホックニーの作品は、予想最高落札額を大きく上回る値がついた。また、ディアン・ダル=プラやアハマド・マーテルといった現代アート作家も予想を超える価格で落札され、それぞれの落札価格記録を更新している。

オークション終了後の記者会見で、クリスティーズ・ロンドンの印象派・近代アート部門を率いるキース・ギルは、「適切な作品を適切な予想落札価格で出品するとともに、これまで公開オークションに出されたことがないような作品を紹介する」というクリスティーズの戦略を反映する結果になったと述べた。

また、このオークションには肖像作品が数多く出品された。クリスティーズのバイスチェアマン、ジャヴァンナ・ベルタッツォーニによると、これは「ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーのリニューアルオープンを記念したもの」だという。

しかし、この日のオークションでとりわけ大きな成功を収めたのは肖像画ではなく、ポール・シニャックが点描で風景を描いた油彩画《Calanque-des-Canoubiers-Pointe-de-Bamer-Saint-Tropez》(1896)だった。同作品の予想落札額は最高550万〜800万ポンド(約10億〜約15億円)で、第三者保証がついた13点の作品のうちの1点だったが、最終的な落札価格は670万ポンド(約12億3000万円)、手数料込みで802万ポンド(約14億7000万円)を記録した。

ちなみに、《Calanque-des-Canoubiers-Pointe-de-Bamer-Saint-Tropez》は、2026年にドイツ、ポツダムのバルベリーニ美術館で開催される展覧会「Symphonies of Color: Signac and Neo-Impressionism(色彩のシンフォニー:シニャックと新印象派)」のためにすでに貸し出し要請を受けている。

保証付きで出品された中には、ジャン=ミシェル・バスキアピカソに捧げた《Untitled (Pablo Picasso)》(1984)もあった。落札価格は手数料込みで646万ポンド(約11億8000万円)で、予想最高落札価格の650万ポンドにわずかに届かなかった。

また、セシリー・ブラウンの油彩画《Kiss Me Stupid》の予想落札額は300万〜500万ポンド(約5億5000万〜約9億2000万円)だったが、落札価格は予想額の下限をやや下回る290万ポンド(5億3000万円)、手数料込みの最終価格はで354万9000ポンド(約6億5000万円)だった。この作品が前回オークションに登場したのは、2008年のニューヨークのサザビーズで、当時の予想落札価格は80万〜100万ドル(約1億2000万円)。今回《Kiss Me Stupid》は、オークションに出品された68点のうち3番目に高い落札価格を記録している。

予想最低落札額を下回ったブルジョア、入札が相次いだハースト

今回とりわけ活発な入札があったのは、ディアーヌ・ダル=プラ、サハラ・ロンジュ、ルイス・フラティーノ、ヴィクター・マンの作品だ

ディアーヌ・ダル=プラ《It Belongs to You》(2020)Photo: Courtesy Christie's

この日のオークションの最初に登場したのが、フランス人アーティスト、ディアーヌ・ダル=プラのシュルレアリスム的な具象肖像画《It Belongs to You》(2020)。角の長いヤギを抱く女性を描いた作品で、3万〜5万ポンド(約500万〜920万円)の予想落札価格に対し、手数料込み11万3400ポンド(約2100万円)でオンラインでの入札者が落札し、ダル=プラ作品の世界最高落札額となった。

2番目に出品されたイギリス人アーティスト、サハラ・ロンジュの《Self-Portrait》は4万~6万ポンド(約730万〜約1100万円)の予想だったが、ダル=プラと同じく手数料込み11万3400ポンド(約2100万円)で落札されている。

ロット番号3のフラッティーノによる肖像画《Listening to a conch》も、この流れに乗った。予想落札価格は4万〜6万ポンド(約730万〜約1100万円)だったが、手数料込みで20万1600ポンド(約3700万円)と、予想上限の3倍を超える価格で落札された。

その直後にはヴィクター・マンによる暗い色彩の具象肖像画《Weiltinnenraum (World Within)》(2017)が出品された。2018年にニューヨークのグラッドストーン・ギャラリーで展示されたこの作品の予想落札価格は10万〜15万ポンド(約1830万〜2750万円円)だったが、価格はみるみるうちに吊り上がった。そして、開始からわずか5分弱で25人の入札があったのち、140万ポンド(約2億5600万円)で決着。手数料を含む最終価格は、予想最高価格の10倍以上の173万ポンド(約3億1600万円)となり、マン作品の最高落札額を更新した。

このオークションには、ジェラルド・ファインバーグ・コレクションから3点の作品、白髪一雄の《Choryo (Jumping Dragon)》、サイ・トゥオンブリーの《Untitled》(1956)、ヨゼフ・アルバースの《Study for Homage to the Square》(1972)も出品された。白髪とトゥオンブリーの作品は、いずれも120万ポンド(約2億2000万円)で落札され、手数料込みの最終価格は149万ポンド(約2億7300万円)。アルバース作品は手数料込みで86万9400ポンド(約1億5900万円)だった。

サウジアラビアのアーティスト、アフメド・マータルの写真作品《Magnetism (Triptych)》は、5万〜7万ポンド(約915万〜約1280万円)の予想に対し、落札額は15万ポンド(約2億7500万円)、手数料込みで18万9000ポンド(約3億4600万円)となり、マータル作品の最高落札額を更新した。

一方、ルイーズ・ブルジョワの首のない金色の彫刻《Nature Study》の予想は80万〜120万ポンド(約1億4600万〜約2億2000万円)に達していたが、実際の落札価格は45万ポンド(約8億2400万円)、手数料込みで56万7000ポンド(約10億400万円)にとどまった。

全般に低調な中、今後への望みをつないだのがオークションの最後に登場したダミアン・ハーストの《Love Will Never Die》(1999)だ。赤い地に蝶が舞うこの作品の予想落札価格は25万〜35万ポンド(約4580万〜6400万円)だったが、開始直後から激しい入札合戦となり、3分後に42万5000ポンド(約7780万円、手数料込みで約9800万円)でハンマーが叩かれると、会場から拍手が起こっていた。(翻訳:清水玲奈)

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