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「オリガルヒにはもう売らないが、道徳家になるつもりもない」──ラリー・ガゴシアンのビジネス手腕とは?

世界屈指の影響力を持つ78歳のギャラリスト、ラリー・ガゴシアンの人となりに迫る記事がニューヨーカー誌に掲載された。1万7000字を超える文章の中で、ガゴシアンの興味深い「手腕」も紹介されている。

2023年5月、ガゴシアンで開催されたリチャード・アヴェドン生誕100年展にて。ラリー・ガゴシアン(右から2人目)。Photo: bfa.com/Aflo

法的に正しい取引ならば、売ってよし

この記事の執筆を手掛けたのは、オピオイド危機の原因を作ったとされるサックラー一族を徹底的に取材した著作で知られるパトリック・ラッデン・キーフだ。

キーフは、ガゴシアンオリガルヒに作品を売ってきたという記録に注目。ガゴシアンの過去の顧客には、EUから制裁を受けたオリガルヒのアートコレクター、ロマン・アブラモヴィッチがおり、2000年代には、アブラモヴィッチを顧客にするためにモスクワの元チョコレート工場で展覧会を開催したこともあったと指摘する。

しかし、2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、ガゴシアンはギャラリーのスタッフに「制裁を受けた人物には絶対に売ることはできない」とメールで通達したという。そこには、「リヒテンシュタインにある彼らの虚偽の会社に売ることで、ギャラリーを危険にさらすことになる」とも書かれていた。

ガゴシアンは、2000年代には他の大手ディーラーからオークションハウスまで、「誰もがオリガルヒに売っていた」と話す。ガゴシアンの倫理観の限界はどこにあるのだろうか? キーフがガゴシアンにその質問を投げかけると、ガゴシアンは「有罪判決を受けた殺人犯」には売らないだろうが、「軽い疑惑」を持つ相手には、売ることができると答えた。「法的に正しい取引であるならば、私は道徳的な判断をするつもりはない」とも話している。

「しつこい連絡」で仕事をつかむ

この記事では、ガゴシアンというビジネスマンの「手腕」にまつわる逸話が多く紹介されている。ギャラリースタッフの仕事に関する部分では、ガゴシアンは、連絡が取れない相手に対してひっきりなしに電話をかけ、場合によっては配偶者にまで連絡するという。ギャラリー内で、連絡に携わるスタッフは「ラリーの子どもたち」と呼ばれていた。

競合他社からアーティストを引き抜く行為については? という問いに対して、ガゴシアンは、ディーラーのデヴィッド・ツヴィルナーを引き合いに出してこう述べた。「ツヴィルナーは、ガゴシアンはフェアではないと主張し、自分の倫理観を私に押し付けようとしている」。ツヴィルナーもフェアと言い難く、過去に草間彌生をガゴシアンから引き抜いている。

最も興味深いエピソードのひとつは、ガゴシアン・ギャラリーへの所属のオファーを断った若手画家、イッシー・ウッドのものだ。彼女はキーフに、当時の交渉がどのように行われたかを詳しく話している。

彼女の話によれば、ガゴシアンは彼女のスタジオを訪れて作品を購入し、ニューヨークの自宅に飾ったという。その後すぐに彼女の作品価格が高騰すると、ガゴシアンはウッドに1日に何度もメールや電話で展覧会の開催を打診してきたという。

しかし、ウッドが彼の自宅を訪れた際に、ガゴシアンの後継者計画について質問したことがきっかけで交渉は決裂。席を立った彼女が化粧室でどう動くべきか考えている間にも、ガゴシアンは3回もメールを送り、「君が検討している他のギャラリーは、私が死ぬ前に廃業する可能性が高い」と伝えたという。彼女は結局、マイケル・ヴェルナーに入った。ちなみにガゴシアンはニューヨーカー誌に、「なぜ彼女があんなに横道にそれてしまったのか、私にはわからない」と語っている。

ウッドは、ガゴシアンに注目されたとたんに自身の作品価格が上昇した経緯について、キーフにこう言った。

「あれはインサイダー取引です。アート業界にはルールなんてないんです」

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