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  • 2023.08.08

ケンドリック・ラマーがヘンリー・テイラーとコラボ! 過度にコンピュータ化された社会におけるアートの価値を問う

数多くのアーティストが、巨大LEDスクリーンと最新テクノロジーを用いたイマーシブな舞台演出に傾倒する中、ケンドリック・ラマーは自身の最新のツアーで真逆の美意識を取り入れた。ラマーが最新ツアーのコラボレーターとして白羽の矢を立てたのは、ファレル・ウィリアムスもルイ・ヴィトンでのデビューコレクションでコラボしたLA在住のアーティスト、ヘンリー・テイラーだ。

ヘンリー・テイラーの作品《Fatty》(2006年)の複製の前でパフォーマンスするケンドリック・ラマー。Photo: Greg Noire

ケンドリック・ラマーが自身の最新ステージ(シカゴのグラントパークにあるロラパルーザで開催された)で白羽の矢を立てたのは、ロサンゼルスを拠点に活動する60代のアーティスト、ヘンリー・テイラーだった。ラマーは、他のアーティストのように最先端テクノロジーを詰め込んだイマーシブな舞台を演出する代わりに、テイラーによる、オーディエンスを思わせぶりな視線で見つめる黒人の絵を、自身が歌う舞台の背景に選んだのだ。ツアーでは、2006年から2018年に制作されたテイラーの絵画が合計6点採用され、それぞれのショーではうち4点が交互に紹介される。

ラマーとともに今回のツアーディレクターを務め、ラマーと彼の長年の仕事仲間デイブ・フリーとも親交のあるマイク・カーソンはこう話す。

「僕たちは巨大なLEDウォールなどに依存しない、背景幕を用いたローファイで古いブロードウェイのような方法がいいと考えていたんだ。ケンドリックとデイブは、いつもフェスやライブの常識を覆そうと試みてきた。僕はその姿勢に共感する。だって、フェスの参加者は1日8時間も、例え演出は少し変わったとしても同じ舞台を見ることになる。ケンドリックとは、どうすれば彼らの気分をリフレッシュさせてあげられるかを話し合ったんだ」

手の込んだ「Big Steppers Tour」をよりシンプルで直接的なものにしたいと考えていたラマーは、昨年、テイラーのスタジオを訪問した際にこのアイデアを思いついたという。「ヘンリー(・テイラー)はケンドリックのファンで、二人は互いを尊敬し、称賛している。コラボレーションできることになって、二人とも本当に興奮していたよ」と、カーソンは当時を振り返る。

カーソンは、ラマーとフリーと一緒に彼らが思い描いたアイデアのモックアップを制作し、テイラーと、彼の所属ギャラリーであるハウザー&ワースのチームは、このアイデアに合う作品を見繕ってラマーたちに提案した。その後カーソンがテイラーのオリジナル作品のクオリティに見合うプリント方法や背景膜の素材、運送、そして舞台に掲げる方法を考え、実現に至ったというわけだ。

ヘンリー・テイラーの作品《Fatty》(2006年)の複製の前でパフォーマンスするケンドリック・ラマー。Photo: Greg Noire
同じくケンドリック・ラマーのステージより。背景は、ヘンリー・テイラーの2012年の作品《Sweet》の複製。Photo: Greg Noire

カーソンはこう続ける。

「テイラーの絵は幅60フィート(約18メートル)、高さ34フィート(約10メートル)の背景幕に印刷されていたため、実物以上に鮮明にディテールが見える。ポリシルクは色が鮮やかで、持ち運べるほど軽くて安全な素材。強風に煽られてもケンドリックをステージから叩き落とすことはない」

ファレル・ウィリアムスによるルイ・ヴィトンのデビューコレクションでもフィーチャーされ話題になったテイラーの作品は、6月にバルセロナのプリメヴェラ・サウンドで開催されたラマーのショーでお披露目され、その後、シカゴのロラパルーザで開催されたショーにも登場した。秋には、北米とアジアでも多数のライブが開催される予定だ。

ラップで語られるラマーの唯一無二の物語を視覚的に伝えるツールとして、ヘンリー・テイラーの作品ほどふさわしいものはなかったとカーソンは語る。

「今、僕たちは過度に洗練され、様式化され、コンピュータ化されたものに囲まれて生きている。一方、ヘンリーの色使いやストーリーテリングは本当に印象的であり、そこには人の温もりや親しみやすさがある。ゆえに、彼の作品に描かれる人々の物語がよりリアルに伝わってくる。ヘンリーの芸術に、自分や家族の物語を重ねた人は、僕以外にもたくさんいるだろう」

from ARTnews

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