「NEW AUCTION」主催・木村俊介が語る「開かれたオークション」とは?【アートなキャリアストーリー#4】

アートにかかわる仕事を深堀りする連載「アートなキャリアストーリー」。今回は「ニューオークション」主催の木村俊介が登場。原宿を拠点に、アーティスト還元金制度を導入したオークションを設立した理由や、ギャラリーでの活動、今後の抱負などを伺った。

「NEW AUCTION」代表の木村俊介。

──まず、「NEW AUCTION」をたちあげた経緯を教えてください。

もともと日本国内のオークション会社に勤務していたのですが、そこで、現在僕がディレクターを任されているギャラリー、SAIの母体であるen one tokyoの代表と知り合いました。その頃は原宿のストリートカルチャーが盛り上がっていた時期で、僕自身も原宿のカルチャーが好きだったので、「原宿でオークションをやりたいですね」と話していく中で、実験的に「HARAJUKU AUCTION」というのを企画しました。その後にしばらくして「MIYASHITA PARKの中にギャラリーを作りたいから、うちにこない?」とお誘いをいただいて、SAIのコンセプト作りから参画することになりました。

2023年6月に原宿で開催されたNEW AUCTION 004当日の様子。Photo: EDSTRÖM OFFICE

ギャラリーからオークションへ

──SAI」は商業施設にあるので、普段アートに関わりの少ない人にもギャラリーという場所でアートを体験してもらえる新しい機会になり得ますね。

特に土日は多くの方に来ていただいています。商業施設の中にあるギャラリーなので、特定のジャンルやアプローチ、時代や作家に絞って一つの方向に展開していくよりは、企画ごとに360度違うことをやってみた方が面白いんじゃないかと考えています。SAIの初めての展覧会はKYNEさんにお願いしたのですが、その後はジョン·ハートフィールド、石川竜一、ヨーゼフ·ボイスシャワンダ·コーベットERICHAZESAIAKUNANAなど、非常に多様なアーティストの作品を紹介させていただいてます。

来場者の大半が、展示中の作家の事は何も知らずにふらりと立ち寄ってくれる人たちです。それでも、たまたま居合わせた作家の話を熱心に聞いてくれたり、写真を撮ったり、色々質問をしてくれたりと、訪れてくれる人は様々ですが、ここから何かを持ち帰ってもらえている実感があります。

こういった方々にもっとアートを所有してもらうきっかけを作りたい──それがオークションを立ち上げた理由の一つです。

──まずはギャラリーづくりからはじめて、それからオークションという流れだったのですね。

そうですね。SAIというギャラリーの特性を生かして、「アートを所有する」という行為につなげる「もうひと押し」ができるのではないか、という考えから、オークションがはじまりました。

ギャラリーの展示では一人の作家にフォーカスをしますが、様々なアーティストの作品を扱うオークションでは企画展とは異なる視点で、個々の作品の魅力をアピールして紹介できます。また、オークションにはイベント性もありますし、価格もオープン。それをSAIのような場所で開催すれば、アートを購入するという敷居を少し下げれるのではないかと考えました。

アンディ・ウォーホル《Flowers》の落札風景。Photo: EDSTRÖM OFFICE

開かれたオークションを目指して

──初回のオークションが202211月に開催されましたが、手ごたえはいかがでしたか?

原宿のBA-TSU ART GALLERYを会場に行ったのですが、凄く活気のあるオークションになったと思います。

日本では、オークションが文化として根付いていないため、あくまでせり市の延長というニュアンスが強いんです。参加者の大半は、専門知識や経験が豊富で、相場の動向を分析し、トレンドを追いかけているプロや業者の方々です。そのため、相場より安くなったら購入する、逆に高くなったら手を引く、といったように「オークション=商業的な取引」という雰囲気なんですよね。

一方、僕らがやりたかったのは、そうした従来のイメージとは異なる「開かれたオークション」です。そのために敷居はなるべく低くして、誰もが気楽に立ち寄れて、作品の魅力が丁寧に伝わるように意識しています。例えば、従来型のオークションだと、カタログに掲載されている作品の写真がすごく小さい事もあるのですが、その方が、目利きの方に「こんなにいい作品が埋もれている。誰も気づいていないんじゃないか」と思ってもらえて、逆に値段が高騰する事もあります。それはそれで面白いのですが、僕たちは、もう少し作品の背景にあるストーリーまで説明し、見せていく事を心がけています。

──Instagramでの発信からも、出品される作品の魅力が伝わってきます。

SNSでもそれぞれの作品のストーリーが伝わるよう努めています。ただ、まだ僕たちはスモールチームなので、やりたいことの3分の1ぐらいしかできていないのが現状です。オークション開催前には、SNSでの投稿とともに、SAIでの下見会で出品作品の魅力を発信しています。その甲斐あって、20236月に開催したNEW AUCTION 004の下見会の来場者は約2500人にのぼりました。その中にはアジアからの観光客もいて、入札への関心の高さが感じられました。予想落札価格が5万円ほどの作品も出品していたので、初心者の方にも買いやすかったと思います。

NEW AUCTION公式インスタグラムでは、積極的に出品作品の魅力を伝えている。

──存命のアーティストの場合、作品がオークションで売れたら売上の一部をアーティストに還元する「アーティスト還元金制度」を導入したのは画期的でした。国内では初となるこの制度を取り入れた理由は?

アートマーケットは作品を生み出すアーティストと、それをプロモーションし売り出していくギャラリー、作品を購入しサポートするコレクター、作品を後世に残す美術館、そして、作品を二次流通させるオークションやディーラーで成り立ちます。

ただ日本では、それらの間に分断を感じることが少なからずあります。アーティスト還元金制度がそうした分断を埋める一つのソリューションになればと思っています。作家に還元金が入れば、次の制作活動の資金に使うことができるかもしれませんし、遺族や財団であれば作品の修復や保全の元手として使えるかもしれません。

そんなふうに、アートを循環させることで、少しでも全体が良い方向に向かうようなきっかけになり、持続可能な循環が生まれれば良いなと思っております。

ただ、今は少ない人数で運営を行っているのでこれがなかなか大変で、こういった事も弊社単体ではなく何か機関が出来て制度として日本のアートマーケットに取り入れてもらえると良いなと思っています。

──特定のジャンルにこだわらず、独自の視点で出品作品がセレクトされているのも特徴だと感じます。

オークション会社には、ジャンルや価格帯など、それぞれの得意分野があります。一方、「NEW AUCTON」では、出品作品のジャンルや価格帯に幅を持たせました。そうすることによって、購入者目線で、より幅広い層に楽しんでもらえるオークションが実現できるからです。作品の価値はその価格だけで決まるものではありません。その点を踏まえつつ、バランスを考慮した上で、全ての出品作品の魅力が伝わりやすくなるよう工夫を心がけています。

──アートを買うという行為が、より身近になるといいですね。最後に、今後の抱負をお願いします。

日本にもアートをコレクションしている人はたくさんいますが、このオークションを機に、さらにその裾野を広げていくことが目標です。海外では毎週どこかでオークションが開催されていますし、犬の散歩がてらに参加する人もいるほどです。日本でも気軽にカタログを見てもらって、購入したアートを家に飾って楽しんで欲しい。アートをコレクションをすることは自己表現の一つであると思いますし、アートを身近な空間に取り入れるという事の面白さを、多くの人にもっと知ってほしいと思います。

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