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環境活動家がカナダの美術館で絵画に塗料を投げつける。「必要な報道がされないなら、やむを得ない」

カナダ国立美術館で展示されている、カナダを代表する画家トム・トムソン(1877-1917)の作品に、環境活動家がピンクの塗料を投げつける抗議行動をした。

カナダ国立美術館で抗議行動するOn2Ottawaのメンバー。Photo: Courtesy of On2Ottawa

この抗議行動は、カナダの環境活動団体On2Ottawaによるもの。フェイスブックに上げた映像には、28歳のカレブ・スエドフェルドがトム・トムソンの風景画《ノーザン・リバー》(1915)に塗料を投げつけ、膝をついて床に片手を糊付けした後、ポケットからスピーチ原稿を取り出す様子が映っている。

スエドフェルドは、今年カナダで発生した山火事により、4人の消防士が死亡し、数千人が避難、焼失面積は3700万エーカーにのぼることを引き合いに出して、こう言った。  

「化石燃料産業が芸術作品を破壊しています。私たちの地球は彼らの支配下にあり、政府は彼らの犯罪を止めません。美しい地球とこの芸術作品が、化石燃料産業の富裕層の懐を潤すために解体され、燃やされるのを世界各国が許していることにショックを受けています」

襲撃された《ノーザン・リバー》はガラスで保護されており、US版ARTnewsがOn2Ottawaの広報担当者ローラ・サリバンに確認したところ、使用された塗料は水性だという。

On2Ottawaは、自らを「カナダ政府に気候危機に対する緊急かつ有意義な行動をとるよう促すための、非暴力の市民による不服従団体」と説明している。同団体は、拡大する山火事に対処するため、カナダ連邦政府に5万人の消防隊員を擁する消防サービスの設立を要求。そして2年以内に、気候変動と生態系の危機に取り組むための法的拘束力を持つ市民会議の実施を望んでいる。

On2Ottawaの広報担当者サリバンがUS版ARTnewsに語ったところによると、8月29日現在、このグループのメンバーのうち12人が、オタワでの交通妨害に関連した罪で逮捕されている。サリバン自身も今月初め、トロントのランドマーク的看板にピンクの塗料をぶちまけて逮捕された。On2Ottawaのプレスリリースによると、「首都における抗議行動は、あと1週間は続く見込み」だという。

カナダ国立美術館は、この抗議は「残念なこと」であったが、《ノーザン・リバー》への実害はなかったと報告している。この絵画は、精密検査後すぐに再展示される予定だ。

美術館はまた、「美術館のスタッフと入場者、そしてコレクションの安全とセキュリティが最優先事項である」とし、警察とも連携しているという。

2022年以来、ヨーロッパ、カナダ、オーストラリア、アメリカの美術館や博物館で、著名な作品を標的にした環境活動家の抗議行動が続いており、これらは、逮捕、起訴、賠償請求にまで発展している。

一連の抗議行動を受け、2022年、美術館長協会は以下の声明を発表している

「当協会は、動機が政治的、宗教的、文化的なものであろうと、芸術作品への攻撃は正当化されないと常に明言してきました。アートは時間や国境を越えて、世界中の人々が表現してきた創造性を強調するものであり、私たちが共有している人間性を表現しているのです。いかなる目的であれ、芸術を攻撃することは、こうした絆を損なうものです。そのような抗議は誤った方向に向かうものであり、結果は手段を正当化するものではありません」

ペンシルバニア大学のある研究でも、著名な絵画を攻撃する抗議行動は、気候変動への取り組みへの支持を減少させることがわかっている。

On2Ottawaはこうした批判をよく理解しているが、美術館での抗議行動は、署名活動をしたり、議員に嘆願書を提出したりする抗議に比べて、驚異的な量のメディアに注目されるという。広報担当のサリバンは、「プロジェクトとして成功するために必要な報道がされないため、やむを得ず行うのです」と話す。(翻訳:編集部)

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