アートアタックが相次いだ一年。環境活動家らによる抗議行動を振り返る【2022年のアートニュースまとめ】
今年アート業界で起きたもっとも重大な出来事といえば、環境活動家によるアート攻撃だろう。「ジャスト・ストップ・オイル」をはじめとする環境活動団体は、気候変動問題に対する市民の認識を高めるべく、美術品への攻撃という手段をとったが、次第に行動が過激化。絵画への糊付けから、スープやオイルを投げつける事態にまで発展した。美術館長協会や国際博物館会議(ICOM)は抗議の声明を発表したが、環境活動家の行動は瞬く間に全世界へと広がった。
《モナリザ》にケーキをこすりつけた男を拘束。作品は防弾ガラスで無事。
ルーブル美術館で5月末、《モナリザ》がケーキでこすりつけられた。Photo: KLEVISL007 VIA AP
2022年5月29日、パリのルーブル美術館で、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画《モナリザ》にケーキがこすりつけられるという前代未聞の出来事が起こり、SNSで話題になった。幸いなことに作品は防弾ガラスに保護されていたため、損傷はなかった。
《モナリザ》5つの受難。東京国立博物館で起きた事件も
ルーブル美術館のモナリザ。Photo: Thibault Camus/AP
世界各地で美術館の展示品が損壊の憂き目に遭っている。日本でも、修学旅行中の中学生が美術作品を破壊したと報じられた。5月末にルーブル美術館で《モナリザ》にケーキがこすりつけられた事件は世界に衝撃を与えたが、この名画の受難は初めてではない。これまでに起きた盗難や損壊事件を振り返る。
環境活動団体ジャスト・ストップ・オイル(Just Stop Oil)がゴッホなどの名画に手のひらを糊付け!? 理由と目的に迫る
ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツでの直接行動の様子 Photo: Just Stop Oil
ロンドン・ナショナル・ギャラリーやグラスゴーのケルヴィングローブ美術館・博物館など、イギリス各地の美術館で、環境活動団体ジャスト・ストップ・オイルのメンバーによる名画の額縁に自分たちの手を接着剤で貼り付けるという行動が相次いだ。彼らの目的は何か、なぜ美術館を選ぶのか。取材を行った。
ウルティマ・ジェネラツィオーネのラウラがバチカン美術館《ラオコーン像》の台座に「糊付け」
ラオコーン像の前で抗議行動中の活動家たち。Photo: Ultima Generazione
8月18日、気候変動危機を訴えるイタリアの団体、ウルティマ・ジェネラツィオーネの活動家2人が、バチカンにある貴重な彫刻に自分の手を糊付けしたことが同団体のプレスリリースで明らかになった。
次なる標的はゴッホの《ひまわり》。環境活動家らの抗議が過激化
ゴッホの《ひまわり》にトマトスープを投げつけたJust Stop Oilの環境活動家2人。ロンドンのナショナル・ギャラリーにて。Photo: National Gallery
芸術作品を標的にした抗議活動がエスカレート。新たにターゲットとなったのは、ゴッホの《ひまわり》。環境活動家2人が歴史的名作にトマトスープを投げつけた。
リズ・トラス政権へのメッセージ? 環境活動家が抗議行動の理由を語る
TikTokとTwitterに投稿されたビデオで話す気候活動家のフィービー・プラマー。 Photo: Screenshot/Twitter
10月14日、環境活動団体ジャスト・ストップ・オイルの2人の活動家が、ロンドン・ナショナル・ギャラリーにあるゴッホの《ひまわり》にハインツのトマトスープを投げつけ、世界中で大きな物議を醸した。その1人が、抗議行動の理由を語る動画をTikTok(ティックトック)とツイッターに投稿、数百万回再生された。
モネの絵にマッシュポテト。ドイツで環境活動家の抗議行動
マッシュポテトを投げつけたモネの絵の前で抗議を行うレッツェ・ゼネラチオンの活動家。Photo: Letzte Generation
10月23日、ドイツで環境活動家がクロード・モネの絵にマッシュポテトを投げつけ、作品が汚される事件が起きた。14日にロンドンで起きた同様の事件に続く、気候変動と環境破壊への注意喚起を意図した抗議行動だ。
石油王ゲティの孫娘がジャスト・ストップ・オイルに巨額の寄付? 「クリーンエネルギーへの計画的な転換を」
ロンドン・ナショナル・ギャラリーで抗議行動中の環境活動団体ジャスト・ストップ・オイル Photo: National Gallery
アメリカの非営利団体、気候変動緊急基金(CEF)は、ゴッホの《ひまわり》にトマトスープを投げつける抗議を行った環境活動団体、ジャスト・ストップ・オイルに資金援助をしている。CEFの共同設立者の1人は、アメリカの有名な石油王の孫娘、アイリーン・ゲティだ。
環境活動家による名画攻撃、次はフェルメールの《真珠の耳飾りの少女》に頭とスープ
オランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館でヨハネス・フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》の前に立つジャスト・ストップ・オイルのメンバー。Photo: Twitter Video Screengrab.
10月27日、ジャスト・ストップ・オイルのTシャツを着た活動家が、オランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館に飾られているヨハネス・ フェルメールの名画《真珠の耳飾りの少女》にスープをかけた上、自分の頭を接着剤で貼り付けたり手を絵の横の壁に接着させたりした。
ジャスト・ストップ・オイルの活動家、オルセー美術館のゴーギャンの絵にスープをかけようとするも阻止される
オルセー美術館の外観。Photo: Edward Berthelot/Getty Images
10月27日、ジャスト・ストップ・オイルの活動家が、パリのオルセー美術館の絵画にスープを投げつけようとしたところ阻止されたとル・パリジャン紙が報じた。
ロートレックの絵画に血のり。ドイツの美術館でもアートへの攻撃
ベルリンのアルテ・ナショナルギャラリー Photo: Sean Gallup /Getty Images
10月30日、ドイツ・ベルリンの美術館で、ロートレックの絵画に血のりがかけられる事件が起こった。
なぜ環境活動家はアートを狙うのか。4人の有名美術館館長が問い直す、美術館の社会的意義
ドーハのイスラム美術館で開かれたパネルディスカッション「Museum of the Future: Between Aesthetics and Social Responsibility(未来の美術館:美意識と社会的責任の間で)」。Photo: Tessa Solomon/Artnews
モネの絵にドイツの環境活動家がマッシュポテトを投げつける事件が起きた数日後、カタールで4人の世界的美術館の館長がパネルディスカッションに登壇。なぜ美術館が抗議活動の格好の舞台となるのかについて議論が交わされた。
ゴヤの《着衣のマハ》に手を糊付け。スペインのプラド美術館でも環境活動家による抗議行動
プラド美術館のゴヤの名画に手を糊付けする活動家たち。壁には「1.5℃」の文字が。 Photo: Still from Twitter Video
11月6日よりエジプトのシャルム・エル・シェイクでCOP27(国連の説明では、「地球上のほぼすべての国々が参加する地球規模の気候サミット」)が開催されたが、その前日、スペインの環境活動家グループ「フトゥーロ・ベジタル(Futuro Vegetal)」が、美術館での抗議活動を行った。
ウォーホル代表作に殴り書き。続く環境活動家の抗議行動に美術館長協会が声明を発表
11月8日、オーストラリア国立美術館で行われた環境活動家による抗議行動の様子。Photo: Stop Fossil Fuel Subsides
11月8日、オーストラリアのキャンベラにあるオーストラリア国立美術館で、2人の気候変動活動家が、アンディ・ウォーホルの「キャンベル・スープ」シリーズに青いインクで殴り書きをした。
止まらぬ環境活動家の名画攻撃、世界の美術館館長90人超が非難
メトロポリタン美術館(ニューヨーク)の建物正面に展示されたワンゲキ・ムトゥの彫刻作品。Photo: Eddie Knox/©2021 Oxford Films
国際的な非政府組織、国際博物館会議(ICOM)が、90以上の美術館・博物館の館長が署名した共同声明を発表。美術品を標的とする環境活動家の行動を非難している。
クリムトの名画に黒い油。環境活動家の行為は「逆効果」とウィーンのレオポルド美術館館長が非難
ウィーンのレオポルド美術館で抗議を行った環境活動団体「最後の世代」。Photo: Courtesy Letzte Generation
美術品を標的にした環境活動家の抗議活動が続く中、今度はウィーンのレオポルド美術館でグスタフ・クリムトの絵に黒い油がかけられた。作品そのものに被害はなかった。
環境活動家、カナダの美術館で絵画にメープルシロップをかける抗議行動
11月11日、バンクーバー美術館で行われた気候変動活動家による抗議行動の様子。Photo: Stop Fracking Around
気候変動活動家による美術館での抗議行動が活発化する中、11月11日、今度はカナダのバンクーバー美術館で、2名の環境活動家がエミリー・カーの絵画《切り株と空》(1934)にメープルシロップをかけ、糊で手を壁に貼り付けた。