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ゴッホなどの名画に手のひらを糊付け!? 相次ぐ環境活動家の衝撃行動。理由と目的に迫る

  • 2022年7月25日
  • INTERNATIONAL

Text: Shanti Escalante-De Mattei

このところ、環境活動団体ジャスト・ストップ・オイルのメンバーが、ロンドン・ナショナル・ギャラリーやグラスゴーのケルヴィングローブ美術館・博物館など、英国各地の美術館で名画の額縁に自分たちの手を接着剤で貼り付けるという行動に出ている。彼らの目的は何か、なぜ美術館を選ぶのかといった疑問について取材を行った。

ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツでの直接行動の様子 Just Stop Oil

これまでに「接着剤で貼り付ける」直接行動の対象となった中には、ゴッホの《花咲く桃の木》(1889)やウィリアム・ターナーの《トムソンのアイオロスの竪琴》(1809)がある。ただし、どれも破損はしていない。

ジャスト・ストップ・オイルは、英国政府が推進する新しい化石燃料プロジェクトに反対している。彼らが発表した声明の中で、活動家のハンナ・ハントは、政府が「石油とガスに関わる新規認可を停止するという意味のある声明」を出さない限り、こうした行動は終わらないだろうと述べている。ハントは、ブライトン出身で心理学を学ぶ23歳の学生だ。

ジャスト・ストップ・オイルの直接行動に怒りを示す人もいる。しかしメンバーは、自分たちの行動は気候変動という現実を無視し続けようとする市民の注意を引くために必要だと言う。同グループで活動する若者、ルイス・マケクニーがサッカーの試合中にゴールポストに自分を縛り付ける行動に出た時は、罵声を浴びせられただけではなく、観客席から飛びおりてきた観客がナイフを振りかざすという場面もあった。


グラスゴーのケルヴィングローブ美術館に展示されたフィンセント・ファン・ゴッホ《花盛りの桃の木》(1889年)を巻き込んでの行動の様子 Photo:Just stop oil

ARTnewsはこうした動きについて、英国レディングを拠点とするエクスティンクション・レベリオン運動(*1)の創始者の1人、サイモン・ブラムウェルに電話で取材を行った。彼はジャスト・ストップ・オイルのメンバーが7月5日に行った活動に参加。その時は、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツでジャンピエトリーノの《最後の晩餐》(1520年頃)に手を貼り付ける行動が行われた。


*1 人間の生産活動によって生じる環境破壊や生態系全体の崩壊の危機に対して声を上げ、温暖化対策への政治的決断を促すために非暴力の直接行動を用いる社会・政治的な市民運動。

──市民的不服従(*2)の活動を始めた理由を教えてください。

きっかけは数年前のことです。私は自然教育の指導者で、手つかずの自然の中での開墾やサバイバル術、食料調達の方法、シェルターの作り方、自然とのつながり方といったブッシュクラフト(森などの自然環境での生活の知恵)を子どもから大人にまで教えていました。しかし、ここ数十年、自分の周りから自然が消えていることを感じていたんです。正直なところ、子どもたちの目を見ていると、もうこれ以上、消えゆく自然に彼らを触れさせることはできないと思ってしまった。ほとんどの人たちは、気候変動という現実に対して無知か無関心という状況です。この地球の若者たちのことを考え、できる限り多くの人々が非暴力的な市民的不服従の運動に参加することが絶対に必要だと思います。


*2 自らの良心に基づき、従うことができないと考える国家・政府の行為に、法律をあえて破ってでも非暴力的に抵抗するという思想と行動。

──なぜ市民的不服従を行う場に美術館という文化施設を選んだのですか?

政治は常に文化に追随します。だからこそ、私たちは文化施設が掲げた理想に対して責任を問う必要があります。そして、もう時間はあまりありません。地球で1.5度(摂氏)の気温上昇が破滅的状況をもたらすという事実に私たちは気づきつつあります。しかも、その状況は既に背後まで迫っているんです。もし、その気温上昇が2度になったら、地球上の20%は住めない場所になります。今こそ、この真実を伝えるために文化施設を巻き込んでいく時なのです。

──活動家たちを絵画に貼り付けるというアイデアはどこから生まれたのでしょうか?

中国の反対制派アーティスト、艾未未(アイ・ウェイウェイ)の作品《Dropping a Han Dynasty Urn(漢代の壷を落とす)》(1995)を見た時の衝撃を今も思い出します。それは、因襲を打破するという印象的な行動で、ある意味、私たちの活動のヒントになりました。そのうえで私たちは、こう考えたんです。政党間の果てしない対立や学校での銃乱射事件など様々な問題がひしめく中、どうしたら人々に私たちが住む地球には既に火がついているという事実に目を向けさせ、手遅れにならないようにすることができるのか、と。


アイ・ウェイウェイ《Dropping a Han Dynasty Urn(漢代の壷を落とす)》(1995) Courtesy Ai Weiwei Studio/Private Collection

──活動家たちが発表した声明文を読むと、同じような言葉が何度も出てきています。「私はアートを愛しています。この絵のことも愛しています。でも、地球と人間をもっと愛しています」。私たちはアートか気候変動への配慮か、どちらか一方を選択しなければならないのでしょうか。こうした声明文をどう捉えていますか?

これはとても挑発的で、こうした考え方には共感できない部分もあります。私は比較的恵まれた時代に育ちましたが、今、目の前にある状況を見ると、若者たちがそのような比較をしてしまうのも理解できます。彼らが言わんとしているのは、優先順位をはっきりさせ、地球上の生命の存続に関して現実的な目標を定める必要があるということです。

今後、気候変動が原因で何百万人もの人々が飢え、それによって大量移住が始まるでしょう。アートの美を否定するのではなく、今の私たちの優先順位は明らかにおかしいということを言いたいのです。自然を描いたアートに美を見出し、美術館やギャラリーで作品を鑑賞していながら、太古の森とともに消えゆく美や日々絶滅していく何百もの生物の種についての理解は広まらないままです。

──アートと種の存続を対立させるのは危険な道ではないでしょうか?

私たちは確実にファシズムへと向かっています。米国もそうですし、英国でも政治的右派が台頭しています。これは不平等が目に見えるようになると起きることです。欠乏の時代には、人々は権威に従います。だからこそ、私たちは文化的価値の核となるものに挑む必要があるんです。地球の破壊や人々の苦しみを無視し続けるのだとしたら、私たちは文明的である、文化的価値を持っているとは言えないからです。

──美術館や文化施設の気候変動への取り組みの現状について、どう考えますか?

これまでの関わり方や介入はうまくいっていないと思います。過去30年間の環境保護運動のように、失敗を認める必要があるでしょう。この夏ロイヤル・アカデミーがやっているような、気候をテーマとした生ぬるい展覧会ではダメなのです。展覧会の入口には「Lost Species(失われた種)」と記された旗が掲げられていますが、そんなたわ言よりも私たちはもっと先に進まなければいけません。これらの種は「失われた」わけではないのです。ソファーの裏に落ちているわけでも、靴下と一緒に引き出しの中にあるわけでもありません。有限のシステムの中で無限に成長していこうとする文化に破壊されてきたんです。

私たちが文化施設に求めるのは、今の時代の真実を認めるだけでなく、非暴力の市民的抵抗が今の私たちにとって最善の道であるという考えを支持し、そのうえで、この先数十年、文字通り地獄を見ることになる若者たちを支援することです。


7月5日、ロンドン・ナショナル・ギャラリーに展示されたジョン・コンスタブル《干し草置き場》(1821)を巻き込んでの行動の様子 Photo:Just stop oil

──ロイヤル・アカデミーでの直接行動の時、美術館のスタッフはどんな反応をしましたか?

最初は信じられないという様子で、不安な面持ちでした。でも、私たちが絵画を壊そうとしているのではなく、絵画を収めているオーク材の額縁に手を接着しているだけだとわかると、ほっとしたようです。その後は少し打ち解けて、私たちに賛同してくれる人もいました。必ずしも私たちのやり方を支持するわけではないものの、こうした行動の必要性には確かに賛意を示してくれていました。私たちは美術館の職員と会話をしたり、ある時は警備員の1人と「エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ(高すぎる山なんてない)」を一緒に歌ったり、それは本当にものすごく美しい光景でした。

──ジャスト・ストップ・オイルの活動は、必ずしも好意的に受け取られてはいません。こうした行動が、よけいマイナスイメージにつながるかもしれないと思いませんか?

そこが難しいところです。私は安全面について心配していますし、若者たちのことも心配しています。けれども、彼らは気候変動という、いわば自分たちに突きつけられた銃口を見つめながら、もはや失うものは何もないと感じているのです。

社会の一角には、目の前にある複雑な倫理的問題を受け入れ難く思う人たちが常にいます。英国の婦人参政権運動の参加者たちと同じです。彼らは殺害の脅迫や性的虐待、刑務所での残虐行為に直面してきました。アメリカの公民権運動とも類似点がありますよね。私たちが国家に立ち向かうのは絶対に必要なことなんです。そのことで暴力を受けたり、誹謗中傷されたり、嫌われたりする可能性があるのは分かっています。それでも、真実を伝え、気候変動の問題が重要であると行動で示すことが必要とされているのは明らかです。

──では、当分の間、この手の行動は英国の美術館で起こるということですか?

そうですね。そしてこれからは世界各地の施設でも起こるでしょう。

※7月22日、ジャスト・ストップ・オイルの行動に影響を受けたグループが、フィレンツェのウフィツィ美術館に展示されているボッティチェリ《春》(1477-82)の保護ガラスと手を接着剤で貼り合わせる騒動があった。それによる作品の破損はない。

(翻訳:岩本恵美)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年7月8日に掲載されました。元記事はこちら

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