アート・バーゼル・パリが開幕! 大手ギャラリーの戦略と期待をキーパーソンに聞く

フリーズ・ロンドンと間をほぼ開けずにスタートしたアート・バーゼル・パリ。両都市への出展を決めたのは、4大メガギャラリーを含め31軒。業界キーパーソンらに、パリへの期待を聞いた。

2024年アート・バーゼル・パリの会場風景。Photo: Courtesy Art Basel

フリーズ・ロンドン終了からたった3日、10月16日(現地時間)にアート・バーゼル・パリが開幕した。そのどちらにも出展することを決めた31のギャラリーにとって、その労は果たして報われるのか。もちろん、彼らがロンドンでの好結果がパリにも引き継がれることを期待しているのは言うまでもない。

フリーズ・ロンドン開催前にアート界で持ちきりだった話題といえば、「ロンドンの終焉とパリの台頭」だ。その根拠となったのが、今年に入り、ロンドンで開催されたオークション結果が軒並み最悪だったこと。調査会社のArtTacticが発表したところでは、今年上半期のロンドンでのオークション売上はほぼ3分の1まで減少したといい、パリがアート中心地としてロンドンを追い抜く準備を進めているという見方を後押ししたのだ。

しかし、オークションとアートフェアの結果は必ずしも連動するわけではないことを、今回のフリーズ・ロンドンは証明してみせた。ペースギャラリー社長のサマンサ・ルベルもUS版ARTnewsに対し、「5月のオークションは散々な結果だったが、6月にスイスで開催されたアート・バーゼルは大成功を収めた」と語っている。「オークションに比べてアートフェアは、ギャラリーとコレクター、美術館、アドバイザーなどをより密につなげる場所です」と続けるルベル率いるペースも、ロンドンとパリの両都市に参加するギャラリーの一つだ。

さて、「Paris +, par Art Basel」からシンプルに「アート・バーゼル・パリ」に改名してから初となる今回のフェアは、過去2回の会場となったグラン・パレ・エフェメールから5億ドル(約750億円)をかけて改装されたグラン・パレに舞台を移した。初参加の53ギャラリーを含め、42カ国から195の出展者(2023年は154軒)が集結している。そのうち65軒はパリが拠点だ。

アメリカのコレクターは「パリ好き」?

アート・バーゼル・パリの結果を決めるのは、最初の2日間のVIPデーだ。そこに誰が来場し、大金をつぎ込むか(もちろん、ギャラリーが語りたがらない前売り作品は考慮に入れていない)が鍵となる。

ガゴシアンの担当者は、パリでもロンドンと同じような大口の取引を見込んでいるという。前出のルベルは、「アメリカのコレクターはロンドンよりパリに傾いているのは間違いない」と語る。

ロンドンが拠点のセイディ・コールズも両フェアに出展するが、「フリーズ・ロンドンではより世界的な客層、パリではよりローカルなコレクターが多い」と見ている。とはいえ、彼女もルベル同様に、パリではアメリカのコレクターが強い存在感を見せるだろうと考えているようだ。

もちろんフリーズ・ロンドンでも、アメリカのコレクターがいくつかの大口取引を行い、そこには、アグネス・ガンド、カトリーヌ・ラグランジュ、ビル・マーレイなどのセレブやアート界の著名人も含まれた。その後、ロバート・ソロスとパメラ・ジョイナーのようにロンドンからパリに移動したコレクターも少なくない。

アート・バーゼル・パリに参加するリーマン・モーピンの共同設立者デヴィッド・モーピンは、「アメリカのクライアントの多くが(パリに)参加すると聞いていますし、アジアからも多くのコレクターが来場予定です」と語った。

ロンドンを拠点とするアートアドバイザーのアリアン・パイパー は、パリの「エレガンス」がロンドンとは異なるタイプのコレクターを引きつけるだろうと考えている。彼女は、「それぞれの都市には独自のエネルギーがあります。ロンドンは常にダイナミックで、パリにはその文化的歴史に結びついたある種のエレガンスがあります」と話し、「両都市には違った意味で不思議な魅力があります。 フリーズの強い存在感を目撃したあとで、パリがそれにどう勝てるのか。楽しみです」と期待を隠さない。

フェアは「ゼロサムゲームではない」

多くが「ロンドンとパリの覇権争い」の話題に辟易しつつあるが、パイパーも例外ではない。「ロンドンはブレグジット後も最も文化的に活気ある都市の一つです。多文化主義と長い歴史に支えられたロンドンは、世界のコレクターやアーティストにとって重要なアートハブとなっています。パリは確かに成長していますが、2つの都市は競合するというより補完し合うと考えています。それぞれがアート市場に独特の価値を提供し、コレクターはどちらか選ぶべきではないと思います」

ペースのルベルもまた、ロンドンの威信が揺らいでいるという見方を否定した。「先週、ロバート・ロンゴの展示をロンドンで開催しましたが、大変な盛り上がりでした。アートハブはゼロサムゲームではなく、多ければ多いほどいいのです」

ガゴシアンはどう考えているのだろうか? ギャラリーの広報担当者は、「パリは確かに上昇傾向にありますが、イギリスは世界第3位のアート市場であり、世界のアート売上の18%を占めています。それぞれが補完し合い、支え合う。ゼロサムゲームではないのです」

US版ARTnewsは複数のギャラリーに両方のフェアに参加する理由を尋ねたところ、ガゴシアンは、これまでもフリーズとアート・バーゼルの全フェアに参加していることから当然の判断だとして、こう続けた。

「フリーズは、私たちにとって重要なフェアです。なぜなら、私たちはロンドンにギャラリーを構えており、私たちのアーティストの多くがロンドンを拠点にしているからです。同様に、ヨーロッパに拠点を持つギャラリーとして、ロンドン以外の新しい機会を逃すことなく、私たちのアーティストの作品を宣伝し、新しいつながりを作ることは必須です」

パリではよりエクスクルーシブな作品を

今年のアート・バーゼル・パリでは、1900年以前に制作された作品を含む「極めて特異なキュレーション」を紹介する「Premise」部門が新設され、9つのギャラリーが参加している。また、もう一つの新しい試みである「Oh La La!」では、金曜日と土曜日の48時間、ギャラリーのブースにめったに見ることのできないエクスクルーシブな作品を展示する。

メガギャラリーを会場の後方に追いやり、中小ギャラリーを前面に持ってきたフリーズの会場構成とは異なり、パリではいつも通りペース、ペロタン、グラッドストーン、ハウザー&ワース、ホワイトキューブ、ガゴシアンが来場者たちを出迎える。

リーマン・モーピンは、フリーズ・ロンドンでビリー・チャイルディッシュの絵画14点(価格は5万ドルから10万ドル、日本円で約750万円から1500万円)を展示し、完売した。アート・バーゼル・パリでは、ルーヴル美術館の「ゲスト・オブ・ルーヴル」プログラムの一環として、2025年6月までルーヴル美術館にアトリエを構えるカダー・アティアの彫刻シリーズを展示している。ほかにも、エルヴィン・ヴルム、カリダ・ローレス、テレシタ・フェルナンデス、リザ・ルーの作品も出品する。

先週のロンドンではアメリカ人アーティスト、チャールズ・ゲインズの作品を展示したハウザー&ワースは、パリではルイーズ・ブルジョワ、フィリップ・ガストン、松谷武判、エド・クラークの作品を紹介する。

ペースは昨年のパリでロスコ作品を全面に押し出し大成功を収めたが、今年はアーティストのパウリナ・オロフスカをキュレーターに迎え、ルーカス・サマラス、ルイーズ・ネヴェルソン、キキ・スミスの作品を展示する。ルベルはオロフスカを招聘した理由を、「アーティストたちは常に先人の作品に対してユニークな視点を持っており、見慣れたものに新しい視点をもたらすことに長けている」と述べる。

ガゴシアンの広報担当者によると、同ギャラリーはパリでは初となる2部構成で挑むといい、ピカソ、ジャクソン・ポロック、ヘレン・フランケンサーラー、ルーチョ・フォンタナ、イヴ・クライン、トム・ウェッセルマンをはじめとする「卓越した現代作品」をグラン・パレで展示するほか、パリ近郊のギャラリー本部でも新作の現代作品を数点初公開する予定だ。

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