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石油王ゲティの孫娘がジャスト・ストップ・オイルに巨額の寄付? 「クリーンエネルギーへの計画的な転換を」

米国の非営利団体、気候変動緊急基金(CEF)は、ゴッホの《ひまわり》にトマトスープを投げつける抗議を行った環境活動団体、ジャスト・ストップ・オイルに資金援助をしている。実はCEFの共同設立者の1人は米国の有名な石油王の孫娘、アイリーン・ゲティだ。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーで抗議行動中の環境活動団体ジャスト・ストップ・オイル Courtesy National Gallery

アイリーン・ゲティの祖父は、米国の石油会社ゲティ・オイルの創業者、J・ポール・ゲティ。1976年に死去したとき、ゲティの資産は約60億ドル(現在の価値に換算すると300億ドル以上)だった。その後、84年にテキサコが101億ドルで同社を買収している。

一方、アイリーンは石油業界で働いたことはなく、アクティブな慈善活動家として2019年に気候変動緊急基金(CEF)を共同設立。化石燃料の使用にストップをかけようとする環境活動家や抗議団体の市民的不服従活動(*1)に資金援助をしている。

*1 自分の良心に基づき、従うことができないと考える法律や命令に非暴力的な手段で抵抗するという思想と行動。

アイリーンはまた、自らの名前を冠したアイリーン・ゲティ財団を通じて個人的に100万ドルをCEFに寄付している。同財団の目的は、「危機的な気候変動問題に取り組む団体や個人を支援する」というもの。

アイリーンの出自とCEFへの資金的関与は、今また注目を集めている。ジャスト・ストップ・オイルの活動家2人が、10月14日にロンドン・ナショナル・ギャラリーでファン・ゴッホの絵にトマトスープを投げつける抗議を行い、世界中で大ニュースになったことがきっかけだ。英労働党のスターマー党首も、この件を厳しく非難している。その後、活動家の1人、フィービー・プラマーがこの直接行動について説明する動画がさらに物議を醸した。

10月22日、アイリーンは英ガーディアン紙への寄稿で環境活動団体への資金提供における関与を認め、ゲティファミリーが化石燃料の採掘でいかに巨額の富を築いたかに言及しつつ、クリーンエネルギーへの計画的な転換を求めた。ニューヨーク・タイムズ紙も8月に、米国のもう1人の石油王ジョン・D・ロックフェラーの子孫、レベッカ・ロックフェラー・ランバートや、アイリーンの気候変動問題に関する活動を記事にしている。

しかしアイリーンの資金援助は、ジャスト・ストップ・オイルのような過激な環境団体への批判を増加させてもいる。こうした活動家が、貴重な芸術作品や、化石燃料産業から資金援助を受けているわけでもない美術館などへの破壊行為(作品は傷ついていないとはいえ)を続けているからだ。

ジャスト・ストップ・オイルは、《ひまわり》の一件以外にも、グラスゴーのケルビングローブ美術館やマンチェスター美術館、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツなどで、名画の額縁に自分たちの手を貼り付ける抗議を行ってきた。また、その活動に触発されたドイツの環境活動団体が、10月23日、ドイツのポツダムにあるバルベリーニ美術館でクロード・モネの絵にマッシュポテトを投げつける事件も起きている。

10月15日、CEFはアイリーンの資産への批判について、複数の声明をツイートした。声明では、住宅やHIV(AIDS)、環境といった問題への長年にわたる慈善活動を挙げ、「もしあなたが彼女の立場だったら、お金をどんな良いことに使いますか?」と問いかけている。

CEFはまた、10月には11カ国で「持続的かつ破壊的な抗議活動」が行われるだろうと発表している。アイリーンの資金援助や世間を驚かせるような活動家の活動に、いっそう注目が集まりそうだ。実際、ビートルズで有名なロンドンのアビーロードで通行妨害を行ったジャスト・ストップ・オイルの4人の活動家が、10月23日に逮捕されている。(翻訳:石井佳子)

 *US版ARTnewsの元記事はこちら。  

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