2023年のフリーズ・ニューヨーク、VIPデーに売れた作品と値段を大公開! 物故作家の作品が3億4300万円ほか
第11回目のフリーズ・ニューヨークが、5月17日のVIPプレビューから21日まで開催された。会場は、2022年に続きハドソンヤードのザ・シェッド。今年は68のギャラリーが参加し、オープニングからロンドンや香港のアートフェアを上回る活況となった。ニューヨークのアート市場の強さを印象付けた形だ。
フェア初日から、メガギャラリーのブースでは100万ドル(約1億3700万円)を超える有名アーティストの作品が売れ、中小のギャラリーでは新進作家の作品に買い手が付くなど、活発な取引が行われた。ギャラリーの申告を見ると、売上額上位にはペース・ギャラリーやデヴィッド・ツヴィルナーが名を連ねる。前者は、ニューヨークのブルックリンを拠点に活動する画家、ロバート・ナヴァのソロブースで3万~8万ドル(約410万〜1100万円)の作品を完売。後者では、スーザン・フレコンの5万~50万ドル(約685万〜6850万円)の作品が複数売れたという。
中小のギャラリーも健闘し、ロサンゼルスのシャトー・シャットはジュリア・ヤーガーの1万〜1万2000ドル(約137万〜164万円)の絵画作品を完売。ニューヨークの303ギャラリーでは、ダグ・エイケン、キャシー・ナモダ、ターニャ・メリル、サム・フォールズ、アリシア・クワデ、イェッぺ・ハイン、ロブ・プルイット、スー・ウィリアムズの作品が売れている。
以下、VIPプレビューで報告された売り上げのうち、特に注目された作品を紹介する(各見出しはアーティスト名/ギャラリー名の順に表記)。
1. Jack Whitten/Hauser & Wirth(ジャック・ウィッテン/ハウザー&ワース)
ハウザー&ワースのブースで関心を集めたのが、2018年に78歳で亡くなったジャック・ウィッテンの作品だ。ハウザー&ワースは、ウィッテンの知名度と作品価格を上げようと、積極的にプッシュしている。17日に行われたVIPプレビューでは、合計5点(絵画4点と彫刻1点)の作品を販売。最高額は、ベージュの背景にグレーの幾何学的な形をアクリル絵の具で描いた1976年の無題の抽象画の250万ドル(約3億4300万円)で、プレビュー開幕直後の数時間に100万ドルを超える価格で売れた数点の作品の1つとなった。1991年から2015年の間に制作された残り4点は、16万〜95万ドル(約2200万〜1億3000万円)で売れている。
ハウザー&ワース社長のマルク・パヨは、初日終了後の声明でこう述べた。「死後5年たち、ジャック(・ウィッテン)の作品は、驚くほど力強い展開を見せています。ジャックがここにいて、自分のアートが新しい世代のキュレーター、コレクター、研究者、そして一般の人々を魅了している今の様子を見ることができたらいいのにと思います。私たちにとっては胸に迫るものがありますし、彼のすばらしい作品をアメリカ有数の権威ある美術館や個人コレクションに収めることができるのは光栄なことです」
2. Pamela Rosenkranz/Sprüth Magers and Karma International(パメラ・ローゼンクランツ/スプルース・マーガス、カーマ・インターナショナル
スプルース・マーガスとカーマ・インターナショナルは、スイス人マルチメディアアーティスト、パメラ・ローゼンクランツのソロブースを共同出展した。ローゼンクランツは、主に光を扱うパフォーマンス、彫刻、絵画、インスタレーションを展開。今回出展した新作では鏡を使い、2021年にオーストリアのブレゲンツ美術館で開催された展覧会で探求したテーマをさらに発展させている。フリーズでは、2023年に制作した《Anamazon(Wish Things)》と《Anamazon(Amasses)》が、それぞれ7万5000ドル(約1000万円)でヨーロッパのコレクションに販売された。ギャラリーの担当者によると、その他の絵画、ドローイング、彫刻も、アジアやヨーロッパ、アメリカの個人コレクターに購入された(販売価格は非公表)。
3. Sam Lipp/Derosia(サム・リップ/デロシア)
ニューヨークのデロシア(旧称ボデガ)は、フリーズで創業12年以下のギャラリーを対象としたフォーカス部門に出展。34歳の画家、サム・リップの作品を8000〜2万ドル(約110万〜274万円)で販売した。目玉となったのは、2023年の作品《Joe (Flesh)》。リップの絵画にはクローズアップされた男性が繰り返し登場するが、ここでは金属の支持体にややぼけたタッチで男性の表情が描かれている。
4. Naudline Pierre/James Cohan(ノーリーヌ・ピエール/ジェームズ・コーハン)
ニューヨーク・トライベッカのギャラリー、ジェームズ・コーハンは、ノーリーヌ・ピエールのソロブースを出展。ブルックリンを拠点に活動するピエールは、昨年ダラス美術館で作品が展示されたのをきっかけに注目度が高まっている。ギャラリーの声明によると、ピエールの彫刻は未来を感じさせる建築的要素に「明確な物語性」が見られ、絵画においても「世界を構築する」ことへの関心が表現されているという。ピエールはこの後、ソーホーのザ・ドローイング・センターで、初の美術館個展が予定されている。ギャラリーによると、初日だけで4万5000〜13万ドル(約620万〜1800万円)の作品を完売し、うち1点はアメリカ国内の美術館が購入したという(作品タイトルおよび美術館名は非公表)。
5. Matthew Ronay/Casey Kaplan(マシュー・ロネイ/ケイシー・カプラン)
ニューヨークのギャラリー、ケイシー・カプランは、ケンタッキー州出身でニューヨークを拠点に活動するアーティスト、マシュー・ロネイの大型彫刻インスタレーション《The Crack, The Swell, an Ode》(2022)を30万ドル(約4100万円)で販売。全長7.3メートルのこの作品は、今回のフリーズで最大規模のもの。木材、エポキシ樹脂、スチールを用いてシュルレアリスムを思わせる有機的なフォルムを作り上げる、ロネイの特徴的なスタイルがこの作品にも見られる。なお、今回のフリーズ・ニューヨークに先駆け、今年1月までダラスのナッシャー彫刻センターで行われた個展でも、この作品が展示されていた。(翻訳:清水玲奈)
from ARTnews