「芸術とは私自身」──マドンナ、社会正義とアートに注ぐ情熱【アートを愛するセレブたち Vol. 15】

世界一流のエンターテイナーであり、社会的弱者に寄り添う活動家、そして美術史上における重要な作品を所有するアートコレクターでもあるマドンナ。これら3つの要素がどんなふうに繋がり、彼女をマドンナたらしめているのか。

2013年10月14日、ロンドンで開催されたセレブレーション・ツアー・ライヴでのマドンナ。Photo: Wikimedia Commons

「私は私自身で常に試作を繰り返しています。私にとって、芸術とは私自身なのです」

かつてこんなコメントを残したマドンナは、現在64歳。言わずと知れた世界のスーパースターであり、様々な社会変革に取り組んできた活動家としても著名な存在だ。同時に、彼女は1980年代にHIV/AIDS撲滅運動を最初に提唱したミュージシャンの一人であり、それ以外にもこれまでのキャリアを通じて女性やLGBTの権利向上、教育や児童福祉の拡充など、様々な方面で資金援助や啓発活動を展開してきた。そのモチベーションの根底に常にあるのは、「有名になるということは、スポークスパーソンとしての責任が伴うこと」というデビュー当時から揺るがぬポリシーだ。

彼女特有の大胆不敵な発言や挑発的なトーンはときにバッシングの対象にもなってきたが、確固たる信念のもと社会正義のために行動してきた彼女に惜しみない賞賛を送る人もまた多い。マラウィのピーター・ムタリカ大統領は彼女を「児童福祉親善大使」に任命し、AIDSプロジェクト・ロサンゼルス(APLA)や米国エイズ研究財団(amfAR)は彼女のエイズ撲滅運動への貢献を高く評価するなど、その圧倒的な発信力と行動力は世界的にも一目置かれている

美術史に残る作品を所有する収集家

ビープル《Mother of Nature(自然の母)》(2021) SuperRare

そんな彼女は、アートをめぐっても独自の存在感を放っている。2022年には、デジタルアーティストのビープルコラボレーションし、自身の全裸の出産シーンを描いたNFTアート三部作「Mother of Creation(創造の母)」をリリース。この売上(約62万ドル=約9000万円)は、女性や子ども支援をしている活動団体に寄付された。またアートコレクターとして、フリーダ・カーロがデトロイト滞在中に描いた世界に5点しか存在しない絵画のうちの1点を所有するなど、美術史上重要な作品を積極的に蒐集している。

マドンナが本格的なアートコレクションを始めるきっかけとなった、フェルナン・レジェ《Les Deux Bicyclettes》(1944)Oil on canvas Photo: Erich Lessing/K&K Archive/Aflo

マドンナが本格的にアートコレクションを始めたのは、1987年に100万ドル(現在の為替レートで約1億5000万円)で購入したフェルナン・レジェの《Les Deux Bicyclettes》(1944年)がきっかけだ。その後2013年に、彼女はサザビーズを通じて同じくレジェの《Trois Femmes à la Table Rouge》(1921年)を720万ドルで売却、その収益を自身が設立した「レイ・オブ・ライト財団」に寄付し、中東や南アジアの少女たちの教育支援に充てている。

また、自身が心酔するポーランド出身のアール・デコ画家、タマラ・ド・レンピッカについては、1990年の『Vanity Fair』誌のインタビューで「レンピッカ美術館ができるほど作品を所有している」と明かしており、LAにある自宅のリビングルームには、写真家アーヴィング・ペンが撮影したボクサーのジョー・ルイスのポートレートや、マン・レイによる「キキ・ド・モンパルナス」のヌード写真を飾っていることを示唆した。さらに2000年には、クリスティーズでピカソの《Buste de Femme à la Frange》(1938年)を約500万ドルで購入するなど、熱心な収集家ぶりを見せている

スティーブン・マイゼルによるマドンナの伝説の写真集『Sex』再販に合わせ、10月6日にニューヨークのクリスティーズで「Madonna x Meisel – The SEX Photographs」と題したオークションが開催予定だ。

行方不明の名画を所有?

20231月、そんなマドンナに向けてフランス・アミアン市のブリジット・フーレ市長が直接ビデオメッセージという形で異例の呼びかけを行った2028年の欧州文化首都開催都市への選出を目指す同市は、ジェローム=マルタン・ラングロワが描いたとされる《Diana and Endymion》の行方を捜索中だった。

1次世界大戦前にアミアンの美術館で公開されたのを最後に、その後所在記録が一切残されていないこの作品は、19世紀にフランス国王ルイ18世の依頼で描かれ、一時は第1次大戦中の1918年に爆撃で焼失したと見られていた時期があった。しかし、その後フランスのル・フィガロ紙がこの行方不明の作品のオリジナルもしくは複製が、1989年にサザビーズのオークションで130万ドル(現在の為替レートで約1億9000万円)で競り落とされたこと、そしてその落札者がマドンナであることを報じた。さらに、2015年に彼女の自宅で美術コレクションを取材した「パリ・マッチ」誌の記事に掲載された写真の中に《Diana and Endymion》が写っていたことから、同市は2015年時点で彼女が所有しているのは間違いないと断定し、今回のビデオメッセージでの貸し出し要請に至った。しかしながら、現段階ではマドンナが今もこれを所有しているのか、そしてこの絵が本当にアミアン美術館から紛失したオリジナルなのかもわかっていない。かつてデロイト美術館からフリーダ・カーロの作品の貸し出しを要請され、断っているマドンナ。もし彼女が本当にラングロワの作品を所有しているとしたら、果たして答えは「Oui」か、それとも「Non」か──。

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