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  • 2023.09.29

オークションで高まるアジア人気。北斎の浮世絵が約4億円、李氏朝鮮の白磁が5億円超

オークションではでは往々にして、アジアコレクターの動向ばかりが注目され、日本韓国のアート市場自体が好調さを保っていることは見逃されがちだ。9月にニューヨークで行われた秋のアジア・ウィーク中の競売では、韓国と日本の美術品2点が億単位の高値をつけた。

アジア・ウィークに合わせて開催されたサザビーズのオークションで、360万ドル(約5億3000万円)の値が付いた朝鮮王朝時代の月壺。Photo: Courtesy, Sothebys

幅広いコレクターに人気の月壺

高値で落札された2点のうち1つは、朝鮮王朝時代(1392-1910)の白磁の大壺。胴が丸く張ったこの壺は月壺(Moon Jar)と呼ばれ、「Everything is Transient」と題されたサザビーズの1点売りセールで、手数料込み360万ドル(約5億3000万円)という高値で落札された。ちなみに、今年5月にはクリスティーズで、これと同時代のやや大ぶりの月壺に450万ドル(約6億7000万円)もの値が付いている。これは、ニューヨークの邸宅が買えるほどの金額だ。

月壷の高騰に象徴されるように、近年はアジアの伝統美術全体の価値が高まっている。にわかには信じられないという人も、K-POPのスーパースター、BTSのリーダーであるRMの最近のコレクションを見れば納得するだろう。2019年にBTSのツイッターアカウントには、RMが床に座って韓国の著名な陶芸家クォン・デソプの巨大な月壺を胸に抱いている写真が投稿されている。

クォンのほかにも、カン・イクジュン、ジェーン・ヤン=デンヌ、パク・ヨンスクといったアーティストが、月壺の制作をきっかけに知名度を高めている。月壺は何世紀も続く伝統的陶芸だが、その制作は非常に難しく、現代の作家が作れるのは年に10個程度だという。

月壷はもともと、穀物や液体を入れたり花を生けたりするために官窯の職人が作ったもので、サザビーズのアメリカ・ヨーロッパ地区中国美術担当責任者、アンジェラ・マカティアによると、高さが少なくとも40センチ以上あるものでないと目利きには好まれない。また、専門家によれば、朝鮮王朝時代の月壺で現存するものは非常に少なく、おそらく数十点ほどと見られている。

アジアの美術品や陶磁器は、従来アジア地域のコレクターが収集してきたが、月壺は複数のカテゴリーに当てはまるため、世界中のコレクターを惹きつけているとマカティアは指摘する。具体的には、抽象美術、古美術、デザイン分野のコレクターたちが、それぞれ月壺に興味を示しているという。マカティアの説明によると、「まっさらで完璧な白さではなく、窯の中で起こる錬金術ともいうべきキズや色むらなどの要素によって、1点ずつに人間的な部分や個性があるところが魅力」なのだ。

サザビーズでは、今回出品された月壺の予想落札価格を「300万ドルを超える」としていたが、オークション開始からたったの3分半後、唯一の入札者に360万ドル(約5億3000万円)で落札された。

葛飾北斎《富嶽三十六景・神奈川沖浪裏》

北斎の人気作品は最高予想落札価格の2倍以上に

一方、クリスティーズでは、葛飾北斎の《富嶽三十六景・神奈川沖浪裏》2点がオークションにかけられた。2022年3月に同じ浮世絵の別の1点がクリスティーズに出品され、予想落札価格50万~70万ドル(約7400万〜1億円)をはるかに上回る276万ドル(約4億円)で落札されたことから、今回も大きな期待が寄せられていた。結果、2点の片方は最高予想落札価格70万ドルの2倍を上回る170万ドル(約2億5000万円)で落札。やや質が劣るもう1点は25万2000ドル(3700万円)で、最高予想落札価格をわずかに上回った。

浮世絵の価値は、紙や刷りの状態、板木のひび割れなど無数の要素を考慮したうえで決まる。クリスティーズのバイスプレジデントで、スペシャリスト・韓国美術責任者の村上高明は、今年3月に出品された《神奈川沖浪裏》について、「過去にクリスティーズのオークションに出品されたこの浮世絵の中で、最も初期に刷られたものだと考えられる」とUS版ARTnewsに語った。

今回170万ドルの値がついた《神奈川沖浪裏》について村上は、板木の損傷に起因する色抜けが多少見られたものの、全体には鮮明な状態を保っていたとしている。25万2000ドルで落札された方は、中央に折れ目があることに加え、版木が摩耗していたためシャープさに欠けていた。

北斎が《神奈川沖浪裏》を制作した当時、この作品は絶大な人気を博した。しかし村上によると、現存する数を正確に把握するすべはないものの、200点ほどしか残っていないと見られる。なお、クリスティーズは、過去にオークションで落札された《神奈川沖浪裏》の価格記録で、世界7位までを独占している。

そして《神奈川沖浪裏》には、価格やコンディションだけでは語りきれない魅力がある。この浮世絵は、月壷と同様、何年もかけて世界的な人気を築き上げてきた。大波が船に覆いかぶさるように立ち上がり、遠くに富士山が見える印象的な絵柄は、1万数千円のレゴセットやドクターマーチンのブーツなどに商品化されるなど、大衆文化にまで浸透している。

村上によると、3月のオークションで記録が塗り替えられて以来、《神奈川沖浪裏》を所有する数人の顧客からクリスティーズに相談が持ちかけられたという。来年3月のニューヨーク・アジア・ウィークの期間にクリスティーズは富嶽三十六景の全作品46点を出品する予定だが、そこでコレクター間での北斎人気の真価が明らかになりそうだ。46点中の1点である《神奈川沖浪裏》には、数百万ドルの値がつくと見積もられている(予想落札予想価格は未定)。

両オークションハウスとも、買い手の身元についての情報は公開していない。秋のニューヨーク・アジア・ウィークでのセールは、クリスティーズでは9月28日まで、サザビーズでは9月26日まで開催された。(翻訳:清水玲奈)

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